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ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD LAST CHAPTER PART V 再生

前スレッド No.144
60 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:26:28 DXjf..D3Q.5iAv
ACE COMBAT 5 INVISIBLE THE GOD LAST CHAPTER PARTV RENOVATIO
エースコンバット 5 インヴィシブル・ザ・ゴッド 最終章・第3部  再生

まえがき
かなりの長さでしたが、ここで終わります。 いろいろと要素を詰め込んだ結果、ここまでのボリュームとなってしまっているのかもしれませんが、それは書き出したいストーリーがそれだけあるということなのかもしれません。 (とはいえ、自分でも長すぎる気がする 今度はもっと短くしよう)


―――――The Last Chapter ”INVISIBLE THE GOD” 最終章 インヴィジブル・ザ・ゴッド
#98 『再来、ユークトバニア共和国の特殊部隊』  Advent:The Republic Command
#99 『アドラー』  Adler  ―Wing of the Grander I・G―
#100 『審判:目に見えない神』 JUDGMENT:THE INVISIBLE THE GOD
#101 『壁なき世界』 A World With No Walls
#102 『ラグナロクの始まり』 Introduction of Ragnarok
#103 『再臨:目に見えない神』  Advent:The Invisible the God
#104 『昇華:目に見えない神』  Sublimation:The Invisible the God
#105 『混迷の世界』  World of Chaos

―――――PartU ADHOC CARMINA アドホック・カルミナ
#106 『混迷の終わり そして、最後の旅立ち』 End of Chaos And Final Odyssey
#107 『神の子羊』 Agnus Dei
#108 『覚醒:目に見えぬ神』 Awakening:Invisible the God
#109 『最後の決戦』 Armageddon
#110 『約束の空間』 Promised Place
#111 『ACES』 ACES
#112 『暁のシーニグラードの空、二つの翼は冬の嵐と共に戦に終幕を下す』 “Winter Storm”

―――――PartV RENOVATIO リノヴァティオ
#113 『ジ・アンサング・ウォー』 “THE UNSUNG WAR”
#114 『対決』 ”ZERO”
#115 『謳われぬ英雄』 ”Unsung Hero”
#116 『想いは引けない。 勝利を求めよ』 Seeking Victory
#117 『最後の別れ』 Last Goodbyes
#118 『決着』 End Game
#119 『戦いの終わりに』 At Wars End
#120 『エピローグ』 Ending
61 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:28:03 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第113話 『功績を謳われぬ戦い』  “THE UNSUNG WAR”
 ―――――Location:Yuktobania Cinigrad Dec 31,2010 ユークトバニア・シーニグラード上空2010年12月31日

 東の空から太陽が顔を見せ始め、空が徐々に明るくなる。目にかすかに見える粉雪の降る中、スコットの赤いヴァイパー・ゼロとバクーニンの青いアドラーはミサイルの射程外で向かい合っていた。まるで少しでも時間を稼ぐかのように。

 「<今更すべてを捨てて逃げられるか! スコット、お前は生き恥に耐え抜く自信はあるか?逃げて生き残るぐらいなら、有終の美を飾るべきだ>」

 確かに逃げて生き残り、周囲から腰抜けといわれ続けるのは辛い。しかし、無意味に死ぬのもどうかと思う。彼は一体何を求め、何をしようとしているのか。

 「バクーニン!もっと理解できるように言ってくれ! 何故君はまだ戦い続ける!?オーレッドを壊滅させてどうする気なんだ! ハウエルの企みは阻止しておいて、なぜこんなことを!これじゃ意味がないじゃないか!」

 共にハウエルを倒し、全人類と世界の浄化を防ぎ、平和への道をつむいだバクーニンだが、今彼は灰色の男たちの一部として新たな脅威として君臨している。 彼がここで手を引いてくれれば、それで全ては終わる。スコットはそう信じて説得を続けるが……

 「<俺はもう後戻りできない所にまで踏み込んでしまった。スコット、俺と戦え。このままSOLGとV2をオーレッドに落としていいのか? これが脅しやハッタリだと言うのなら、そちら側のAWACSに聞いてみろ>」

 バクーニンは既に空中管制機サンダーヘッドが空にあることを知っていた。サンダーヘッドが空中にいる理由は哨戒飛行やそんなところだろう。 無断で出撃して少々気まずいが、スコットはバクーニンの言うことが真実なのかをサンダーヘッドに問い合わせて確認した。バクーニンの言うことは事実だった。そして今、SOLGの迎撃に向かったラーズグリーズはベルカのアグレッサー。オヴニルとグラーバクと交戦状態にあった。

 「<言っておくが、俺が握っているのはSOLGのコントロールじゃない。SOLGのレールガンの安全装置だ。 仮にラーズグリーズによってSOLGが破壊されても、その地点でSOLGに搭載されたV2MIRVをオーレッド向けて射出させる。 つまり、俺を止めることがオーレッドを救うことに繋がる>」
62 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:28:21 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第114話 『無へ』  “Zero”

 彼を落とせばレールガンの安全装置は解除されず、V2がオーレッドに当たることはない。SOLG本体はラーズグリーズがどうにかしてくれるだろうが、スコットは正直バクーニンを討ちたくない。無論、バクーニンもそのことを承知だからこのことを打ち明けたのかもしれないが。

 「君は馬鹿だ。そんなに死にたいのか!?」

 「<臆病者の腰抜けになるぐらいならな。 ―――ハウエルの計画は阻止した。もう思い残すことはない>」

 両者とも互いの機体を捕捉。ミサイルロック可能な距離まですぐだろう。

 「<来い! スコット!>」

 二人は同時にミサイルを発射。互いに回避し、旋回してまたヘッドオン状態に。

 「サンダーヘッドからムスタング。知ってのとおり現在オーシア首都オーレッド向かってSOLGが落下しつつある。外部からではV2を装填したレールガンに直接ダメージを与えることが出来ないと判明した。SOLGそのものはあちらで対処するが、V2を阻止できるのはムスタング。お前だけだ」

 スコットのヘルメットに内蔵されるヘッド・マウント・ディスプレイに移るのは1機の赤い戦闘機アドラー。ロックオンを確認すると、スコットはXMAAを発射した。中距離対空ミサイルは空を飾る粉雪の中を真っ直ぐアドラー向かって飛んでゆく。だが、バクーニンは難なくとそのミサイルを避けて見せた。流石にそう簡単にはいかない。

 「<俺には命を捨ててでも守るべき物が存在する。スコット、お前にも同じようなものがあるだろう?それを守るためだったら、お前はどこまで自分を犠牲に出来る?>」

 アドラーのウェポン・ベイが開き、4発のミサイルが放たれた。スコットは上昇しつつチャフ・フレアを駆使して何とかミサイルをやり過ごすと、機体を水平に戻して側面へとミサイルを発射した。予期せぬ方角からのミサイルはバクーニンに驚きと直撃弾を与えた。
63 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:28:47 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第115話 『アンサング・ヒーロー』  “Unsung Hero”
―――――Location:Yuktobania Cinigrad Dec 31,2010 ユークトバニア・シーニグラード上空2010年12月31日

 「<やるな、スコット。 だが、その程度では俺を止められないぞ>」

 続けてスコットは背後から機関砲で銃撃するが、バクーニンはまるで後ろに目があるかのように正確に攻撃を見切り、回避してゆく。

 「こちらサンダーヘッド。敵機体の解析を完了した。 機種名はADF-02。コードネームは “アドラー”  この機体は同機種の「ファルケン」と呼ばれる戦闘機の攻撃機使用だ。搭載されるCOFFINシステムには死角が存在せず、空中戦では圧倒的優位性を有する。更に空間制圧用の散弾ミサイルを装備し、火力面でも現存の戦闘機を超越する機体だ」


 距離をとり姿勢を立て直す両者。


 「―――アドラーは防護シールドを展開しており、並みの攻撃では立て打ちできない。シールドが解除されるのはミサイル発射時のみだ。よって、ミサイル発射時を狙ってアドラーを攻撃、撃墜しろ。 ムスタング……いや、ヘルヴォルの守護神、武運を祈る!」

 ミサイルの発射時を狙う。正直無茶な話だ。だが、やるしかない。シールドが消えるミサイルの発射時を狙うとなると、相手がミサイルを使用する状況に持ち込まなければならない。そうなると勿論こちらがミサイルの攻撃を受けることになるので、かなり危険な手段だ。その上で攻撃を加えるとなると、とるべき手段はひとつ。

 「<やはり正面から来るか。 いいだろう、受けて立つ!>」

 ヘッドオン状態で接近する二人。バクーニンは普通に戦えるが、スコットは相手がミサイルを撃つためにウェポン・ベイを開き、シールドが停止しているところを狙わなければならない。 相手はターミネーターのように後方へのミサイル射出を行わないので、相手にミサイルを使わせるには正面に出なければならない。つまり、互いに真正面から。ヘッドオンで迫らないといけないのだ。

 「SOLG。オーレッド激突まであと50マイル。 ムスタング、お前しかいない。絶対にSOLGのレールガンを発射させるな」
64 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:33:25 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第116話 『引けない想い』  Seeking Victory

 アドラーは風車のような回転式の武装ラックを内蔵し、使用する武器を外部に出してそこから発射する。言い方を変えるとウェポン・ベイを閉じている間でなければシールドは展開できないというわけだ。だが、こんな人間離れしたことをやり遂げられるのだろうか?

 「<――躊躇うなスコット! この腰抜けが!>」

 スコットは何度か攻撃を加えたが、うまい具合に攻撃を命中させることが出来ない。命中した攻撃もウェポン・ベイが閉じ、シールドを展開した状態のアドラーにはまったく無意味であった。だが、実際のところスコットの技量を考慮すれば、多少強引に攻めれば不可能でもない。

 「バクーニン! 僕は……大事な仲間、皆を守るためにできる限りのことをしたい! でも、それを阻もうというなら…僕は君を撃つ!」

 迫りくるミサイルを振りほどき、スコットの機体はバクーニンのアドラーにヘッドオンした。 マーシャル大佐を殺めた彼の罪を許したり忘れる訳ではないが、彼を始末しても何も変わらない。だが、そうしなければSOLGに内蔵されたレールガンがV2をオーレッドに撃ち込んでしまう。スコットにはもう、彼を墜とすしか選択肢が無いのだろうか。

 「SOLG、オーレッド突入まであと20マイル! 急げ大尉!」

 距離が迫り、ミサイルの射程に入る。アドラーの唯一の弱点であるウェポン・ベイの開放時を狙うには、相手の懐に真正面から飛び込まなければならない。これは非常に危険な上、成功確率も低い。ピラニアで埋め尽くされた水槽の中から、素手で水温計を回収するようなものだろう。だが、これしか手段がない。

 「……バクーニン!僕は自分の思念を貫く! 君には負けない!」

 アドラーから放たれたミサイルがスコットの正面から迫る。スコットはそのミサイルをバレルロールにて寸前で回避し、一気に懐に飛び込む。それに対し、アドラーは次のミサイルを発射ポジションにスダンバイさせていた。その気になればウェポン・ベイを閉じてシールドを展開できるかもしれないが、バクーニンは逃げるつもりはないらしい。
65 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:33:49 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第117話 『最後の別れ』  Last Goodbyes

 「<どうしたスコット!? 撃たないのか!? 俺だってむざむざ墜とされるわけにはいかない!お前が撃たないのなら、こちらから行くぞ!>」

 スコットは非常にためらっていた。当たり前だ。かつての友を何故討たなければならないか。だが、それに負けないだけの引けない思いも存在した。オーレッドをSOLGから救うこと。自分が今までに築きあげてきた絆や関係を守り通すこと。

守るべきものを護る為に、彼は引き金を引いた。


 「―――ミサイル命中! 敵機、大破!」

 ミサイルは命中したが、堕ちていない。致命傷を与えたが、アドラーはまだ飛行を続けている。どうやらもう一度攻撃して止めを刺さなければならないようだ。だが、手負いの相手を。しかも友人に追い討ちを加えるのはかなり辛い。 スコットは黒鉛をはきながら飛行を続けるアドラーの背後に着く。

 「<―――これで全部終わる。いや、終わらせてくれ、スコット>」

 彼の言葉からは、思い残すことはなく、あとは死を待ち望んでいるかのように聞こえた。

 「……バクーニン、ベイルアウトを! 君が死ぬ必要がどこにある!?」

 この勝負の勝敗はついている。相手は手負いで、もうまともに戦うことはできないだろう。もうバクーニンも理解してくれないだろうか。やはり、スコットは彼を殺すことを受け入れられない。

 「<まだ判らないのか? いや、仕方がないか…… 白状しよう。 実はな、レールガンのコントロールシステム・ライフラインは俺の生命反応とリンクしている。俺が生きていれば、レールガンは作動する。アドラーを破壊しても、俺が生きていれば同じことだ。 それ以前に、このアドラーにパイロットを射出する機能は存在しない>」


 ―――結局、撃つしかないのか
66 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:34:23 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――――118話 『決着』  End Game
―――――Location:Yuktobania Cinigrad Dec 31,2010 ユークトバニア・シーニグラード上空2010年12月31日

 「SOLG、オーレッド突入まであと10マイル! 大尉、撃つんだ! オーレッドを壊滅させるな!」

 空中管制機サンダーヘッドの言うことは適切だ。 撃たなければ。

 「<モタモタするな!撃て!スコット!>」

 手負いの友人に止めを刺す。これほどの苦難があるだろうか。今まで多くの難を乗り越えてきたが、最後の最後にはとてつもない苦難が待ち受けていた。

 「<殺れ!>」

 黒鉛をはき続けるアドラー。それを操縦し、撃てと叫ぶバクーニン。引き金にかかる指。ロックオンが完了していることを表示しているマーカー。そして困惑。それが今現在のスコットのすべてだった。また、彼は自分自身でそれに終止符を打たねばならない。

 そして、スコットはミサイルを発射した。

 「<変わったな…>」


 アドラーは火を噴いて地上へと堕ちて行く。その姿は天国へも地獄へも向かうように見えた。アドラーのボディからたびたび出るプラズマ破裂は、粉雪にまぎれても目立つ。

 「<―――これで、全部終わりだ。 ハウエルを阻止し、ベルカの野望も潰えた。俺ももう思い残すことはない。 スコット。またな>」

 その交信を最後に、彼からの通信は無かった。アドラーは空中で爆発。分解し、レールガンの制御装置も破壊されただろう。


 「こちらサンダーヘッド。 ヘンダーソン大尉、よくやった。目標は完全に撃破された。帰等せよ。地上で大尉の帰りを待つものがいる」


 白い空の中、スコットの機体は緩やかに旋回して飛行場へと向かった。
67 マーシュ 2007/03/31 Sat 01:34:58 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第119話 『戦いの終わりに』  At Wars End
 ―――――2011 Osea Oured 2011年 オーシア・オーレッド

 スコットとバクーニンの戦い、戦争の終結から数週間の時が経過した。表向きにはベルカによる陰謀で互いに疲弊したオーシアとユークトバニアだが、その第3勢力であるベルカの裏には第4勢力であるハウエルの存在があったことを知るものは少ない。そのハウエル自体については、ユークでの戦闘中に戦死したこととなっており、実際にハウエルとの戦闘に参加した部隊の生き残りからは疑問が出ている。

 だが、一番ハウエルに近く、真相を知るバクーニンはもういない。結局、ハウエルに関してはほとんどが謎のままだ。そして、バクーニン自体も。

 このベルカ事変。いわゆる環太平洋戦争は「ラーズグリーズ」によって終結へと導かれた。だが、この部隊は表向きには正体不明で、非公認の部隊だ。公式な部隊としては、マーシャル大佐、スコットが指揮した「ガーディアン・イーグルス」「ガーディアン・オブ・ヘルヴォル」の両方の“守護神”による活躍が目立っている。 とはいえ、スコットらはラーズグリーズのように直接戦争を終結に導いたわけではない。最大の功労者はラーズグリーズだ。

 ハウエルの件も謎が多く、事実上人類を救ったスコットらの活躍が称えられることはあまり多くなかった。ただ、その“謳われぬ戦い”とは別に、ユークトバニアの大艦隊が襲来した際にはオーシア首都オーレッドを防衛し、その後はユークトバニアでハウエルから首都シーニグラードを。両国の首都を護ったことは非常に評価されている。まさに、両国から見れば守護神であった。

 また、スコット達にはそれなりに身近だったラーズグリーズ部隊だが、現地点で入手可能な情報は非常に少なく、戦後はその消息は隠されているらしい。表向きには彼らが第3艦隊の消ケストレルと合流する直前でその消息が途絶えているようだ。 ほかにも多くの謎を残すこのベルカ事変だが、ハーリング大統領は近い未来にこの全ての事実を公開すると決定したそうだ。


 ちなみに、それまでスコットは知らなかったことだが、「ヘルヴォル」とは童話『王子様の届かぬ思い』に登場する守護神から来ているらしい。彼は一通りこの本に目を通したが、内容は非常にわかりやすいものだ。

 “ある大国の王子様が小さな国の姫君に想いを寄せていたわけだが、国家間での問題上その姫君と会うことはほぼ不可能だった。 だが、王子は姫君にどうしても自分の気持ちを伝えるべく城から抜け出し、たった一人でその小国へと向かう。だが、その矢先大きな戦争が勃発し、旅路を進んでいた王子はいつの間にかどこかの軍に捕まり、少年兵として戦争に参加していた。戦争は長引き、王子は姫君に会うことを諦めかけていた。だが、その王子のいる部隊が敵軍に包囲されてしまい、全滅も時間の問題となっていた。王子はここで死ぬと確信したが、そこである英雄に出会い窮地を脱出。その英雄こそが「ヘルヴォル」であり、そのヘルヴォルの活躍により戦争は終結。王子は見事生き残り、再び姫君のいる小国へと向かう”

 最後の部分はあまりよく読まなかったが、どうやら「姫君の青い鳩」とリンクしているらしい。 ただ、これから推測すると、スコットたちヘルヴォルはラーズグリーズと同等の存在にまでなっていたのかもしれない。
68 マーシュ 2007/04/05 Thu 11:16:39 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――最終話 『帰還』  The Retune
―――――Location:Yuktobania Cinigrad Dec 31,2010 ユークトバニア・シーニグラード 2010年12月31日


 「…シーニグラード・コントロール。 こちらヘルヴォル・リーダー。 着陸許可を求める」

 まだ雪は降り続いているが、昇る太陽の光も差し込み空は不思議な色をしていた。紫ともピンクとも言いがたい微妙な色だが、すべての終わりを告げているような気もした。

 「<ヘルヴォル・リーダー、着陸を許可する。4番滑走路へ着陸せよ。 貴君の生還を歓迎する。よく戻ってきた。 あと、攻撃により司令部は御釈迦だ。上のお偉方が今回の無断離陸を問い詰めている暇はないようだ」

 先日におけるデウス・エクス・マキーナとの戦闘によりフランブルクは壊滅し、シーニグラードも非常に多くの被害を受けた。完全勝利とは程遠い有様だが、シーニグラードが無事なだけでも何よりだ。このシーニグラード飛行場も無人ワイバーンの攻撃を受けたらしく、一部の施設が破壊され、ワイバーンやユーク軍航空機の残骸が伺える。

 「みんな……」

 ハンガーの前ではステラ達ヘルヴォル飛行隊のメンバーや、シーニグラード飛行場の関係者が総出でスコットを出迎えた。彼とバクーニンの戦いはシーニグラード管制塔やサンダーヘッドが管制していたため、皆が彼の戦いを知っていたのだ。これにより、彼の戦いが“歌われぬ戦い”になることはなかった。 機体を停止させエンジン音が徐々に大人しくなる頃には、スコットの足が大地についていた。


 今の気持ちを言葉に表すのは難しい。悲しみや憎しみ、無力感、達成感。様々な感情が湧き出ていて良くわからない。ただ、出迎えてくれた人々を見ると、“帰ってきた”と感じるのは紛れもなく事実だ。


 今日でこの年は終わる。明日、来年になり、新たな時代が幕を開ける頃にはもう少し落ち着いているだろうか?


 ただ、今は仲間との再会を素直に喜びたい。そして、戦いが終わったことを。


 ―――――“あの雲の上は再び英雄を必要としない青空に戻った。それこそが、彼らが求め続けたものだったのかもしれない”
 Above the clouds, there was only a clear blue sky, no longer in need of heroes.
And perhaps, that's exactly what they were hoping for all this time.


 Form Ace Combat 5 The Unsung War


 THE END
69 マーシュ 2007/04/07 Sat 20:55:31 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――エピローグ:マーシャル編  『メダル・オブ・オナー』 Marshal’s Episode Medal of Honor
―――――2011 Osea Oured 2011年 オーシア・オーレッド 墓地

 「―――如何なるときも敵に対して勇敢に立ち向かい、最後まで国に尽くして空に散ったポール・マーシャル元帥に 敬礼!」

 2列に並んだ士官達が全員空に向けてライフルを撃った。そしてすかさずその銃身を地面へ向けなおす。いまさら言うまでもなくマーシャル大佐の最終階級は大佐だったが、実はもっと偉かったらしい。聞いた話によると、マーシャルは過去数回の昇進指令を受けていたが、空を飛べなくなるという理由の元、昇進を拒んでいたらしい。また、この戦争で彼が受賞した勲章は「ゴールド・アンカー」「デザート・イーグル」「シルバー・シューター」「ブロンズ・エース」などの航空勲章をはじめ、最高位といえる『名誉勲章』が贈られた。

 「マーシャル大佐が元帥(マーシャル)ねぇ……流石だな」

 「ノア、綴りが違うぜ。階級のほうはLがひとつ少ない」

 失礼だが、人は見た目に限らないとはこのことだろう。マーシャルは15年前のベルカ戦争でもいくつかの勲章を受章したらしく、そのすべての功績を加算して階級に例えたならば、彼の階級は元帥に値していたとのことだ。それでも昇進を拒否して最前線で戦い、兵士らを導き最後には部下を救うべく空に散った。名誉勲章を受章した理由もここにある。


 ちなみに、ゴールド・アンカーはセント・ヒューレット軍港にて「空母ケストレル」を守り抜いたため。「デザート・イーグル」はジラーチ砂漠攻防戦における功績。「シルバー・シューター」と「ブロンズ・エース」は敵機撃墜数によるものだ。


 しかし、まだいくつか謎が残されたままであった。

 彼はなぜ「ジャック」というミドル・ネームにこだわっていたのか。 そして、彼は明らかにステラに対し、隠し事をしていた。おそらくは彼女の父に関することだろう。しかし、今となってはどうしようもない。 その後もマーシャルの墓にはスコットらガーディアン・イーグルス、ヘルヴォルのメンバー以外にも、陸海軍問わず多くの人が訪れた。


 余談だが、海軍のマーカス・スノー大尉もよくここにやってくる。実はマーシャルはスノー大尉の教官だったらしい。ただ、どちらかというと友達という間柄だった様に見える。
70 マーシュ 2007/04/07 Sat 20:59:09 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――エピローグ:兄弟編 『解放への戦火』 Brother’s(Ben and Noah) Episode The Next Generation of Aces

 環太平洋戦争。いわゆるベルカ事変から数年の歳月が経ち、ベン・ウォーカーとノア・クルーズは「もっと世界を知りたい」という思想のもと、オーシアを去った。どちらかというと、旅立ちという感じであった。ふたりはさほど時間が経たないうちに『エメリア共和国』で芸能人として一躍有名になった。二人は元軍人とは思えないほどタレントとしての姿が似合っていた。 また、俳優としても才能を開花させ、映画やCMへの出演も目立つようになり、世界的有名人になるのも時間の問題だろう。


 ちなみに、二人の主演する最新作は“The Knight of the Round Table”(円卓の騎士)である。これは15年ほど前の「ベルカ戦争」にスポットを当てたもので、その戦争で活躍した『円卓の鬼神』と『片羽の妖精』から見たベルカ戦争を描いたものだ。


 エースパイロットらによって語られる、エースパイロット経ちの生き様。

 交戦規定はただひとつ。 生き残れ。


 「“生き残るぞ! ガルム・ワン!”」


 公開日時が迫るにつき、TVCMも回数が増えている。なお、配役はベンが「片羽の妖精」で、ノアが「円卓の鬼神」だ。この映画の脚本は誰が担当したか良くわからないが、ある人物が出版した“Record of the Belkan War”というベストセラー本が原作になっているらしい。

 ベルカ戦争当時の情報はあまりにも少なく、それを題材とした映画は史上初なので、非常に注目を浴びているようだ。


 ただ、2015年。隣国「エストバキア連邦」の航空機部隊が繁栄を謳歌していたエメリア共和国首都、グレースメリアに突如出現。エメリア共和国空軍はこれを迎撃するものの、新兵器を導入したエストバキア軍により大打撃を被る。

 ただ平和を守りたいという純粋なキレイ事を武器に、ベンとノアはかつての経験を生かしエメリア空軍に志願。第8航空団に配属され、再び戦いの業火の中へと身を投じた。


 二人はこの業火を“解放への戦火”に変えることが出来るだろうか。
71 マーシュ 2007/04/08 Sun 23:35:15 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――エピローグ:ミラ編 『ミラのウェディングケーキ』 Mira’s Episode Mira’s Wedding Cake
―――Osea St. Hewlett Cathedral オーシア、セント・ヒューレット教会

 時はややさかのぼり、またベンとノアがオーシア空軍にいた時。

 「この、大きいケーキは、食べられないの?」
 「ああ、食べられないよ。 殆ど飾りだから」

 ウェディングケーキに入刀するふたり。ミラ・バークは本当に「不思議」な人物だ。出会った当初からそう思っていたが、今でもそう感じる。ミラの隣に立つのは言うまでもなく、オーシア陸軍のイアン・スピルバーグだ。彼はジラーチ砂漠で気化爆弾による攻撃で戦死したと思われていたが、実は一命を取り留めていたそうだ。しかし、彼は全身に火傷を受け、意識不明煮まで陥ったそうだ。だが、彼は特殊な病に犯されているミラを助けたいという強い意志を失わず、彼女を想い続けることで生きながらえたそうだ。

 「あのふたり、きっと幸せになれるわよね」
 「うん。 僕もそう思うよ、ステラ」

 また、精神的ダメージを受けていたミラ自身もイアンとの再会により復活。まるでおとぎ話みたいだが、ミラは眠りから覚め、新たな人生を歩みだしていた。イアンはミラへの愛で復活し、ミラは想いを寄せていたイアンからの愛で目覚める。本当におとぎ話そのものといって良いだろう。ジャンルは違うが、「ラーズグリーズ」と同じぐらいの出来事といってもいい。

 シルバーストーン病のミラはもちろん太陽の下へは出られない。よって、夜に結婚式を行っている。最初はもっと田舎で小規模な式になる予定だったが、いつの間にかこの二人の話はオーシアじゅうに広まり、報道機関や軍関係者も含めて多くのスポンサーが現れた。第8艦隊のマオも積極的に参加し、独断で海軍の航空機を展示飛行に狩り出しているそうだ。ステラは処罰を心配しているようだが、正直マオを罰せる人間がどのくらいオーシアにいるか微妙なところだ。ハーリング大統領でも敵わない気がする。いろんな意味で。

 「……なんで後ろ向きなの?」
 「そういう決まりなんだ。 さあ、そのまま後ろへ放り投げて」

 結婚式もクライマックスに入り、ミラがブーケを投げようとしている。言うまでもないが、ブーケトスとは花嫁がブーケを投げ、それを受け取ったものが次に結婚できると言われている。 ちなみに、ブーケは女性向け。男性向けはブートニアである。

 ミラの投げたブーケは夜空を飛ぶかのように放り上げられた。それを受け取ったのは…… ―――ケイ・ナガセ大尉だ。 ふと気がつくと、彼女の隣にはひとりの男性がいる。ブーケを受け取ったナガセ大尉はその男性に振り向くが、スコットは何処となくその人物に見覚えがあった。今まで激戦を潜り抜けてきたであろうナガセ大尉と親しそうにしているあたり、あの人物は「ラーズグリーズ」を率いた『ブレイズ』なのではないか? もしそうであれば、後で彼と話してみたい。そして、本名も聞き出しておきたい。スコットは式が終わり次第、ステラとともにブレイズとナガセ大尉の二人組みに話を伺うつもりだ。
72 マーシュ 2007/04/08 Sun 23:36:09 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――エピローグ:ステラ編 『ジャーニー・ホーム』 Stella’s Episode  “The Journey Home”


 「バーネット大尉、ユーク軍の方が面会を希望です」

 スコット、アレックス、アキラと共にハイエルラーク基地のラウンジで映画「星屑の空」を見ていたステラ。そこにシューマッハ軍曹が現れ、客が来たことを知らせた。 やってきたのはユークトバニア軍、情報司令部の「ナスターシャ・ヴァシーリエヴナ・オベルタス “少佐” 」という人物だ。しかし、この女性将校。妙にだれかと似ている気がする。

 「―――あなたがステラね? 久しぶり。 ……いいえ、初めましてね」

 どうやら、そのオベルタス少佐はステラの事を知っているようだ。ステラは何故オベルタス少佐が自分のことを知っているか理解できなかったが、オベルタス少佐はステラに1枚の写真を差し出した。その写真に写っているのは3人の家族だ。そこに写っている一人の女性はオベルタス少佐であることが伺えるが、残りの男性と小さな女の子は誰だが良くわからない。しかし、見覚えがなくはない。

 「……左が私。中央があなた。そして、右があなたの父親よ」

 「そうなると……あなたはお母さん? ですか?」

 オベルタス少佐はイエスともノーとも言わなかった。ただ微笑する。そして、父親といわれたこの男性の名前は「ジャック・バートレット」だというのだ。オベルタス少佐とバートレットは今から15年前は恋仲にあったらしく、結婚も考えていたそうだ。だが、何らかのトラブルが原因で別れてしまったそうだが、既に生まれていた子供。つまりはステラを育てることが出来なくなってしまったので、オベルタスはバートレットの親友であるマーシャルにステラ預け、そこで更に孤児院という流れになったのだろう。 当時のステラは3〜4歳。すべての出来事を記録するのは少々難しいだろう。

 「仮にそうだとして、マーシャル大佐はバートレット大尉ではないと言っていました。お前のパパは行方不明だと……」

 「確かにベルカ戦争が終結した後、しばらくは行方不明だった。連絡も取れなくてね… あの人が生きていると分かったのは、マーシャル大佐にあなたを預けたもっと後の事だった」

 戦争後期に使用されたベルカの電磁波兵器により、戦争後期の情報は殆ど記録されていない。バートレット大尉やマーシャル大佐が所属していた部隊の正式名称までわからない始末だそうだ。スコットが学生だったころの歴史の教科書にも、ベルカ戦争の勃発の発端までしか書かれていない。最後は7発の核爆弾を使用し、自ら国を焼いて終戦を迎えたということだけだ。

 「しかし、バートレット大尉は生きていた。それなのに何故大尉はステラやあなたに連絡を取らなかったのですか? 本当に大尉がステラの父親なら、何も連絡を取らないというのはおかしいです。 僕はそう思います」

 すると、オベルタスはかばんから数枚の書類を取り出す。その中には裁判所の書類などがあり、彼女の「正式な」父親の名前もあった。そこに書かれた父親の名前はバートレットではない。オベルタス少佐によると、後に少佐は違う男性と一緒になるわけだが、その男性とバートレットのどちらがステラの新の父親かということで裁判になったらしい。結果、バートレットはステラの父親ではなくなってしまい、会うことを許されなくなっていたそうだ。

 「よかったね、ステラ。 君にはちゃんと父親がいた」

 「うん……」

 良く見ればオベルタス少佐とステラの顔立ちが何処となく似ている。そして、仲間や友達想いなのは父親であるバートレットゆずりなのだろう。


 数日後、オベルタス少佐はバートレットを連れてハイエルラークに再来した。

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