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ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTER ] 英雄の復活

前スレッド No.141
31 マーシュ 2007/02/28 Wed 22:33:21 DXjf..D3Q.5iAv
ACE COMBAT 5 INVISIBLE THE GOD Chapter ] RESURRECTION OF RAZGRIZ
エースコンバット 5 インヴィシブル・ザ・ゴッド 第10章 ラーズグリーズの復活

これはエースコンバット5 ジ・アンザング・ウォーを題材としたオリジナル小説です。
この作品に関して意見や感想を述べてくださる場合、ここへのレスではなく「指摘スレッド」や「感想スレッド」にご記入ください。

・・・
ゴールゥビ・ガルボーイ。
もしかすると、ガルボーイ・ゴールゥビの方が正しいのではないか? というか、ガルボーイは「青」ではなく「水色」なのかも。  ロシア語に詳しい方はいませんか?
32 マーシュ 2007/02/28 Wed 22:34:42 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第88話 『デウス・エクス・マキーナ』  Deus Ex Machina PartU

 ユーク艦隊が撤退したかと思えば、今度は水中から2隻の敵潜水艦が迫る。情報収集艦セレニティーの情報によると、かつて第3艦隊の空母2隻を撃沈し、後にサンド島部隊によって葬られた「シンファクシ級潜水空母」の3番艦と4番艦であることが判明した。

 「おいおいおいうぉい! またあのくそったれ散弾ミサイルを撃ちやがったぞ! ベン!隊長、ステラ! 逃げるぞ!」

 ガーディアン・イーグルス各機は安全な高度まで上昇退避。他の友軍機もそれに続いた。 一方、海上では生き残ったイージス艦が散弾ミサイルの迎撃を開始した。何も知らなければ驚異的な打撃を受けるが、あらかじめその内容を知っていれば事前に回避行動をとることが出来る。今回は殆どの友軍機がミサイルの攻撃をしのぐことができた。

 「こんどは我々の番だ! OFSディープ・アビスから全艦艇へ! 対潜攻撃用意!」

 残存部隊が敵潜水艦向けて一斉に魚雷を撃ち込むが、敵潜は依然としてオーレッド湾へ進み続ける。更に魚雷による反撃を受け、数隻の駆逐艦などが損傷を受ける。

 「どうするスコット? 水中では手が出せないわ!」

 「どうするって言われても……」

 前回のように「アークバード」が反則的レーザーで援護してくれない限り、あの潜水艦を攻撃したりするのは不可能だ。友軍が魚雷でどうにかしてくれるまでここで待つしかないと思っていた矢先、海上での先頭とは無縁の陸軍から援軍がやってきたという情報が入った。

 「<アウルゲルミルからスルードゲルミルへ。 ようやく『神』のお出ましだ>」
 「<了解だ。 こちらでも「神」の接近をオーシアの通信で傍受した>」

 シンファクシ級潜水空母の3番艦アウルゲルミルと4番艦スルードゲルミルはオーシア艦隊の防衛線を突破。潜水艦としては異常な速さでオーレッド湾に向かう。だが、そんな2隻の行く手を阻む巨大な物体が存在した。

 「何だありゃ? いつからオーレッド湾に海上テーマパークが建造されたんだ?」
 「ノア、どう見てもテーマパークには見えねぇぞ」

 海上には巨大要塞のような軍艦が浮かんでいる。だが実はこれが機械仕掛けの神、「デウス・エクス・マキーナ」と呼ばれるオーシア軍のアーセナル・タンクだ。簡単に言えば、弾薬庫と要塞が合体した戦車。水陸両用戦艦で、戦艦なのか戦車なのかは曖昧なところである。

 「こちら、オーシア陸軍司令官のハウエルだ。 海上に展開中の友軍へ告ぐ、今すぐこちらの主砲射線上から退避せよ」

 各自のHUDにその攻撃範囲が表示される。とりあえず範囲外へと移動するが、いきなりすぎる展開に誰もついていけない。 やや昔、サンド島でシンファクシと対峙してアークバードのレーザーが落ちた際にダヴェンポート大意から零れた言葉を使うと、両者の兵器がシーソーゲームのごとくどんどん派手になり、もうどうしようもないという状況だ。
33 マーシュ 2007/02/28 Wed 22:37:12 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第89話 『業』  Karma

 「なぁベン。ゼネラル・ハウエルはユークにいるんじゃなかったのか?」
 「確かにそうだな。 何故ハウエル将軍が本土に戻ってきているんだ?」

 ハウエル将軍が搭乗する汎用戦車「デウス・エクス・マキーナ」の左右2箇所にある砲塔から青白いレーザーを水中向けて発射。圧倒的な威力で水中を爆発させ、2隻の潜水艦を海中から引きずり出した。アウルゲルミルとスルードゲルミルは損傷を受けたようで、煙を吐きながら海面を漂っている。

 「こっ、こちらブルー・ドウ。 敵潜水艦の損傷を確認! 各機攻撃してください!」

 すさまじい破壊力に驚きながらも、ジェシカは友軍航空機部隊に敵潜水艦へ攻撃するように指示した。アウルゲルミルとスルードゲルミルはダメージを受けているものの、まだ戦闘能力を有しており、うかつに接近すれば撃ち落とされてしまうだろう。

 「こちらバード1.我々が先行して敵の対空砲火を引き付ける!」

 バンデラス大佐のバード中隊が敵に向かって急降下し、後続の友軍が敵の標的にならないように攻撃を引き受ける。その間にスコットたちイーグル中隊をはじめ、他の友軍機が敵潜に攻撃を加えた。

 「対空砲火に巻き込まれんな! 行くぞノア!」
 「ガッテンだ!」

 スルードゲルミルの対空砲火により友軍のホーネットが煙を吐いて空中分解した。その黒煙に紛れて姿を現したベンとノアがアウルゲルミルに誘導爆弾を投下。損傷した潜水艦に止めを刺した。

 「やった! よしみんな!残るもう1隻に攻撃を集中してくれ!」

 このとき空中に居たのはスコットやバンデラス。パクのガーディアン・イーグルスと数えるほどの友軍機だけだが、敵潜水艦はデウス・エクス・マキーナにより大きな損傷を受けているので、これだけの戦力でも十分に対処できるだろう。

 「さっきの戦艦もすごく大きかったけど、この潜水艦も負けていないわね…… とにかく、早いところ終わらせましょう」

 一番に旋回を終えたステラが射点につくと、ロックオンしてミサイルを発射。スルードゲルミルに直撃弾を叩き込む。ステラのヴァイパー・ゼロがスルードゲルミルの真上を通り過ぎた後、スコットやベンとノアらが更に攻撃を加えた。 スルードゲルミルは大破し、もはや航行不可に陥っていた。

 「こちらDEM。 友軍部隊へ。これよりレーヴァテイン第2射を放つ。 射線上から退避せよ」

 デウス・エクス・マキーナがレーザー砲第2射を放ち、海面を爆発させて航行不能に陥ったスルードゲルミルを完璧までに粉砕。轟音と共に海中へと葬り去った。

 このレーザー。かつて目撃したアークバードのレーザーとは比べ物にならない程の威力だ。第1派も相当な威力だったが、この第2派は衝撃で海底の岩盤を露出させた上、スルードゲルミルの残骸が殆ど見当たらないまでに蒸発させていたのだ。


 あまりにも凶悪な攻撃力と結末に、一同はただ呆然としていた。
 圧倒的な力を用い、強引といえるまでに戦局を変えてしまった。いつの間にオーシアはこのような超兵器を保有していたのだろうか。
34 マーシュ 2007/03/03 Sat 19:39:09 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第90話  『リザレクション・オブ・ザ・ラーズグリーズ』
                      Repetition:Resurrection of the Razgriz

 寒帯のハイエルラークはいつも冬同然だが、オーシア本土でもそろそろ雪が降る季節。冬本番だろう。この冬に入りこの戦争は一気に結末の見えない泥沼化しつつあった。オーシア軍の最強部隊『サンド島飛行隊』は謎の失踪をし、彼らは敵軍のスパイだったとか、敵軍に寝返って友軍に脱走犯とみなされ処刑された等様々なうわさが流れている。

 だが、この状況を打破するべくオーシア軍は「アークバード」に変わる切り札「デウス・エクス・マキーナ」を戦線に投入。オーシア本土への強襲を試みたユークトバニア艦隊を壊滅状態に追い込んだ。そして、体勢を立て直し次第DEM(デウス・エクス・マキーナ)はユークトバニア本土へと攻め込む計画になっているそうだ。


 ―――オーシア連邦・ハイエルラーク基地
 Location:Heierlark Air Force Base

 ハイエルラーク基地に数箇所ある搭乗員待合室。ここには古い石油ストーブを囲むようにイスが多数並べられている。そこにひとり座り込み、携帯電話をいじっているのはステラだ。そこにスコットが素手で握るには熱そうな缶コーヒーを二つ。手袋をした状態で持ってくる。

 「……あのニュース。偽りだらけなのよ」

 サンド島部隊は表向きには戦闘により壊滅。パイロットたちも戦死したと言われている。 だが、ステラは違うと主張するのだ。彼女によると今も不定期ながらケイからの連絡が入り、今彼女らがどうしているか知らせてくれているのだ。

 「―――それで、今ナガセ大尉らはどこに?」

 「ケイ達は今カーウィン島という小さな島に居るそうよ。第3艦隊の「ケストレル」に収容されているんですって」

 第3艦隊及びそこに所属する航空隊は敵軍との交戦で戦力を消耗し、今はその島に身を隠しているそうだ。ナガセ大尉らはオーシア軍に追われる中第3艦隊のスノー大尉らに救助され、この戦争の「舞台裏」をマオの父 “ニコラス・A・アンダーセン” から教えられたそうだ。

 「―――つまり、この戦争は仕組まれているということなのか?」

 「ええ。 マオ姉さんも知っているのだけれど、15年前の敗戦国であるベルカと元ベルカの “ノース・オーシア グランダーIG” が私たちオーシアとユークを戦わせるように仕組んだのよ」

 グランダーIGは別名『灰色の男達』と呼ばれ、両国の大統領を拉致。仕掛け人以外の副大統領や軍上層部の将軍を金などで手なずけ、今では戦勝国である両国に復習を成し遂げようとするベルカの思うがままとなっている。何故アンダーセンがこの舞台裏に気がついたとか細かいところは明らかにされていないが、今後ナガセらはこの計画を崩すため独自に行動を始めるそうだ。
35 マーシュ 2007/03/05 Mon 20:55:42 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第91話 『ミラのクリスマスケーキ』  Mira’s Christmas Cake
―――――Location:Bana City 2010/12/25 オーシア:バーナ学園都市 2010年12月25日

 スコット、ステラ、ベン、ノアはバーナ学園都市にある精神病院へやってきた。クリスマスぐらいはミラと共に過ごそうと見舞いに来たわけだが、ミラ本人は精神的疾患となり、もはや植物人間に近い状態であった。点滴により栄養を摂取しているものの、彼女に以前のような明るさは全く残っていない。

 「すいませんね、わざわざ来ていただいたのに…… もしよかったら、また来てください。彼女も心の奥では喜んでいると思うので……」

 看護婦に見送られ、病院を後にするスコットたち。出来れば一緒にパーティでもしようと考えていたのだが、場所を考えるとやはり難しかった。

 「これからどうする? 1日だけとはいえ、休暇だぜ? 楽しもうぜ」

 首に巻きつけたマフラーの端っこをプロペラのように回すノア。そんな彼の隣を浮かない表情で歩くステラ。彼女の手にはミラと共に食べるはずだったクリスマスケーキ。

 「仕方ないよ、意識が無いんじゃ食べられない。 このケーキは持って―――」
 「ハロルド軍曹にやろう」
 と、スコットの台詞に割り込みを入れるベン。

 「あ、それいいわね。 どうせならもっとたくさん買っていかないと」

 もって帰るケーキを購入するため、所持金を確認するステラ。だが、スコットはすぐさま自分の財布からそれなりの現金を取り出し、彼女に渡した。ステラを見下すわけではないが、孤児院出身の彼女に全額負担させるのは男としてというか、人間として情けない。

 「これだけあれば、十分?」

 そんなスコットを見て、ベンとノアも同じように現金を取り出した。 が、しかし。


 「使えないわ…… スコットのは「エルジア紙幣」ベンのは「ベルカ紙幣」ノアのは……」


 「やヴぁい! これボードゲームの紙幣だ!」

 「何故んなもんを財布に入れている!?」


 なお、スコットもベンは国内で使用できるオーシアの通貨を所持していないわけではない。ただの偶然であるが、財布には名残ある故郷の通過を持っているだけ。今使用できる通貨を持っていないだけだ。


 「全部私が払う。大丈夫よ、十分持っているから。 でも、ありがとうスコット」

 そう言って微笑むと、ステラはその足で最寄りのケーキ店を目指す。ベンとノアがスコットを色男など色魔などと適当にからかい、ステラに続く。 ベンとノアがステラを挟み、購入するケーキについて色々と口論し始めるが、このとき後ろに居たスコットはあることに気がつく。左に居るベンは髪が青い。中央のステラは金色ともいえるブロンド。右のノアは赤。これはもしかしてもしかすると、「信号機」の色ではないだろうか?

 ちなみに、スコットはごく普通の茶髪である。


 「なあノア。 今日ハイエルラーク基地で勤務しているのは軍曹の整備チームだけだったか? どちらにせよ、ケーキは大目に買っていかないと」
 「だな」

 ベンとノアの話の中、ステラは慣れた手つきで携帯電話を取り出す。が、すぐにしまった。このときスコットは彼女が誰かに電話しようとして、それがだれだかすぐに分かった。恐らくは親友であるナガセだろう。ミラも駄目で、ナガセも駄目。彼女は周囲が男性ばかりでもあまり気にしないだろうが、こういう特別なときは家族に近い人物が居て欲しかったのだろう。
36 マーシュ 2007/03/05 Mon 21:02:27 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第92話 『ヘルヴォル飛行隊』  The Hervor Squadron
―――オーシア連邦・ハイエルラーク空軍基地  Location:Heierlark Air Force Base

 スコットたちがハイエルラーク基地のハンガーに戻ると、彼らの機体は新たなカラーリングを施され、垂直翼と機首側面には童話「王子様の届かぬ思い」に登場する「守護神ヘルヴォル」のエンブレムが書き込まれていた。

 「真っ赤だな」と、ベン。

 「赤いなぁ あけーな。マジであけーな。 クリムゾンだな」続けてノア。


 “ラーズグリーズの悪魔” の損失により、オーシア軍の士気はどん底までに低下しつつあった。そこで、軍司令部は士気向上、回復のため「ヘルヴォル戦闘機部隊」を公式のものとし、現存のガーディアン・イーグルス全機をヘルヴォルとして再編成することを決定していたのだ。

 「ヘンダーソン大尉、司令部からのクリスマスプレゼントです」

 いつの間にかスコットの隣にいたハロルド軍曹が、スコットの手に見知らぬワッペンを差し出す。それに描かれているのは機体のエムブレムと同じ「ヘルヴォル」の守護神だ。 そして、そのヘルヴォル飛行隊の指揮官として選ばれたのがほかの誰でもないスコットだとのことだ。

 また、ここでの訓練を終了した新人たちも、次回からはスコットの指揮下で部隊に合流。イーグル中隊の戦力強化を実行する。

 「機体は最新のものに更新しておきました。 これならもし今度「リパブリック・コマンド」に出くわしても遅れをとらないはずです」


 イーグル中隊各員に配布されたヘルメットのディスプレイには、寮機や友軍の状態。マップや攻撃目標、更にはテレビ電話のようなモニターまで装備されている。いわゆる「ヘッド・マウント・ディスプレイ」だ。これは武器システムともリンクしており、視線を動かすだけで敵をロックオンし、正面以外にもミサイル攻撃をすることが可能になっている。


 「なぜ司令部は僕を指揮官に? パク少佐やバンデラス大佐のほうが……」

 スコットは自分ではなく、なぜ経験豊富で上官に値するバンデラス大佐とパク少佐が指揮官に任命されなかったか。疑問で仕方なかった。

 「実は、バンデラス大佐とパク少佐は先日に除隊したそうです。 詳しいことはわかりませんが…」


 一方で、ベンとノアは描かれているエムブレムをじっと見ていた。


 「なぁ、ベン。 どうせならよぅ。 エムブレムはグラマラスなねーちゃんとかのほうがいいよな?」


 彼が芸術家だというのならともかく、これはただの欲求に過ぎない。


 「そうだな ……って いや、帰れ」
37 マーシュ 2007/03/05 Mon 21:06:46 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第93話 『シーニグラード解放作戦』  The Last Operations

 ステラの携帯には不定期にナガセとマオからのメールが届く。何か事態に進展があるごとに。 これによりこの戦争の事実を知ったスコットたちだが、彼女らに手を貸している猶予は無かった。すでにデウス・エクス・マキーナによるユークトバニア本土進攻作戦が開始されており、スコットたちを含めるガーディアン・イーグルスもまた、前線へと送り出されるのであった。

 ユークトバニア共和国首都、「シーニグラード」への最後の最後の扉。クルイーク要塞はすでに陥落し、あとは首都を残すのみである。隣接する都市「フランブルク」を攻略し、そのまま首都を陥落させればこちらの勝利が確定するはずだ。


 ―――――Location:Yuktobania Republic Asgard Hill 2010/12/29
           ユークトバニア・アスガルド丘 2010年 12月29日

 「<諸君、いよいよこの戦争も終わりだ。だが、我々には後ひとつだけ仕事が残されている。それは敵軍によって自由を奪われたユークトバニア市民たちに自由を取り戻すことだ。 我々は完璧までに敵軍を駆逐し、この戦争を終結させる>」

 デウス・エクス・マキーナより先に敵地へやってきたオーシア軍の一団。ハウエル将軍のDEMは数十キロ後方だ。

 「いよいよか。 だがよ、俺たちはこれでいいのか?」
 「俺も少し気が向かない。 が、ここで勝ってしまえばそれでいいんじゃないか?」

 戦闘開始を前に、ノアとベンが意見をこぼす。事実を知っているのに、結局戦うしかないのか?だが、事実を言おうにもこれといえる証拠が無いし、逆にこちらの立場が危うくなる可能性が高い。


 「みんな、今は勝つことだけを考えよう。 そうすれば戦争を終結させることが出来る」

 「スコットの言うとおり。今は私たちに出来ることをしましょう」

 すると、まるで正面に結界や見えない壁があるかのように全軍の動きが停止し、横に展開し始める。 オーシア軍の行く手にそびえるのは『アスガルドの丘』に展開するユークトバニア首都防衛部隊。丘の上には血管のように張り巡らされた塹壕と防御陣地。戦車、装甲車、大砲、対空砲をはじめ、上空には多数の敵航空勢力が確認できる。


 「<オーシア軍、我が軍の有効射程圏外ぎりぎりに展開>」
 「<いよいよか…… 全部隊、状況を報告せよ!>」

 「<スィレーブリャンヌイ・サバーカ。全戦車スダンバイ!>」
 「<ザラトーイ・ヴァチャーズィ、全車準備完了!>」
 「<フェアリェータヴィ・ミドヴェーチ、全車両戦闘準備よし!>」
 「<アランジェヴィ・アレェーニ、配置完了>」

 「<ヴェールヌイ・プチーツィア全機、いつでも離陸可能です!>」
 「<アトゥヴァーツトゥヴェンヌィ・ザーイツ全機、戦闘準備完了>」

 「<クワント、ゴリゾンド、ボスホート、ゼニート、各航空機部隊も準備完了いたしました! 全軍配置完了!>」


 にらみ合う両軍。 オーシア軍は決められたスケジュールどおりに進軍するので、それまではこの状態を維持するつもりだ。 敵国の首都だけあり、猛反撃を受けることになるだろう。
38 マーシュ 2007/03/06 Tue 22:35:50 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第94話 『丘でのにらみ合いが終わる』  End of Standoff

 「<オーシア軍、前進を開始! わが軍の攻撃圏内に入りました!>」
 「<全軍、迎撃開始! シーニグラードとフランンブルクは必ず守りぬけ!>」

 小銃や機関銃などの小火器や、対戦車砲や大砲、ロケットなどが進軍するオーシア軍向けて一斉に放たれる。塹壕からはバズーカを持った歩兵が。その塹壕の後ろでは戦車や装甲車がミサイルや大砲でオーシア軍の戦闘車両を爆発の嵐で食い止めようとする。

 「こちらナイト・リーダーだ! これよりシーニグラード解放作戦を開始する! ブラック・ナイト全戦車、突撃せよ!」

 デウス・エクス・マキーナは分厚い特殊装甲に包まれているが、実は脚部であるキャタピラが弱点であり、それは全ての戦車にいえることだ。DEMが首都シーニグラードにたどり着くにはまず、この「アスガルドの丘」にある防衛線を完全に攻略しなければならない。

 「いつもながらもん凄い敵の数だな。さすが最後の防衛線というところか。 ベン、ビビッて怖気づいたりしるなよ?」
 「ノア、てめぇこそ間違って味方を撃ったりするんじゃねえぞ」

 スコットたちはいつもどおり友軍に一番近い敵から排除しようと考えていた。友軍の機甲部隊にとって一番の脅威は丘の上にある対戦車砲と敵戦車。攻撃ヘリコプターだ。対戦車砲は文字通り戦車の装甲を貫通することが出来るので、非常に危険。戦車は前面や側面は頑丈だが、上や後ろはそうでもないので、ヘリコプターならば直接弱点を狙うことが出来る。

 「気をつけろ! 丘の上の大砲がこちらを狙って………ぐわっ!」
 1個中隊の先頭を行くオーシアのブラッドレイ装甲車のすぐ近くに着弾。更にキャタピラが破壊され行動不能になったところに追い討ちの1発が撃ち込まれた。

 「ラフレシア・ナインとの交信途絶! ここはまずいぞ!」

 集中砲火を受けている友軍を援護するため、オーシアのヘリコプター部隊が丘にある敵陣地へ向かうが、対空攻撃によってあっという間に撃墜されてしまう。あの丘にある陣地には対地だけではなく、対空防御も想定されているのだろう。

 「1ヶ所でも防衛線を崩せれば、そこから味方が突入して他の防衛線を後方から攻めることが出来る。 みんな、火力を集中しよう!」

 友軍の中でも最も勢いがありつつ、敵の防衛ラインの薄い部分はそれほど多くない。しかも、防衛線の薄そうな部分には敵のヘリや戦闘機など航空機部隊が状況に応じてカバーしにくるので、決定的に薄い部分は存在しないに等しい。
 友軍は丘を登り始めているが、次々と大砲やミサイル、塹壕に潜むバズーカ兵により撃破されてしまう。

 「ラフレシア・リーダーから全車両へ!塹壕による防御陣地の攻略には歩兵部隊が必要不可欠だ! 敵の攻撃から歩兵部隊を守れ!」

 「こちらナイト・スリー。我々は砲撃からは友軍を守れない! 航空機部隊で敵対戦車砲を始末できないか?!」

 塹壕などの穴に潜む敵歩兵を倒すには、こちらも歩兵で塹壕に飛び込むのが一番効果的だ。だが、敵もそれは承知。大砲で歩兵を守る車両を撃破し、機関銃などで残りの歩兵を掃除するというのが敵のプランだろう。
39 マーシュ 2007/03/06 Tue 22:37:05 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第95話 『最後の始まり』  Final Engage

 「イーグル・リーダーから各機、目標を視認した。 ムスタング、交戦!」
 「ファイアフライ、交戦! みんな、頑張ろう」
 おそらくこれが最後の戦いになるだろう。言葉にも気合を入れる一同。

 「グラディウス、交戦! 気合入れていくぜ!」

 「いよいよ実践か…… カエルム、交戦!」
 イーグル5のコールサインを持つアレックス・ウォルコット少尉。

 「イーグル・シックス、後に続くっす。 ノヴァ、交戦!」
 続けてイーグル6のアキラ・オオバヤシ少尉。

 「最初で最後ってのが微妙だけど、まあ、これで戦争が終わるならいいわね。 イーオン、交戦!」
 更にイーグル7のアンナ・デ・ローサ少尉。

 「このときのために。戦争を終わらせるために訓練してきたんだ! 今こそその成果を見せる! プリムス、交戦!」
 最後のイーグル8はキム・ジンソク少尉だ。

 「行こう!みんな! 僕たちはここでこの戦争に終止符を打つんだ!」

 『了解!』
 一斉に声を上げる一同。


 …何かすっきりしない。


 「って、おい!待ってくれ! シカトは無しだぜ! アルビオン、エンゲージ!」


 スコットたちは友軍の被害を少しでも抑えるため、アスガルドの丘にある敵の砲台と対空兵器を片っ端から排除してゆく。だが、いくら爆弾やミサイルで攻撃しても塹壕に隠れる敵歩兵にはあまり効率よく打撃を与えることができない。

 「あれだな。歯と歯の隙間に詰まった汚れを落とすような感じがする」
 「ベン、少し例えが悪くないか?」

 いつもならノアではなくベンが突っ込みに回るはずだが、今回は奇妙にも逆だ。一方で、ステラはこの作戦に何か奇妙な感覚を感じていた。

 「ここを攻略すればこの戦争も終わるだろうけど、何かね…… いやな予感がする」

 「ステラ。僕もいやな予感とまでは行かないけど、何か寒気がするんだ。 ベルカの陰謀とかじゃなくて、もっと何か恐ろしいことが起こりそうな気がするんだ」

 ここ最近の戦闘では必ずといってもいいほど途中で思わぬ事態に遭遇する。まず、−グリン海峡では散弾ミサイルが。セレス海で輸送船団を護衛したときはバクーニンとの再会。ジラーチ砂漠でもバクーニンと再会し、マーシャル大佐とミラが。そして、オーレッド湾ではDEMが。
 今回も恐らく何かが起きるだろう。 予感というか、確信である。
40 マーシュ 2007/03/08 Thu 21:36:18 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第96話 『アスガルドの丘』  Asgard Hill

 アスガルドの丘を登り始めるオーシア陸軍だが、丘の上にある大量の対戦車兵器が次々と発砲。また、それを航空攻撃から守る対空砲も絶えず火を噴き、友軍を苦戦させている。

 「上空の味方機! お決まりな台詞ですまんが、全弾ここに落としてくれ!」

 一部の戦線では全ての戦闘車両が撃破され、歩兵部隊が釘付けになっているようだ。スコットたちはすぐにその戦線へ向かい援護を開始した。無論、全弾落とすことはできないので、ピンポイントで敵戦車を粉砕してゆく。友軍のサンダーボルト攻撃機部隊もいるので、その部隊と共同で友軍地上部隊の援護に当たる。

 「<こちら第7防衛ライン! オーシアのこう航空攻撃により苦戦している! 至急援護を頼む!>」

 遠方より多数の敵航空機が迫る。少々派手に敵を叩きすぎたのかもしれないが、この真っ赤なカラーリングも目立たなくはない。スコットたちに向かってくるのは4機ずつのフルクラムとフランカー。ユークトバニア空軍主力戦闘機の編隊がダブルでだ。

 「視線を合わせるだけで敵をロックオンできたんだったな? 行くぞ!」

 ベンは早速バージョンアップしたヴァイパー・ゼロの特性を生かし、側面から接近してきたフランカーにミサイルを直撃させた。ほかのメンバーもそれに習い、迫り来る敵機を次々と撃墜してゆく。

 「隊長。戦線の奥から敵の増援部隊だ! タイフーンが5機とラファールが3機。スーパー・フランカーが4機!  ……すごい数だな」

 「ベン、やつらは多いが俺たちの敵じゃないぜ! さっさとぶちのめすぞ!」

 ベンは驚きつつも、ノアと毎度ながらのコンビネーションで迫り来る敵機の攻撃を回避しつつ反撃する。ノアの放ったミサイルがラファールの1機に命中し、ベンの放ったミサイルがタイフーンを粉砕した。

 「<やられた! イジェクトする!>」

 「<ゼニート3墜落! ボスホート・ワンから各機、戦線中央付近に赤くて強力な戦闘機部隊がいる!おそらく “ヘルヴォルの守護神” だ! 至急援護を乞う!>」

 「<こちらシーニグラード司令部。いまそちらに増援を送った。 何としてでも彼らを倒してくれ>」


 それとほぼ同時に友軍の後方から8機のイーグルがやってくる。よく見るとどれもスコットたちと同じ赤いカラーリングだ。これらはスコットたちを支援するべく、元ガーディアン・イーグルスのバード、スワン中隊の出身のパイロットで編成されたヘルヴォル第2分隊だ。

 「ようやくたどり着いた…… こちら元スワン2の”リチャード・オルグレン”中尉。これよりイーグル9として参戦する! パク少佐とバンデラス大佐が急にいなくなったせいで遅くなった。 ヘンダーソン大尉、いつでも命令を!」

 彼の声に疲労感を感じる。おそらく彼が急に第2分隊指揮官の代行に任命され、慣れない指揮にかなり手間取ったのだろう。
41 マーシュ 2007/03/08 Thu 21:38:36 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第97話 『バタリオン・リーダー』  The Battalion Reader
―――――Location:Yuktobania Republic Asgard Hill 2010/12/29 ユークトバニア、アスガルド丘 2010年12月29日


 パク少佐とバンデラス大佐の失踪により、混乱していた残りのガーディアン・イーグルスが何とか形としてヘルヴォル第2分隊として合流。 だが、第2分隊長代行の「リチャード・オルグレン中尉」は部隊指揮の経験がなく、この中で指揮経験のあるのはスコットのみ。
 結果、スコットは一気に15機の寮機(ウィングマン)を得ることとなった。502戦術航空隊のブルーベル大佐には及ばないが、これだけの寮機がいるととても心強い。

 「こちらAWACSサンダーヘッド。ムスタング、部隊の指揮は任せるぞ。 第1分隊と第2分隊では機種が違う。指示を出すときはそのことも考慮しろ」

 目標の指示や戦況の報告はサンダーヘッドが行うので、スコット自身は部隊のことだけを考えていればよさそうだ。それでも彼は自分自身で状況を見極めるだけの力量と余裕を持ち合わせるまでに成長し、エースの名に恥じないのは確かだろう。

 「責任重大だな、隊長」と、ベン。
 「俺は15機も面倒見てられん。 がんばれよ、隊長」と、ノア。

 「―――よし、第1分隊、僕と一緒に敵地上目標を攻撃してくれ! 第2分隊は援護を!」

 第1分隊のヴァイパー・ゼロが対地攻撃を行い、第2分隊のイーグル・プラスがそれを援護する。 今まで寮機は3機だったが、この作戦で一気に15機まで増加。戦力は大幅に強化されたが、指揮するスコットの負担も増えたかもしれない。

 「っと! 丘の上に地対空ミサイル戦車が多数いる! ノア、行くぞ!」
 「ガッテンだ! 後ろから付いていくぞ」

 地上部隊も空軍の支援を受けるために積極的に対空砲を攻撃してくれるが、地上部隊の殆どは敵の地上部隊と交戦しているため、こちらへの援護は期待できない。それ以前にこちらが地上部隊を援護するのが普通なのだから。
 ベンとノアが対空戦車を排除する頃には他のメンバーが敵防衛線に大きなダメージを与え、味方地上部隊の一部が全身を再開。敵防御陣地に侵入し始める。

 「こちら陸軍第64歩兵中隊!敵防御陣地、Gエリアを確保した! 引き続き隣接する防御陣地の攻略に移る!」

 これで突破口が開ける。1ヶ所でも崩してしまえば、あとはそこから防衛線をこじ開けることが出来る。後は地上部隊次第というところか。友軍の被害は少ないものではないが、ここで手を引くわけには行かない。この戦争の終結はこの戦いにかかっている。

 「イーグル・リーダーからヘルヴォル各機、分散して友軍の支援に当たろう!」

 戦線は広い。1ヶ所ずつ対応していては作業が追いつかない。こういうときは分散し、各自の判断で行動したほうが効率がいい。 だが、分散しようとしたその時、レーダーに新たな機影が映る。そちらの方向に視線を向けてみると、接近してくる20機のターミネーターが。そして、カラーリングは青色。  間違いない。

 「こちらサンダーヘッド。敵の増援部隊を確認。 ……青色のターミネーター。“ リパブリック・コマンド ” だと思われる。各機、警戒せよ」

 「やはり彼ら… スコット!」
 「くっ……!」

 アスガルド丘の先にある大都市「シーニグラード」の影から、小さくて豆粒のような青い機影が現れる。予想できたことだが、やはり戦わなくてはならないのか。そう思いつつスコットらは迎撃に向かった。

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