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ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTERT 見えざる脅威

No.131
1 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:00:06 DXjf..D3Q.5iAv
ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD ChapterT Phantom Menace
エースコンバット 5 インヴィシブル・ゴッド  第1章 見えざる脅威

The More That I Fly…
力がある限り、我は飛び続ける

――――――――――主な登場人物   Main Character

オーシア国防空軍第24飛行隊 “ガーディアン・イーグルス”
Osean Air Defense Force 24th Squadron “Guardian Eagles”

 スコット・ヘンダーソン  Scot Henderson   TAC Name:“Mustang”
 本作の主人公。国籍不明機の攻撃から生き残った一人。高校卒業と共にオーシア空軍へ入隊。サンド島の「ジャック・バートレット大尉」の下、厳しい訓練を受けてパイロットとしての技能を身につける。ナガセとダヴェンポートとは同期。真面目で控えめな性格だが、熱くなると我を失うところもある。極端に得意や苦手は存在しないが、勉強も運動もそれなりに出来る秀才。TACネーム(ニックネーム)はMustang(ムスタング)

 ステラ・バーネット  Stella Burnet   TAC Name:“Firefly”
 オーシア空軍第24飛行隊「ガーディアン・イーグルス」に配属する若手のパイロット。軍隊にはあまり興味が無いが、親友である“ケイ・ナガセ”が空軍に入隊するのをきっかけに彼女も同じ道を進んだ。父親は15年前のベルカ戦争で撃墜されて以来行方不明で、母親も失踪した為、幼いころからポールの親戚が経営するバーネット孤児院で育つ。TACネームはFirefly(ファイアフライ)

 ポール・“ジャック”・マーシャル  Paul“Jack” Marshall  TAC Name:”Rex“
 オーシア空軍第24航空隊、「ガーディアン・イーグルス」通称イーグル中隊の隊長。 判断力があり部隊長としては優秀なのだが、テンションが高く私語が多い為に少々浮き出た存在である。空戦技術はオーシア空軍の中でもかなり高い。階級は大佐。15年前のベルカ戦争に参加。そこで彼は同じ部隊に所属していた「2人のジャック」と意気投合し、それ以降彼も「ジャック」と名乗ることがあったそうだ。TACネームはRex(レックス)

 ミラ・バーク  Mira Burke   TAC Name:“Sherbet”
 オーシア空軍第24飛行隊所属「ガーディアン・イーグルス」のパイロット。一言で言うと “2重人格” 。戦闘時は凛々しいが、それ以外となると気合が抜けたかのようにだらだらしている。出身はユージア大陸のサンサルバシオン。また、アイスシャーベットが大好きで、暇さえあればとにかく食べている為、TACネームはsherbet(シャーベット)

―――――その他のオーシア軍  Osean Force

 マーカス・スノー  Marcus Snow  TAC Name:“Swordsman”
 オーシア第3艦隊の航空隊指揮官。海軍機、特にトムキャットに彼を乗せた場合、まず右に出るものは存在しないほどの実力を持ち、隣国ユークトバニアにもその名をとどろかせている。階級は大尉。 TACネームはSwordsman(ソーズマン)

―――――オーシア国防空軍108飛行隊・ウォードッグ  Osean Air Defense Force 108th Squadron Wardog

 ジャック・バートレット  Jack Bartlett  TAC Name:Heartbreak One
 オーシア国防空軍108飛行隊。通称ウォードッグの隊長。国籍不明機の攻撃から生き残ったパイロットのひとり。仲間思いで命令に従わないことが多く、その為に15年前から昇進していない。TACネーム/コールサインは「ハートブレイク・ワン」

 ブレイズ  TAC Name:“Blaze”
 “ACE COMBAT 5 THE UNSUNG WAR”の主人公。オーシア空軍の新入り。成り行きで108飛行隊ウォードックのリーダーとなり、才能を開花させる。 同期で同部隊のダヴェンポートとは対照的に無口な傾向にある。本名不明。

 ケイ・ナガセ  Kei Nagase  TAC Name:“Edge”
 オーシア空軍108飛行隊、ウォードック飛行隊に所属する女性パイロット。国籍不明機の攻撃から生き残った一人。ステラの親友かつメールフレンドで、ステラが空軍に入るきっかけを作った人物。優れた空戦技術をもち、精神的肉体的にも非常に頑丈。TACネームはEdge(エッジ)

 アルヴィン・H・ダヴェンポート  Alvin H Davenport  TAC Name:“Chopper”
 オーシア空軍108飛行隊、ウォードック飛行隊の3番機。スコットの同期で、面識がある。部隊内ではムードメーカーを務めており、ややオーバーリアクション気味。TACネームはChopper(チョッパー)
2 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:01:47 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――序奏  Prologue

 15年前、戦争があった。

 いや。 戦争ならば遥かな昔から何度となくあった。 彼らは北辺の谷を出で、南の土地を目指して侵攻を繰り返した。 しかし、運に恵まれぬ彼らに利が続くはずはない。 彼らは時代が変わったことに気づかなかった。敗戦を繰り返しては領土を失い、小国に戻りつつあった彼らは比類無き工業力を養い、それを武器に世界に向かって最後の戦いを挑んだ。

 ―――それが15年前の戦争。

 彼らは猛々しく戦い、惨敗した。 自国内で核兵器を使う愚さえ犯したベルカ人。 その無惨を目にした戦勝国たちは、自らの武器を捨てようと心に誓った。 世界に平和が訪れた。 彼らのおかげで。 それは永久に続くかと思われた。

 平和から最も遠いこの島で、平和を守って飛ぶ彼ら。

 ACE COMBAT 5  INVISIBLE GOD
 エースコンバット 5  インヴィシブル・ゴッド


――――――――――第0話 『その時、僕は空中にいた』  Red Alert

 ―――オーシア領・ランダース岬沖

 オーシア軍、サンド島基地に所属するスコット・ヘンダーソンは訓練飛行中に予期せぬ出来事に遭遇した。突然のレッドアラート。いわゆる緊急事態。

 「―――無茶ぁ言うな。 こっちは新米の面倒を見ているんだぜ?」

 スコットの少し前方を飛行するのは編隊長のハートブレイク・ワン。“ジャック・バートレット”大尉だ。美しい雲の上、彼らに10機の国籍不明機が接近している。

 「通信司令室よりウォードッグ。 不明編隊のコース……ラングース岬を基点に、278から302。 バートレット大尉、サンド島の貴隊しか間に合わない」

 教官はハートブレイク・ワンとスヴェイゾン、ベイカーの3機。部隊などにもよるが、飛行中は本名ではなくこのようなタックネーム(ニックネーム)で呼ばれる。 3名の教官以外、全員が訓練生だ。勿論国籍不明機への対処などできるはずが無い。

 「―――ベイカー、スヴェイゾン。後ろにつけ。教官のみで領空侵犯機を出迎える。 残りは低空へ避退しろ」

 言われるままに雲を抜けて低空へと避退するスコットたち訓練生。 だが、雲を抜けると同時に突然警報が鳴り響く。国籍不明機がスコットたちをミサイル・ロックしたのだ。 そして続けざまにミサイルアラートが鳴り響き、一同は驚きと同時に回避行動を実施した。

 「ミサイル! ブレイク!ブレイク!」

 スコットの乗るタイガーUの上をかすめ、白い尾を引いたミサイルが後方のタイガーを木っ端微塵にした。 スコットはミサイルを回避して辺りを見回すと、既に5機の仲間が散っていた。

 「ダメだ! 逃げ切れない!」

 国籍不明(アンノーン)のフルクラムが更に仲間を血祭りに上げる。 その時、上空から2機のタイガーを引き連れたバートレット大尉が降下してくる。 だが、5対10の戦いに勝ち目があるとは思えない。

 「スヴェイゾン! ベイルアウトしろ!」

 国籍不明機が放ったミサイルにより、教官の1機が撃墜される。残っているのは隊長のバートレット大尉とムスタングのTACネームを持つスコット、ベイカー、そしてスコットの同期で、エッジのTACネームを持つナガセ少尉。 その時、スコットの背後にアンノーンが迫る。

 「ムスタング、後方に敵! 回避して!」

 ナガセ少尉の警告と同時にバックミラーを見ると、2機のアンノーンが既に機関砲で銃撃を加えて来ていた。 スコットは旋回して回避行動を取るが、2機のアンノーンの銃撃により機体をズタズタに引き裂かれ、ベイルアウトを余儀なくされた。
3 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:02:15 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第1話 『新たな部隊』  The Guardian Eagles Part1

 ―――オーシア・マクネアリ空軍基地
 Location:McNealy Air Force Base

 スコットは運がよかった。 ベイルアウトして海面に叩きつけられて意識を失っていたそうだが、偶然近くを通りかかったオーシアの漁船が彼を救助し、帰り道にある“バゼット国際宇宙センター”まで運んでくれたそうだ。 治療が完了すると、スコットはすぐ近くにあるマクネアリ空軍基地からサンド島に戻ろうとしたが、上層部の事情でハイエルラーク基地へと向かうこととなった。 そこにある第24航空隊に合流しろとの指示を受けて。

 ノースオーシア州にあるハイエルラーク基地。15年前の戦争では南ベルカと呼ばれていた地だ。また、此処の更に北には閉ざされたノルト・ベルカが存在する。 15年前、ベルか軍は進撃する連合軍を食い止めるため、7つの町で7発の核爆弾を使用して極寒の谷に閉じこもった。 核で蒸発した7つの町は今でも放射能を放っている。


 ―――オーシア・ハイエルラーク空軍基地
Location:Heierlark Air Force Base

 ハイエルラーク基地。ここはスコットにとっては記憶に新しい場所だ。 ハイエルラークはオーシア空軍の練習飛行隊の飛行場でもあり、スコットやサンド島の同級生もここにずいぶんと世話になった。

 「すみません。 サンド島から来たスコット・ヘンダーソン少尉です……」

 「悪いけど今忙しいんだ。 手続きは後でやっておくから、今は直接マーシャル大佐のところに向かってくれ。 場所は……第1格納庫だ」

 基地の受付はとても忙しそうだ。ちゃんと手続きを完了させてくれるか心配だが、スコットは言われたとおり格納庫のマーシャル大佐の元へ向かった。
4 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:02:44 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第2話 『なりゆき』  The Guardian Eagles Part2

 ―――――ハイエルラーク基地・第1格納庫
Location:Heierlark Air Force Base 1st Hangar

 「すみません。 此処にマーシャル大佐が居ると聞いてきました」

 「あんたは?」

 現地の整備兵にマーシャルの居場所を尋ねるスコット。

 「ああ、大佐か。 大佐はあそこいるぞ」

 なにやら格納庫のど真ん中に人ごみが出来ていて、その中央にはパイロットスーツ姿でナイロンギターを持つ男性が居る。あの人がマーシャル大佐だろうか? だが、その時突然警報が基地内に鳴り響く。

 「緊急事態発生! 現在“セント・ヒューレット”軍港が所属不明機の空襲を受けている! 繰り返す! 現在……」

 警報と同時に一斉に解散する兵士達。ギターを下ろした男性も急いで自分の装備を手に駆け出し、機体へと向かおうとしたが、偶然スコットと視線が重なった。

 「おい、何をぼやっとしている! パイロットが足りないことは知っているだろ! 急げ!」

 そう言うと、その男性は格納庫の隅にあるコンテナから装備一式を取り出してそれをスコットに投げ渡した。 だが、何故彼がスコットにいきなりこのような行為をするのだろうか?

 「待ってください! 僕は……」
 「つべこべいわずに準備しろ! スクランブル(緊急発進)だぞ!」

 その男性が合図をすると、他の整備兵がスコットを出撃可能な機体に案内した。

 「あ、あのぅ……僕はまだ」
 「大丈夫だ少尉! 俺が整備した機体だ!」

 スコットは自分がたった今此処に配属されたと言いたいのだが、中々言わせてくれない。

 「そうではなく……」
 「心配するな! 第1印象はああだが、マーシャル大佐は優秀だ!」

 どうやら、先ほどの男性がマーシャル大佐らしい。とりあえずそれが分かったことはいいことだ。しかし。

 「僕は今来たばかりです!」
 「だからスクランブルだって言っているだろ! 急げ!荷物は俺が責任持って預かる!」

 「そうではなくて、僕は今……」
 「グッドラック!」

 キャノピーが閉まるのを確認すると、その整備兵は親指を立てて眩しいスマイルをスコットに送った。彼の歯がキラリと光り、その直後ハンガーのハッチが開放された。
5 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:03:06 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第3話 『開戦』  “Open The War” Part1

 ハイエルラーク基地から出撃したスコット達は、攻撃を受けているセント・ヒューレット軍港に向かっている。最初は国籍不明の航空機だと聞いていたが、後にこれは“ユークトバニア共和国”の航空機で、宣戦同時攻撃だと判明した。


 ―――セント・ヒューレット軍港周辺空域

 「イーグルス・リーダーより各機、数分でセント・ヒューレット軍港だ! 皆気を抜くなぁ!」

 部隊は隊長であるマーシャル大佐の機体の側面に、左側に一直線に並んでいる。 スコットは4番目で、右には隊長を含み3機。右には2機。合計6機だ。

 「ファイアフライ、了解!」
 「シャーベット、了解」

 穏やかな女性の声と落ち着いた女性の声。 流れ的に次はスコットが報告する番だ。

 「……ムスタング、了解」

 「グラディウス、了解」
 「アルビオン、了解」

 しばしの間空白が出来る。

 「―――っと!待て、待て、待て! ムスタングって誰だ!?お前は誰だ!?お前は何者だ!?お前は敵か!?お前は変態か!?シャーベットの次はグラディウスのはずだぞ!」

 予測していた事態だが、今更気がつかれてもどうしようもない。

 「僕はスコット・ヘンダーソン少尉です。サンド島から転属になったのですが、基地の受付が直接マーシャル大佐にお会いしろと言っていて……」

 「新入りだったのか!? それくらい言おうぜ!?」

 スコットは言おうとはしたが、中々聞いてもらえなかった。そして、成り行きで今飛んでいる。かつて訓練で使用したことのあるファイティング・ファルコンであったのでよかったが、操縦法を知らない機体だったら今頃どうなっていただろうか?

 「こちらイーグル2、ファイアフライです。大佐、これは一体…?」

 「一人多いと思ったが……まあいい! 行くぞ皆!」
 「いいのですか!?」

 アフターバーナー全開で一気に加速する隊長。他の仲間もそれに続く。 正面にはセント・ヒューレット軍港が見えるが、既に攻撃を受けているだけあり、至る所から黒煙が立ち上っている。
6 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:03:24 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第4話 『ソーズマン』  “Open The War” Part2

 「こちら、オーシア第3艦隊航空隊のソーズマン。スノー大尉だ。 前方の味方機、所属を知らせよ」

 スコットたちの背後から急速接近する味方のトムキャット。

 「オーシア第24航空隊、ガーディアン・イーグルスの隊長マーシャルだ。 マーカス、こんなところで何やっている?空母は湾内だぞ?」

 「ポールか!? 貴様こそ此処で何をしている!? 確か映画監督になるとか言ってなかったか!?」

 背後からやってきたトムキャットがマーシャル大佐の側面につく。 マーカス・スノー大尉のことは「オーシア・タイムズ」の特集である程度は知っている。彼はオーシア海軍のトップエースで、トムキャットに乗ったら右に出るものはいないそうだ。

 「話は後だ。ポール、俺は先に行くぞ!」

 加速してイーグル隊から離れるスノー大尉。 だが、その更に向こうには3機のタイガー2戦闘機が見える。 スコットはそれに見覚えがあった。オーシア軍でタイガー2を使用している航空隊と言えば、やはり「サンド島航空隊」の可能性が高い。

 「―――ナガセ少尉 命令に従え」

 「いいえ、指揮はブレイズが。私は後ろを守るもう1番機を落とさせはしない!」

 なにやらもめているようだ。 そこに、スノーのトムキャットが後方から勢いよく彼らを抜き去る。

 「うろうろしているな! 此処は戦場だ! そこらじゅうに居る敵に食われるぞ!  ……こちらソーズマン、スノー大尉だ。次の敵部隊を迎撃する、位置を教えてくれ」

 港は極度の混乱状態にあるため、現地の部隊から有力な情報が得られるとは思えない。

 「…………そこの給油艦! 舵を切れ! 舵を切れ! ぶつかるぞ!」

 湾内の給油艦と駆逐艦が激突し、一気に炎に包まれた。更に船体から漏れた重油が海面そのものを炎で飾っている。

 「隣の給油艦が爆発した!消火艇はどこだ?本艦に燃え移る!助けてくれ!!」

 「消火艇が爆発に巻き込まれた。2隻…いや3隻…燃えているぞ……!」

 立ち上る炎、沈む艦船、まるで映画のワンシーンのようだ。 軍港上空内に侵入すると、AWACSサンダーヘッドから通信が入る。

 「こちら空中管制機サンダーヘッド。諸君は今こちらの指揮下に入った。緊急体につき、私がここで状況を説明する」

 聞かなくても港が混乱していることは一目瞭然である。だが、統制が取れた一団が第3艦隊の中核をなす“空母ケストレル”を守りつつ、港からの脱出を試みているとのことだ。
7 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:03:37 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第5話 『狭間の第1派』  “Naval Blockade” Part1

 ―――セント・ヒューレット軍港  Location:naval port at St Hewlett

 「こちらは港長!港口に近い艦から港外へ逃れよ!」

 港の管制部もこの状況では的確な誘導は難しいのだろう。そのような場合、やはり近い船から脱出させるのが最も利口なのかもしれない。

 「こちらオーシア第3艦隊旗艦の空母ケストレル。これより湾外への脱出を試みる」

 「了解ケストレル。ケストレルの脱出を優先しろ!  そこの艀!気持ちはわかるが道を空けろ!空母は貴重品なんだ!」

 スコットたちイーグル中隊も空母ケストレルの支援に向かう。他の船に比べてひときわ目立つ航空母艦。ケストレルは海に浮かぶ空港であり、空から見てもやはり巨大である。

「イーグル1から各機へ、方位280にユーク軍機がどっさりだ!エンゲージに備えろ! レックス、交戦!」

 「了解です大佐。 ファイアフライ、交戦!」
 「空母ケストレルの護衛。 了解。 シャーベット、交戦」

 「ムスタング、了解」

 「グラディウス了解」
 「アルビオン、ラジャ」

 ユークトバニアのフロッグフット攻撃機が湾口施設にロケット弾を掃射している。あのままだと石油備蓄施設が危ない為、それを阻止しなくてはならない。

 「グラディウス、アルビオン。敵の攻撃機をやってくれ! 残りは俺とケストレルの援護を……」

 だが、そこに思わぬ横槍が入る。

 「駄目だ。こちらはサンダーヘッド、空中管制指揮官だ。 イーグルスは湾口周辺で巡洋艦ハンマーの到着を待て。それまでは制空権を維持し、ハンマーが到着次第、その直援につけ」
 「イーグルス・リーダーよりサンダーヘッド! 此処はどう見てもケストレルの援護が優先だろ!?」

 マーシャル大佐の異議を無視し、サンダーヘッドは別部隊に、ウォードッグ隊にケストレルの援護を命じた。

 「このストーンヘッド野郎(石頭)がぁ!」

 しぶしぶ一足先に湾口へ向かうイーグル隊。 だが、ここは想像以上に凄まじい場所だった。ここはユーク軍にとってもオーシア軍にとっても重要な出入り口であり、敵の出入りが激しく数も半端ではなかった。
8 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:04:01 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第6話 『ケストレルを守れ』  “Naval Blockade” Part2

 突然の奇襲攻撃のため乗員の数が足りず、船を動かすだけで精一杯なのだろう。また、敵味方識別装置(IFF)が作動していない為に友軍誤射まで発生している。

 「こちらイージス巡洋艦ハンマーの艦長、スタンパー大佐だ。 これより本艦はケストレルと共に湾口を目指す」

 混乱の中、オーシア第3艦隊の艦船数席がケストレルと共に湾口を目指す。だが既に戦力の大半が失われている為、その穴を埋めるには上空からの支援が必要となるはずだ。


 「ファイアフライからムスタングへ。 少し聞いてもいい?」

 突然隣の隣を飛行していた2番機から通信が入る。

 「君は“サンド島”から来たって言っていたわよね? もしかしてそこで“ナガセ”という人が居なかった?」

 「は、はい。 いました。 ナガセ少尉は僕の同期です」
 「そう! それで、ケイは元気だった?」

 一気に会話が弾みそうだったが、今は任務中だ。この話の続きは任務が終わってからにしようと2人で決めた。 任務中の私語と言うと、“アルヴィン・H・ダヴェンポート少尉”を思い出す。彼はよく飛行中に喋り、それを指摘されていた覚えがある。

 「っと。 ケストレルの現在位置は何所だ?」
 「煙で殆ど見えません!」

 イーグル隊は少しケストレルから離れてしまった為、あちらこちらから立ち上る煙によケストレルとハンマーを見失ってしまった。

 「まあいいか。此処で待っていればケストレル艦隊は必ずやってくる。 それまでここで待つぞ!」

 だが、イーグル中隊の編隊に、何所からか飛来したミサイルがすり抜けていった。ミサイルだけでなく、機関砲や海上からのミサイルも確認できる。

 「こちらシャーベット。 此処は戦場のど真ん中。私達がここで生き残れる可能性は約30パーセント です」

 ぽつりとそういい残す3番機のパイロット。

 「そうか。 まあいい、ケストレルの脱出まではもつだろう!」
 そう言うと、マーシャル大佐は散開命令を出して編隊を解散させた。

 「ムスタングからファイアフライ。 ……大佐はいつもああなのですか?」

 「え、ええ。 まあね」

 「凄く軽くてアバウトだと感じるのは気のせいですか?」

 スコットはこのとき、「僕はとんでもない部隊に来てしまったのかもしれない」 と、感じていた。
9 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:04:17 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第7話 『やばいもん見ちまった』   I shouldn't have looked

 何とか湾口を通過し、外海へと向かうケストレル。だが、数キロ先にはユークトバニア艦隊が待ち受ける。

 「こちらは空母ケストレル、アンダーセン艦長。無事に脱出に成功した各艦、おめでとう。 これより小官が指揮を執り、臨時戦隊を編成する。前方にユークトバニア艦隊の封鎖線がある。これを突破し、安全な海域へ脱出しよう。諸君の健闘を祈る。上空の味方機、援護を頼む」

 巡洋艦ハンマー、エクスキャリバー。駆逐艦コーモラント、ポセイドン。フリゲート艦ガントレット、トライデントの計6隻がケストレルを中心に陣形を組む。

 「よし、ケストレルはまだ無事だな。 イーグルス、報告しろ」

 「シャーベット、異常なし」

 「……」
 「こちらファイアフライ。どうしたの、ムスタング?」

 「……あの給油艦が爆発したとき、人が炎に包まれていた……そしてその人たちは重油で燃える海に飛び込んで……」

 スコットを含みイーグル中隊は全員無事だ。 今この艦隊の上空に居るのはガーディアン・イーグルスとウォードッグ、スノー大尉率いる海軍飛行隊のデルタ飛行隊とアルファ隊だ。

 「あの艦隊のど真ん中を突っ切るだと?」

 約4マイル先には敵艦隊の封鎖線。 このまま封鎖線に突っ込むのはリスクが大きいが、他に道は無い。

 「こんなところで沈んでたまるか! 艦隊の隊列を乱さず一気に突破するぞ!」

 その時、遠方から飛来したミサイルが、先頭を航行するフリゲート艦ガントレットを撃沈した。それに続くかのようにユークトバニア艦隊が主砲を発砲し、海面に水柱が発生した。

 「またやられたぞ! どうにかして逃げ道を作らねぇと!」

 ハンマーの援護を命じられたイーグルスも必然的にケストレルを守るため、敵艦隊を排除しなければならない。 だが、艦隊の戦闘能力はいまだ不完全であり、敵艦隊の封鎖線を突破するものとしては少々心もとない。

 「大佐、レーダーに新たな機影。 敵の戦闘機の増援部隊とニムロッド攻撃機が多数」

 艦隊の射程外からミサイル攻撃を仕掛ける敵攻撃機。防御用のファランクスが機能していないイージス艦エクスキャリバーが被弾し、フリゲート・トライデントが致命弾を受けて沈没した。

 「グラディウス、アルビオンと組んでニムロッドを始末してくれ! 他は敵艦船だ!」
10 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:04:55 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第8話 『海上封鎖線』  “Naval Blockade” Part3

 「ケストレルから各艦、まもなく封鎖線に突入する。 総員全力を尽くせ!」
 「こちらイージス艦ハンマー、艦首に直撃! 更に右舷後方よりミサイル接近中!!」

 砲弾、ミサイル、魚雷が交差する中、敵艦隊の封鎖線に突入したオーシア第3艦隊。

 「敵の懐に飛び込む母艦を援護する。アルファ、デルタ、全機続け!」

 スノー大尉率いる海軍航空隊も奮闘を続ける。だが、彼らはよく見ると対艦装備を搭載していないので、今敵艦隊を攻撃できるのはイーグル中隊かウォードッグ隊のみとなる。

 「哨戒艇までいるな。少々面倒だぜ!」

 敵の哨戒艇向かって機銃掃射を仕掛けるマーシャル。彼らは爆弾を装備しているが、小型の哨戒艇にこれを当てるのは少々難しそうだ。 また、ファイアフライとスコットは爆弾で敵駆逐艦の撃破を実行していた。

 「ファイアフライ、投下!」

 投下された爆弾が敵駆逐艦の脇で水しぶきを上げる。それに反応するかのように敵駆逐艦が対空砲で反撃してきたが、高度を上げれば射程外に逃れることが出来る。しかし、対空砲の次はミサイルが待ち受けていた。

 「ファイアフライ、ミサイルです! 回避してください!」

 「チャフとフレアを散布!」

 チャフに巻き込まれてミサイルが爆発したのを見届けると、スコットはミサイルを発射した駆逐艦に爆弾を投下した。 爆弾は敵艦船の船首を吹き飛ばし、浸水を発生させて速力を低下させたようだ。

 「ムスタング、旋回してもう一度攻撃を! 私がカバーするから!」

 ファイアフライと一緒に再び旋回して敵艦船の攻撃に舞い戻る。スコットの一撃は敵艦にそれなりの打撃を与えたはずなので、もう一度攻撃すれば撃沈の可能性も十分にあるだろう。 だが、そんな手負いの艦を守るかのように別の敵艦が接近していた。

 「まずい!」

 気がつけばその船にロックオンされている。スコットはブレイクして回避行動を実施するのと同時に、ベイルアウトにも備えた。 だが、突然警報が解除される。

 「こちらエッジ。 敵艦船の撃沈を確認!」

 爆発炎上し、舞い上がる黒煙の中から1機のタイガーUが飛び出してくる。そのタイガーは旋回を終えると、2機の寮機を連れて再び敵艦船に矛先を向けた。

 「―――今のは……」

 「ムスタング、知っているの?」

 「はい。 間違え出なければ、あれはサンド島の飛行隊、“ウォードッグ”のはずです」

 3機はケストレルにとって最も有害な敵艦船を集中的に狙い、それらを確実に除去しているようだ。 今の無線からすると、あの3機の内1機はナガセ少尉の機体だろう。
11 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:06:23 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第9話 『ヘヴィーなサーフボードだぜぃ』 Kestrel’s Alive

 実のところ、スコットは空から空母を見るのは初めてだった。 表面が平べったい為、巨大なサーフボードに見える。

 「―――こちらは空母ケストレル艦長。本艦隊は安全な海域への脱出に成功した。 海、そして空の勇士たちに感謝する」

 オーシア第3艦隊は被害を受けつつも脱出に成功。 任務が完了し、基地に引き返す各部隊。イーグル中隊は6番機のアルビオンが機関砲数発を被弾しただけで、全機無事のようだ。 編隊を組み、ハイエルラークへ向かう途中、右前方に3機のタイガーUが見えた。


「―――いち、にの、さん、機。 ……1・2・3機! 何度数えても俺たちゃ3機とも無事だぞ! 見てろよ隊長の奴! 海から上がってきたら自慢してやっからな!」

 こちらに接近してくるサンド島部隊。 どうやらこちらの無線を傍受したのだろうか。

「ムスタング!?」
「どうも、ナガセさん」

 ケイ・ナガセ少尉がスコットの左上を飛行し、こちらを見下ろしている。相手の顔が十分に見える距離だ。

「おう!スコット! お前生きていたのか!?」

 更に右上で編隊を組むのは“アルヴィン・H・ダヴェンポート少尉”だ。 ナガセもダヴェンポートもスコットの同期で、共に訓練をつんだ仲間である。

「それで、バートレット大尉は?」

「ああ、隊長か。 隊長は“機体は消耗品だ”って今は海水浴をしているぜ!」

 何があったか良く分からないが、今ウォードックを指揮しているのは“ブレイズ”というTACネームのパイロットだそうだ。 彼はダヴェンポートとは対称的に口数が少ない。

「ケイ、久しぶり」

 突然ナガセに呼びかけたのはスコットの隣の隣を飛行する2番機、ファイアフライだ。

「ステラ? あなたも空軍だったの?」
「ええ、海軍でもよかったけど、ケイがパイロットになるって言うから」

「そう。 でもまさかステラがスコットと同じ部隊にいるとはね……もう、驚いた」

 9機の戦闘機がセント・ヒューレットを離れて数分が経過した。各自の基地に戻るにはこの辺りで別れなければならない。

「ではナガセさん、ダヴェンポート先輩、また今度」

「―――荷物はハイエルラークに送っておくぜ! じゃあなスコット! あと、俺のことは“チョッパー”と呼んでくれって言っただろ!」

「じゃあ、ステラ。 無理をせずに頑張って。 今夜メールするから」
12 マーシュ 2006/12/23 Sat 20:07:25 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第10話 『ミラのシャーベット』  Mira’s Sherbet
―――ハイエルラーク空軍基地  Location:Heierlark Air Force Base

 スコットたちイーグル中隊は基地に帰還し、格納庫で落ち合った。 共に戦ったとは言え、空中では自己紹介もロクに出来ていないので、やはり直接会っておく必要がある。

「―――今更説明は要らないみたいだが、俺はこの“ガーディアン・イーグルス”の隊長であり、此処のアイドルこと“ポール・マーシャル大佐”だ。 あと、呼ぶときはジャックでもいいぜ」

「私は“ステラ・バーネット少尉”。 一応言っておくけど、サンド島のバートレット大尉とは関係ないから、間違えないでね」

「私は“ミラ・バーク少尉”ですー。 スコット・ヘンダーソン少尉、以後お見知り置きを。 なお、私の好物はシャーベットで、タックネームもシャーベットなのー」

「俺は“ノア・クルーズ”ってんだ。 TACネームはアルビオンだ」

「俺は“ベン・ウォーカー”。 TACネームはグラディウス」

 スコットはこれで全員だと思っていたが、後に聞いた話によると、「ガーディアン・イーグルス」は分割されているそうだ。 此処、ハイエルラークのイーグル中隊は第3分隊で、マクネアリ基地に第1分隊、オーレッド空港に第2分隊が存在する。

「いきなりですまんが、皆に言うことがあるんだ。 ついさっき司令部から移動の指示があって、俺たちは“サンド島”に行くこととなった」

 理由は何となく分かる。 サンド島はユークトバニアに最も近いオーシアの基地の為、敵は必ず最初に此処を狙う。だから戦力をここに集めて置く必要があるのだろう。

 「大佐、質問しても構いませんか? サンド島へはいつ出発するのですか?」と、ミラ。

 「今からだ」


 ―――本当にいきなりだった。


 また、イーグルス第2分隊の隊長、 “アスラン・フォード中佐” がサンド島のウォードックの指揮官となったため、1個飛行小隊を引き連れてサンド島へ向かうことになっているそうだ。

 「―――30分後には出発だ。 メシを食っとけよ!」

 解散する一同をよそに、ミラがコンテナの上で何かを食べている。 彼女が寄りかかっているコンテナは実はクーラー・ボックスで、そこには大量のアイスシャーベットが格納されていた。

 「ミラ、ご飯は?」と、ステラ・バーネット少尉。
 「おなかは空いていないのー。 今はこれで十分」

 オレンジシャーベットを次々と口に運ぶミラ。すると、ノリかは分からないが、ステラもアイスシャーベットを取り出し、食べ始めた。

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