ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTERU 姫君の青い鳩
前スレッド No.132
- 13 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:04:10 DXjf..D3Q.5iAv
- ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD ChapterU A Blue Dove for the princess
エースコンバット 5 インヴィシブル・ゴッド 第2章 姫君の青い鳩
When history witnesses a great change Razgriz reveals itself
“歴史が大きく変わるとき、ラーズグリーズはその姿を現す”
Contents 目次
#00 『その時、僕は空中にいた』 Red Alert
#01 『新たな部隊』 The Guardian Eagles Part1
#02 『なりゆき』 The Guardian Eagles Part2
#03 『開戦』 “Open The War” Part1
#04 『ソーズマン』 “Open The War” Part2
#05 『狭間の第1派』 “Naval Blockade” Part1
#06 『ケストレルを守れ』 “Naval Blockade” Part2
#07 『やばいもん見ちまった』 I shouldn't have looked
#08 『海上封鎖線』 “Naval Blockade” Part3
#09 『ヘヴィーなサーフボードだぜぃ』 Kestrel’s Alive
#10 『ミラのシャーベット』 Mira’s Sherbet
#11 『姫君の青い鳩』 A Blue Dove for the princess
#12 『タービンの回転が上がらねぇ!』 These turbines won't start up!
#13 『ウォードッグ・リーダー』 War dog Leader
#14 『初陣』 “First Flight”
#15 『アーチャー』 Archer
#16 『日没の空』 Skies of Sunset
#17 『サンド島からの手紙』 Letters From Sand Island
#18 『待ち合わせはイーグリン海峡で』 “Rendezvous”
#19 『第3艦隊集結』 “Rendezvous” PartU
#20 『艦隊の死』 “Ballistic Missile”
#21 『雪の降る空』 Snow Skies
#22 『旅立ち』 Odyssey
#23 『サンド島防衛戦』 “Front Line”
#24 『伝説の悪魔』 Demon of Legend
#25 『Aサット照準』 A-sat Targeting System
#26 『ラーズグリーズの悪魔』 The Demon of the Razgriz
#27 『シンファクシ』 “Scinfaxi”
#28 『ミラのカキ氷』 Mira’s Frappe
#29 『悪夢?』 The Doom?
#30 『食卓の鬼神』 The Cock of Round Table
#31 『15年前』 “15 Years Ago”
#32 『ザ・ベルカン・ウォー』 THE BELKAN WAR
#33 『円卓の騎士』 The knight of the Round Table
#34 『ベルカのお肉』 The Belkan Beef
#35 『憎しみの連鎖』 “Chain Reaction”
#36 『コインの表側』 Face of the Coin
#37 『進軍』 Road to Yuktobania
#38 『あおいはと』 A Blue Dove for the princess Part2
#39 『紅の海』 Crimson Sea
#40 『戦闘開始』 Engage
Coming Soon........
- 14 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:07:15 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第11話 『姫君の青い鳩』 A Blue Dove for the princess
敵国に最も近い最前線であるサンド島。何時敵の攻撃があるか分からない。そんな敵襲に備えるため、スコットたちイーグル中隊も此処に派遣された。
「サンド・コントロール。こちらイーグルス。 着陸許可を求める」
「こちら管制塔。 滑走路はクリア。 いつでもどうぞ」
昼間であればサンド島の周辺はエメラルド・グリーンに輝き、空から見ると一層美しい。夕暮れでも海が光を反射するため、それもまた別の魅力がある。
「此処がサンド島……。 いい島ね、スコット」
「少し熱いですが、居心地はいいですよ、バーネット少尉」
「スコット、私の事はステラと呼んで。 ―――あと、何故極寒のハイエルラークに転属になったの?」
「数日前、訓練飛行中に敵と遭遇して……撃墜されました。 そこで多くの仲間を…」
同期の仲間を失ったのは記憶に新しい。 ランダース岬での事件で生還したのはバートレット隊とナガセ少尉のみで、他は全員死亡したと聞いている。(スコットも死亡したと思われているらしい)
「無理して話さなくていいわ。 それより、ケイはまだ“あれ”を書き込んでいるの?」
「……あれとは?」
「ケイは“姫君の青い鳩”って本に何時も何かを書き込んでいるでしょ?」
確かに覚えが無くは無い。ナガセ少尉は時折独りになって赤い表紙の本に何かを書き込み、悩み、書き込み、考え込みを繰り返していたはず。
「ケイはちぎれて無くなったページに、書かれていたことを思い出してメモをしているのよ。 私の本を貸しても、「思い出を失いたくない」とか「新品には頼りたくない」と言ってね……」
沈み行く夕日をバックに、サンド島へのアプローチに入るイーグル中隊。飛行機を操縦するに当たって、一番難しいのは「着陸」である。
「姫君の青い鳩。 ……もしかしてステラの本は「オリジナル版」じゃあないのぉ?」
3番機のシャーベット。ミラ・バーク少尉も話しに加わってくる。 ―――が、戦闘時とは少し雰囲気が違う気がする。
「オリジナル?」
声を合わせるスコットとステラ。
「姫君の青い鳩で、最初に出版された「初回限定版」には“序奏”と原作者・エリノア・グラウンのインタヴューあるんだよぉ。その後の通常版。オリジナル版にはそれらがないのだってぇ」
グラディウスが着陸用のランディング・ギアをおろし、着陸態勢を完了した瞬間だった。突如サンド島コントロール・センターから緊急入電が入る。
- 15 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:07:30 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第12話 『タービンの回転が上がらねぇ!』 These turbines won't start up!
―――――サンド島基地・上空 Location:Sand Island Air Base
「こちらサンド・コントロール。レーダーにユークトバニア所属の航空機部隊を確認。爆撃機とその護衛、攻撃機が多数! イーグル中隊へ、ウォードック離陸まで時間を稼いでくれ!」
着陸態勢に入っていたグラディウスは着陸を中止し、速度と高度を上げて編隊に戻ってくる。サンド島部隊が離陸するにはせいぜい5分ぐらいかかるだろう。
「マスターアーム解除、全兵装オールクリア。 イーグルス各機、エンゲージに備えろよ!」
サンド島に迫る敵爆撃機の迎撃に向かうイーグル中隊。しかし、敵の数は多く、爆撃機を中心とした一団は高高度から、攻撃機を中心とした一団は低高度から接近しているため、こちらも戦力を分散させねばならない。
「シャーベット、エンゲージ」
ふと気がつくと、ミラが「きりっ」としている。普段はシャーベットをと食べながらのんびりしているが、いざ戦闘となると、まるで別人のように人格が切り替わるのだろうか?
「ファイアフライ、交戦」
「ムスタング、交戦」
「グラディウス、エンゲージ。 敵は方位280、ヘッドオンだ」
「アルビオン交戦。 ヘッドオン。頭と頭がごっつんこか。 あまり好きじゃねぇな」
敵部隊との距離が迫る。味方が離陸する時間を稼ぐ為、少しでも長く敵を阻止しなければならない。
「エビフライ、塩タン牛、俺と一緒に来い」
「大佐っ! ファイアフライです!」
「塩タン牛!?」
マーシャル大佐はマジでタックネームを間違えたのか、それとも緊張を和らげてくれるつもりなのか。どちらかは良く分からないが、和んだのは事実かもしれない。
「敵戦闘攻撃機が多数。 ロックオン。 シャーベット、フォックス3.フォックス3」
ユークのストライク・フランカー戦闘攻撃機が、低空からサンド島基地向けてミサイル攻撃を行おうとしている。ミラとベン、ノアは護衛を避けて優先的に敵攻撃機を叩いた。だが、ノアの背後にはいつの間にかユークのフルクラムが射撃位置についていた。
「落ち着けノア! 俺が今助けてやる!」
旋回を繰り返し、回避行動を取り続けて何とかロックされないように踏ん張るノア。
「グラディウス、フォックス2! 敵機撃墜! ……やヴぁい」
ベンがミサイルを発射すると、敵のフルクラムは火だるまになってサンド島基地へと落ちて行った。…フルクラムの残骸が格納庫手間で待機するタイガーUの真上へ落ちていく。
- 16 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:07:51 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第13話 『ウォードッグ・リーダー』 War dog Leader
「緊急発進急げ! 離陸可能な機体から空中退避!」
「空襲警報!空襲警報! 敵爆撃機、接近中。 スクランブル発進し、迎撃せよ!」
イーグル中隊が空中で奮闘する中、ベンの撃墜したフルクラムの残骸が格納庫手間で待機するタイガーUの真上へ落ちていく……
「―――タービンの回転が上がらねぇ! 急げ、急げ、急げ、急げ!」
そして今、格納庫の外でタキシングを始めたダヴェンポート少尉。落下した敵機は彼の近くで待機するタイガーUを巻き込んで大爆発を起こした。
「うわっち!!」
ようやくタキシングを終え、滑走路へと出たウォードック。
「イーグルス・リーダーだ。 俺たちが離陸を援護する! 急げウォードッグ!」
ウォードックを狙おうとしていた敵のフランカーを機関砲で追い払うマーシャル。その間にブレイズ、エッジ、チョッパーのウォードック隊が離陸を完了する。
「管制塔よりウォードッグ、爆撃機の撃墜に向かえ。滑走路をやつらにやらせるな! イーグルスは敵戦闘機を攻撃、ウォードックをサポートしてくれ!」
「了解したぜサンド・コントロール! イーグルス、散開して迎え撃つぞ!」
まずは基地上空の制空権を取り戻さなければならない。まだサンド島基地には多数の味方戦闘機が残っている為、それらの離陸を援護しなければならい。 その時、レーダーに味方の反応が出る。
「こちらウォードッグ・リーダー、アスラン・フォード中佐だ。 サンド島へアプローチ中。 何が起こっているのだ?」
イーグルス第2分隊のアスラン・フォード中佐が数機の味方を引き連れてサンド島に接近している。彼が新たなウォードック・リーダーになる予定の人物だ。
「こちらサンド・コントロール。 当基地は敵の空襲下にある。繰り返す、当基地は敵の空襲下にある」
ユークのブラック・ジャック爆撃機が高高度から爆弾をばら撒いている。既に基地にも被害が出ており、もう一度爆撃を受ければ滑走路の片方は使用不能になるだろう。
「先ほどの敵爆撃機、反転してサンド島へ再接近します」
敵の護衛機を迂回し、舞い戻ってくる敵爆撃機に狙いを定めるナガセたちウォードッグ。 今現在指揮を執っているブレイズだが、新入りとは思えない程的確に部隊を動かしている。
「こちらシャーベット。 隊長、燃料の残りがポイント・オブ・セーフ・リターン(搭載燃料で引き返せる距離)を超えました」
「そうか。 でも安心しろ。下にはサンド島がある! 」
「でも、滑走路を破壊されたら僕たち………」
- 17 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:08:20 DXjf..D3Q.5iAv
- ―――――――――――第14話 『初陣』 “First Flight”
「サンド・コントロール、こちらアルビオン。 戦闘機と爆撃機、どっちから先に始末すればいい!?」
「グラディウスからアルビオンへ。 さっきウォードッグのカバーって指示があっただろ!?」
敵の戦力からして、滑走路が破壊される可能性は高い。輸送機など戦闘機以外の航空機も離陸を始めている。たった今小型の輸送機が飛び立ったが、それとほぼ同時にハンガーから1機のタイガーU戦闘機が姿を現す。
「地上にまだ味方がいたのか!? ステラ、スコット、ミラ! 見えるか!?」
「こちらファイアフライ。見えます! 一体誰でしょうか?」
徐々にタキシングを進め、滑走路を目指す味方機。
「グリムです! 整備班を手伝ってハンガーにいました!離陸します!」
スコットは彼と直接話したことはないが、彼のことは少しだけ知って言った。ハンス・グリム1等空士といえば、兄のジミー・グリムが陸軍に居て、本人は機械にやたらと詳しい発明家の卵。それでもって度胸は人一倍というキャラだったはず。
「―――もう間に合わない。気をつけてグリム、護ってあげる」
彼はまだ全ての訓練をパスしていないはず。スコットが最後に彼を見たときは、まだ基地のシミュレーターや学科に励んでいたので、彼にとって今回の離陸は「初陣」となるのだろう。
「あの命知らずは何所のどいつだ!」
「サンド島のグリム(弟)だ! ノア! 援護してやろうぜ!」
「ベン、知っているのか!?」
「ああ、ブラザーズ・グリム(グリム兄弟)とは同じ学校だ!」
突如ノアの機体に振動が連続で起こる。 ノアは機関砲で撃たれていることに気がついた。だが、その時には既にエンジン出力が40パーセントにまで低下していた。
「アルビオン被弾した! エンジン推力低下! 俺のやる気も低下!」
黒煙を噴きながらも、旋回して敵機の追撃から逃れるノア。
「やる気を戻せ! ついでにエンジンも戻せ!」
「無茶言うな!ベン!」
イーグルスにとって、どちらも低下されては困る代物である。 そのころ、グリムは仲間の援護もあり、何とか敵の攻撃を掻い潜って滑走路に辿り着いた。
「―――操縦系統、油圧系統よし、エンジン音良好、整備兵に感謝。 燃料よし、座席射出装置も問題なし」
離陸しようとする彼の背後から敵機が機銃掃射を仕掛けたが、銃弾は主翼をかすめた程度で直撃はしなかった。
「―――離陸開始位置に到達、 エンジン最大出力!」
- 18 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:08:41 DXjf..D3Q.5iAv
- ―――――――――――第15話 『アーチャー』 Archer
「こちらシャーベット。 グリム1等空士の離陸を確認」
「やるなぁ、あの予備役。 俺のイーグル中隊にもあんな奴が欲しいもんだぜ!」
敵機の攻撃を受けつつも、仲間の支援のお陰で離陸を果たしたハンス・グリム1等空士。
「―――こちらグリム一等空士、コールサインは「アーチャー」。 管制塔および全機に連絡。本機はこれよりウォードッグ隊に加わります」
ウォードッグ3番機であるチョッパーの後に続くアーチャー。 また、先ほどからサンド島に接近していたイーグルス第2分隊も到着した。
「こちらウォードッグ・リーダー。 サンド島、燃料がない。 着陸許可を求める」
「無理です、フォード中佐! 空襲中なんだ」
フルパワーでやってきたせいか、第2分隊は燃料を殆ど使い尽くしているようだ。 しかし、この状況で着陸するのは危険を通り越して無謀である。 ただ、彼の背後には多数の航空機が見える。正直、彼の部隊としては少々多すぎる気がする。
「……空中の味方機、本隊の着陸を援護せよ!」
ランディング・ギアをおろし、着陸態勢に入るフォード。 少し後方では彼の寮機が援護している。
「阿呆が!」(チョッパー)
「アホゥが」(ベン)
「間抜けが!」(ノア)
声をそろえる3人。
「ダヴェンポート少尉とウォーカー少尉とクルーズ少尉か?」
「……そうであります」
「イエス・サー」
「何で分かるんだよ」
「てめぇら着陸後に…………」
だが、彼の台詞は途中でぶつんと途絶え、フォードの機体はあっという間に火だるまに変貌した。 彼の寮機の背後には既に敵の増援部隊がやってきていたのだ。
「こちら管制塔。増援の爆撃機が接近中。 急ぎ向かい撃墜せよ!」
スコットは接近してくるベア爆撃機にXMAAを撃ち込み、爆弾の投下を阻止した。更にこちらに接近してくる敵戦闘機がいたので、残りのXMAAを放ってすぐに回避行動に入った。
「ムスタング、上空にユークのフルクラム。 気をつけて」
上後方からスコットを狙う敵機。爆撃機を撃墜した代償なのだろう。ちょっとやそっとでは振り切れそうに無い。だが、スコットは爆撃機撃墜後に敵がこちらを狙ってくることを想定して飛んでいたので、反撃の手立ては十分にある。
- 19 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:08:59 DXjf..D3Q.5iAv
- ―――――――――――第16話 『日没の空』 Skies of Sunset
「アルビオンよりブレイズ、グリムを守ってやってくれよ!」
グリムのタイガーUは初めて空を飛ぶ小鳥のようにふらふらしている。見ているだけでも危なっかしいが、今それに構っている余裕は無い。 グリムがどうなるかは全て隊長のブレイズ次第ということだ。
「武器も燃料もそろそろ限界だな。早いところケリをつけようぜ」
イーグルス各機の燃料は20パーセントを下回っている。戦いを長引かせれば燃料切れで墜落してしまうだろう。 その一方で、ウォードックは順調に敵爆撃機を駆逐し続けていた。特にブレイズの活躍が凄まじく、まさに向かうところ敵無しという感じだ。
「敵の数が少なくなってきた。 もう一息だぞ!」
マーシャルはミサイルを全て撃ち尽くした。機関砲の残弾もゆとりが無いので、大型の爆撃機を落とすのは少々困難である。 だが、ナガセの発射したミサイルが最後の爆撃機を叩き落した。
「―――管制塔より全機へ。 爆撃機の全滅を確認、みんな良く守ってくれた!」
残りの敵機は敗走し、サンド島上空は黒煙とオーシア軍機のみになった。 イーグル中隊はまず被弾したノアから着陸し、後は燃料の少ない順に滑走路へと降りた。 全ての機体が着陸する頃には、夕日はその姿を完全に消していた。
「荒れているな」と、マーシャル。
ステラやミラも機体から降り、サンド島基地を眺めた。 基地そのものは荒れ果てて居るが、照明装置は正常に動いている。
「ダヴェンポート少尉、何をしているのですか?」
数名の整備兵と共に、肉や野菜や鉄板、サラダ油などを格納庫から持ち出してくるダヴェンポート。何に使う代物かは大体予想できる。
「グリムの初陣祝いだ! スコット、お前たちも食べていくだろ!? あと、呼ぶときはチョッパーだ!」
「あ、はい!」
機体の補給と修理が終わるのには大分時間がかかる。それに、夕食の当てもないので、ここはサンド島でバーベキューをご馳走になるといいだろう。と、チョッパーに言われ、イーグルスもパーティへの参加を決めた。
「……シャーベットはないのぉ……?」
「アイスじゃダメなのか?」
アイスボックスの手前でミラがうずくまっている。 中にあるのはアイスキャンディーや氷、その他の飲料水のみである。 開戦から約17時間。こうしてバーベキューをしていると、とてもそうとは思えない。基地は荒れ果て、何とか機能を保っている状態であった。 翌朝には最寄りの基地へ非難していた輸送機らがサンド島に再び姿を現し、イーグル中隊も本拠地であるハイエルラークへの帰路についた。
- 20 マーシュ 2006/12/24 Sun 21:09:24 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第17話 『サンド島からの手紙』 Letters From Sand Island
――ハイエルラーク空軍基地 Location:Heierlark Air Force Base
「どうひたの?」
シャーベットがオレンジシャーベットを食べながら問う。
「……」
ステラ・バーネット少尉は基地に帰等すると、最初にシャワーへ行く。その後、自室にある携帯電話のメールをチェックするのが習慣。 メールは3通来ている。ひとつは友人 “ジェシカ・ブラッカイマー” からで、もうひとつはブティックの新商品入荷の案内。 最後の1通はサンド島のケイ・ナガセからだ。
「ながふぇしゃんからへごみ?」
(訳:ナガセさんからメール(手紙?)
ナガセからのメールの内容は大体決まっている。 「姫君の青い鳩」の修復状況や、その日の出来事。くだらない愚痴、些細な話などなど。 だが、今回は少しだけ違った。
「あーくはーとがへいひとしてひっへんとうひゅうされるの?」
(※訳:アークバードが兵器として実戦投入されるの?)
「ミラ、食べ終えてから話してくれない?」
「ほめんなはい」
宇宙船「アークバード」と言うと、国際宇宙ステーション建設の第1歩として作られた「白い鳥」の名前で知られる人工衛星の一種。だが、この宇宙船が改造されて兵器として運用される可能性が浮上したのだ。
「他にはー?」
「ジェシカから来ているわ」
ジェシカの文章は丁寧だが、内容は愚痴や悩み事ばかり。 ミラはさらにグレープシャーベットを口にくわえる。
「指導教官が石頭で困っているみたいね」
「ジェシカの指導教官って、確かえいわっくす サンダーヘッドのあの人?」
空中管制機サンダーヘッドの管制官は、とにかく石頭なことで知られる。また、イーグルスも先のセント・ヒューレット軍港でそのサンダーヘッドの石頭ぶりを十分に思い知っていた。
「またメールが……」
ジェシカからだ。 彼女もサンダーヘッドのように空中管制指揮官を勤めるので、次回の作戦の情報もいち早く入手することがある。 この内容によると、近い内に「オーシア第3艦隊」の各空母が、安全な内海である “イーグリン海峡” に集結するとのことだ。集結する航空母艦は、ヴァルチャー、バザード。そして先のセント・ヒューレット軍港から脱出に成功したケストレルだ。
- 21 マーシュ 2006/12/25 Mon 22:26:28 DXjf..D3Q.5iAv
- ―――――――――――第18話 『待ち合わせはイーグリン海峡で』 “Rendezvous”
―――オーシア領・イーグリン海峡上空 Location:Eaglin Straits
オーシア軍は第3艦隊の航空母艦を安全な内海に集結させ、これを基盤に反撃勢力を構築する。約100機の戦闘機を運用できる空母が3隻もあれば絶大な戦力になるため、敵もこれを黙ってみているはずが無いだろう。だが、敵は結局何も仕掛けては来なかった。
「艦隊は内海に入ったか。今日の仕事はこれで終わりだな」
セント・バーナード軍港からやってきた “空母ヴァルチャー” を護衛していたイーグル中隊もこの作戦に参加していた。空には数え切れないほどの味方航空機が艦隊上空を防護し、海上には護衛の艦船も多数。敵の出る幕も無い。
「こちら空中管制機サンダーヘッド。 敵の航空攻撃可能圏外に到達した。 順次所属基地への帰還を許可する。遠方より飛来の隊には基地までの帰投用燃料を与える。空母上空で待て」
「さってと、イーグルス。 帰還するぞ」
「ファイアフライ、了解」
「シャーベット、了解」
「ムスタング、了解です」
「グラディウス、ラジャー」
「アルビオン、ラジャ」
艦隊を離れ、基地へと戻るイーグル中隊。だが、何か胸騒ぎがする。 その時、イーグルスの少し後方を飛行していたウォードッグのチョッパーが無線越しに異常を告げた。
「おい、なんだこりゃ。 レーダーの故障か?」
「こっちにも出ています」と、グリム。
「どっから出て来たんだ? サンダー・石頭・ヘッド野郎は気づいてねえのか?」
スコットたちもレーダーに目をやると、確かに敵影が映し出されている。
「て、敵接近!各隊戻れ! 空母を護れ! ―――空母は全部で3隻。 1隻たりとも沈めさせるな!」
「ったく、イーグルス、戻るぞ!」
旋回して艦隊上空へと引き返すイーグル中隊。 ヴァルチャー、バザード、ケストレルの間には距離があるため、各個撃破される可能性がある。合流までの間その危険を防ぐ為に大量の航空機が上空をカバーしていたのだが、安全地帯に入った為に殆どの海軍機は母艦に帰等し、空軍機も燃料の問題で引き上げる部隊もあった。
「総員、戦闘配置に就け! 繰り返す、総員戦闘配置! 航空隊の発艦を急がせろ!」
「空母ケストレルに伝達! 合流を急がせろ!」
しかし、何故敵がこんなところで出現するのだろうか? 最寄りのムルスカ基地からでは此処まで飛んでくることはまず不可能である。事前情報では敵艦隊が動いていると言う情報も無く、ここに謎が生まれたが、今は空母を守らなくてはならない。
- 22 マーシュ 2006/12/25 Mon 22:27:12 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第19話 『第3艦隊集結』 “Rendezvous” PartU
「ヴァルチャーが攻撃されて甲板に被害が出た場合、艦載機の支援を受けられなくなります。 大佐、命令を」
「イーグル1からシャーベットへ。 細かい作戦は無い。ただ敵をやっつけてくれ! でもヴァルチャーから離れたりするなよ!」
イーグルスは艦隊の攻撃を逃れ、そこから更に空母へ接近する敵機を狙う。新人の多いイーグルスだが、この戦争の冒頭から参加している部隊なので、決して経験不足というわけではない。
「味方が上に上がるまでの間、何とか時間を稼がないと」
スコットは空母に一番近い敵から狙う。敵が特別に手強いと言うわけでもないが、かなり統制の取れた動きをしているので、複数の敵に囲まれないように注意しなければならない。
「ケストレルから艦載機が発艦したようね」と、ステラ。
「―――よし、わが隊はこれより敵の掃討に向かう!」
艦隊の最後尾を航行するケストレル。そこから出撃したのはオーシア海軍のエース、マーカス・スノー大尉の部隊だろう。 また、ケストレルにはウォードックが直援として随伴している。
「イーグル1からイーグルス各機、空母の直援は海軍に任せる! 俺たちは艦隊に接近する敵機を迎え撃つぞ!」
「こちらグラディウス! 隊長!レーダーに新たな戦闘攻撃機です! いや、上空にもシグナルがあるぞ!」
敵は遠方から長距離対艦攻撃を仕掛ける部隊と、高高度から急襲する部隊に分かれている。スノー大尉の部隊と、ウォードック隊がそちらの迎撃に向かっているので、イーグルスは高高度から迫る敵機の迎撃に向かった。
「速度に注意しないと…… 空戦中に失速したらいい的だ……」
最大出力で一気に高度を上げるイーグルス。ステラ、マーシャル、スコット、ミラ、ベン、ノアの順だ。スコットは速度計に注意しながら上昇を続けた。空中で失速すれば即座に回避行動が出来ずいい的になり、折角此処まで上昇したのが無駄になってしまう。
「高度8000フィート。数は4機」
射程に入ると、ステラとスコットはXMAAを放ち2機の敵機を撃墜した。
「ロックしたぞ! 喰らえ!イーグル1フォックス3!」
まるで映画の悪役に止めを刺すかのような勢いでミサイルを放つマーシャル。だが、あろうことかそのミサイルはあっけなく回避された。ミサイルを回避した2機の敵機は空母のほぼ真上に差し掛かると、一気に急降下を始める。
「やべっ! ベン、ノア! 奴らを止めろ!」
マーシャルは後ろに居たベンとノアに討ち漏らした敵機の攻撃を命じた。2人はすぐに反転して敵機を追撃。敵が空母を攻撃する前に叩き落した。 しかし、あっけなさ過ぎる気がする。
「こちらサンダーヘッド。敵戦闘攻撃機の全滅を確認、よくやった」
- 23 マーシュ 2006/12/25 Mon 22:27:33 DXjf..D3Q.5iAv
- ――――――――――第20話 『艦隊の死』 “Ballistic Missile”
高高度から急襲を試みた敵機を迎撃するために、イーグル中隊は高度7000フィートまで上昇していた。とはいえ、艦隊からの攻撃で高高度から飛来した敵機の大半は撃墜されていたので、イーグルスがここまで出向く必要性はそれほど濃くは無い。
「―――弾道ミサイル接近!」
その時、彼らイーグルスの真下。艦隊上空で風船が破裂するかのように空が発光する。
「ああ? イーグリン海峡で花火大会の予定があったか?」
「シャーベットより大佐へ、花火大会の予定はありません」
これが花火ではないのは確かだろう。ベンとノアを含み、先ほどまで艦隊上空を防護していた味方航空機が後勝たなく消えている。さらに空母バザードが黒煙を吐きながら傾斜していた。
「これって…… 一体……」
現在の高度を維持しつつ艦隊上空を旋回するスコットたち。ふと視線をずらしてみると、近くにはナガセたちウォードッグやスノー大尉の部隊も確認できる。
「誰か!いったい何が?」
「分からん、とにかく高度5000フィート以下のものは全滅した!」
ナガセとスノーの今の会話からすると、高度5000フィート。約1500メートル以下の味方は全滅したそうだ。 海上の空母は傾斜し、甲板の飛行機や乗員が零れ落ちている。まるで下ごしらえを終えた食材が鍋に飛び込むかのようだ。
「―――ミサイル第2派飛来!」と、サンダーヘッド。
「くそっ!生き残りたければ弾着までに高度5000フィート以上に上昇しろ! 各機急げ! ケストレル、避退しろ!」
「おいマーカス! 何処かでファルコンを2機見なかったか!?」
「今言ったとおりだポール! 5000フィート以下は全滅だ!」
更に炸裂する弾道ミサイル。ヴァルチャーや他の艦船も次々とその餌食となってゆく。
「どうしてこんなことに……僕はただ黙ってみているしかないのか」
スコットは祖国オーシアを守るために軍に入った。その後も自分に出来る限りのことはしてきたが、この凄まじい光景の前に言葉を失っていた。この圧倒的な力の前に、努力や信念なんてものは無に等しい。
「……こちらケストレル、アンダーセン艦長。生き残った機は報告せよ」
「こちらイーグルス。被害は出たがまだ生きている……」
その後、イーグル中隊は重苦しい雰囲気のままハイエルラークの帰路についた。
- 24 マーシュ 2006/12/25 Mon 22:28:05 DXjf..D3Q.5iAv
- ―――――――――――第21話 『雪の降る空』 Snow Skies
――ハイエルラーク空軍基地 Location:Heierlark Air Force Base
グラディウスとアルビオン。ベンとノアが行方不明のままスコット達イーグル中隊はハイエルラーク基地へと帰還した。 だが、今日はハイエルラークに客がいた。イーグリン海峡上空で空中給油機を受けられなかったサンド島飛行隊が給油のためにハイエルラークへとやってきていたのだ。
「何だ? 俺たちの経験談では物足りないってか?」
「大佐、皆は新しい話題が欲しいのではないのですか?」と、ステラ。
暖炉の前でハイエルラークの訓練生に囲まれるサンド島部隊。ハイエルラークはイーグルス第3分隊の基地ではあるが、それ以前に此処は練習飛行場である。
「くっそー、俺も混ぜろ!」
子供のようにサンド島部隊のほうへ駆け出すマーシャル。 ミラはこんな寒いにも関わらず、アイスシャーベットを片手にサンド島部隊の経験談を聞いている。また、スコットとステラもサンド島。ナガセたちの経験談には興味があるので、みんなの後を追った。 後に分かったことだが、サンド島部隊が注目される原因はある記事にあった。記者の「アルベール・ジュネット」という人物の書いた記事が、彼らを一躍有名人に見立てていたようだ。
「―――ムスタング、もうサンド島には戻ってこないの?」
一段落した後、基地のベランダでナガセがスコットに色々と問い合わせてきた。どうやって生還したか。どのようにこの部隊へ所属したか。
「今のところサンド島部隊への復帰のめどはありませんね。 それに、フォード中佐の部隊の生き残りがサンド島の直援になったので、僕が戻る必要性はあまりないみたいです」
「それに、イーグリン海峡上空で私達の部隊は被害を受けた。だから正直、スコットにはこの部隊に残ってほしいのよね」と、ステラ。
基地2階のベランダからは基地の滑走路が一望できる。雪の降る夜空の中、滑走路と管制塔は光を放ち、地上では除雪車が忙しそうに滑走路や駐機場を往復していた。 ナガセたちウォードッグ同等かは分からないが、イーグルスもこの戦争で最も実戦経験の多い部隊のひとつかもしれない。 若い新人の多い両部隊が。
「ケイ、例の件だけど“アークバード”が兵器として使われる可能性は本当になったみたいなのよ」
ステラは携帯を取り出し、ジェシカからのメールを読み返した。 前回の作戦で多くの戦力を奪った散弾ミサイルは、ユークトバニアの潜水航空母艦 “シンファクシ” から発射されたものであると判明したらしく、オーシアはこれに対抗するべく「宇宙船アークバード」を兵器として運用することを決定したそうだ。
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