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ACE COMBAT ZERO NIGHTS OF ROUND TABLE EpisodeW

前スレッド No.121
27 アドミラル・マーシュ 2006/07/21 Fri 23:45:48 aUlt..D3Q.t07f
There is Only One Ultimate Rule in War
―――――“交戦規定はただ一つ”―――――


―――――SURVIVE―――――
      “生き残れ”


ACE COMBAT ZERO  THE NIGHT OF ROUND TABLE
エースコンバット・ゼロ   ナイツ・オブ・ラウンドテーブル


―――主な登場人物・連合軍


ハンク・ライト大尉:元オーレリア共和国の警察特殊部隊。サークル隊の1番機。

カイル・ガーランド中尉:前向きで活発な性格。経験は浅いが優秀である。サークル4.

サム・レッドフィールド少尉:少し肥満体質。明るく社交的らしい。サークル隊の5番機

デイヴィット・コネリー少尉:新人のパイロット。 どちらかというと知的。サークル6.

パトリシア・ジェイムズ・ベケット:兄であるパトリックに憧れて入隊。サークル隊の新3番機。


サイファー:最近入隊した傭兵。臨機応変な戦い方をする。ガルム隊の1番機

パトリック・ジェームズ・ベケット:優秀な若手のパイロット。ガルム隊の2番機。

ウェルチ・マクナイト中尉:クロウ隊の隊長。

テイラー・デイヴィス中尉:同じくクロウ隊の2番機。ジョーク好き。

ウィリァム・ジェファーソン中佐:ウスティオ空軍、ドミノ飛行大隊の隊長。

ジェリコ・リンカーン大佐:オーシア陸軍戦車大隊、ブラック・ナイト指揮官。

アンドリュー・ワシントン・スミス:ウスティオ軍の特殊部隊隊長。

ロナルド・カーター少佐:ウスティオ陸軍、ザイオン戦車部隊の隊長。

ジョシュア・ブリストー:オーシア国防軍“ウィザード隊”の隊長。

イーサン・クーリッジ元帥:ウスティオの軍司令官。


―――”国境なき世界”

レオン・ライト大尉:ハンクの双子の弟。戦争前は旅客機の操縦士。

ラリー・フォルク:過去に片羽を失いつつも生還した為、“片羽の妖精”と呼ばれている。

アルヴェルト・ヴァイゲル少佐:ベルカ空軍、“リッター”飛行中隊隊長。

ドミニク・ズボフ大尉:ベルカ公国空軍、“シュヴァルツェ隊”隊長。

アントン・カプチェンコ:ベルカ公国空軍、“ゴルド隊”隊長。


3レス目から本編に。お暇つぶしにどうぞ。
28 アドミラル・マーシュ 2006/07/21 Fri 23:49:34 aUlt..D3Q.t07f
―――――”New blood、 New Battles”―――――
―――――”新しい血は新しい戦いを生む”―――――


この作品は「”エースコンバット・ゼロ ザ・ベルカン・ウォー”」のサイドストーリーです。
尚、この作品は「エースコンバット・ゼロ」の内容を大幅に暴露している為、ゼロをクリアしていない方には観覧を推奨できません。まだACZeroを終えていない方はネタバレにご注意を。

よろしければ、前作”リザレクション・オブ・ラーズグリーズ”にも目を通していただけると幸いです。


Mission log

0# 序奏 “Introductory chapter”
1# 『ディレクタス防衛線』 “Defense line Directas”
2# 『ベルカン・ナイツ』 “Ritter”
3# 『凍空の猟犬』 “Glacial Skies”
4# 『絶対的な力』 “Juggernaut”
5# 『ディレクタス解放』 “Diapason”
6# 『葬送曲』 “Funereal tune”
7# 『暁の戦場』 “Battlefield of daybreak”
8# 『ヘイムガルド平原の決戦』 “Hamugald plain”
9# 『円卓の夜T』 “Nights of Roundtable T”
10#『嵐の中を走れ』 “Silverstone”
11#『復讐者』 “Avenger”
12#『クロウ隊のPJ』 “Crow3 PJ”
13#『巨人の刃』 “The Excalibur”
14#『約束の場所・円卓』 “The Roundtable”
15#『B7R制空戦』 “Mayhem”
16#『ザ・ベルカン・ウォー』 “The Belkan War”
17#『サイファーとラーズグリーズ』 “Tow Demon”
18#『臨界点』 “The Stage of Apocalypse”
19#『円卓の夜U』 “The Nights of Roundtable U”
間奏#『シルバーストーンの少女』 “Interlude―Silverstone Girl―”
20#『円卓の夜V』 “The Nights of Roundtable V”
21#『王の谷』 “The Valley of Kings”
22#『アヴァロン』 “Avalon”
23#『運命の再会』 “Fateful Encounter”
24#『モルガン』 “Morgan”
25#『ZERO』 “ZERO”
26#『ZERO‐“サイファー”‐』 “ZERO‐Cipher-”
27#『ZERO‐“ラーズグリーズ”‐』 “ZERO‐Razgriz‐”
28#『スレイプニル』 “Sleipnir”
29#『生命の終わり』 “End of Life”
30#『エピローグ』 “Skies of Deception”
29 アドミラル・マーシュ 2006/07/21 Fri 23:55:18 aUlt..D3Q.t07f
――――――間奏『シルバーストーンの少女』 “Interlude ―Silverstone Girl―”


―――1991年。オーレリア共和国


「ハンクは何故そんな危ない仕事をするの?」

 病院のベッドに座り、イスにまたがったハンクと話しているのは“アンジェラ・ハリソン”だった。

「給料がいいからさ。危険だがやりがいがある。」

 学力はともかく、ハンクは子供の頃から運動神経が素晴らしかった。判断力、反射神経も優れ、警察官としては有り余る能力を保持し、職場のコネで特殊部隊のテストに合格。オーレリア史上最年少で特殊部隊の隊員となった。

「ところで、アンジェラの病気は治らないのか?」
「生まれつきの病気なの。オーシアの進んだ医学ならもしかすると・・・だけど。」


 ちなみに、普段外に出られないアンジェラとハンクがどうやって出会ったか?と多くの人が疑問に感じる。それは今から2年前の1989年に坂上る。

 まだハンクが仕事に慣れ始めたばかりのことで、交通事故の対処の支援に向かったことだった。乗用車と軽トラックの衝突事故で、トラックにはいくつかのピザが載せられていた。その軽トラの運転手は重傷を負い、救急車で病院に運ばれる直前に「此処にシーフードを1つ届けて欲しい」と、メモを渡してハンクに頼んだ。

 ハンクは乗り気ではなかったが、断ることも出来那かったので、素早く済ませようとメモに書かれた住所へと向かった。そこは病院の中の特別区画の1室だった。
部屋の中には1人の少女がいて、その部屋には窓がひとつも無い。あるのはテレビと本棚、花瓶と府警がのみ。

「……だれ?」
「…突然ですまない。代理でピザを届けに来たんだ。」

 ハンクはピザを置いてすぐに立ち去ろうとした。しかし、その少女が重そうな口を開き、ハンクを呼び止めた。

「……お巡りさんは色々な場所を廻るのですよね?」
「…ああ。」
「羨ましい・・・私は外へは出ることが出来ないから・・・」

 彼女は太陽に含まれる一定の紫外線を受けることが出来ない“シルバーストーン病”という特別な病気に犯され、1度も外へ出たことが無いと言う。
部屋には窓が無く、外を見ることが出来ない。彼女にとって、この部屋が全てなのだろう。

「…何か出来ることがあっあら俺に言ってくれ。」
「?・・・いいの!?」

 一度も外へ出たことが無く、これからも外へ出られない。それではあまりにも可愛そうだ。同情ではなく、あくまで良心でハンクは彼女の力になりたいと感じた。


 それから2年ぐらい経った今、ハンクは今までに貯めた貯金をアンジェラの手術の為に提供した。これでオーシアの進んだ技術でアンジェラは外へ出られるようになる。ちなみに、彼女は外へ出られないので、オーシアの技術者に来てもらうことになった。


 そして1週間後、手術が終了し、彼女が外へ出る日がやってきた。しかし、「あの事件が」起きたのもこの日だった。“ドミニク・ズボフ”を含む巨大な密輸組織が世界にも一握りしか居ない“人工神経”を持ったアンジェラを拉致した。ハンク達はすぐさま追跡を開始し、何とか橋に追い詰めた。

 しかし、此処での戦闘でハンクはチームと気力、アンジェラを失ってしまった。責任を取るために仕事をやめて、故郷であるウスティオへ帰郷したが、失われた物が戻るわけではない。
30 アドミラル・マーシュ 2006/07/22 Sat 20:11:36 aUlt..D3Q.t07f
―――――ここまでのあらすじ


―――1995年3月25日。

 経済恐慌の中、極右政党が政権を獲得したベルカ公国。元ベルカ自治領ウスティオ共和国に眠る膨大な天然資源発見の報を機に、ついにベルカ公国は周辺国への侵攻作戦を開始。

『“ベルカ戦争”』の開幕である。


 開戦から数日後、既にウスティオ陸軍はベルカ陸軍により壊滅し、ウスティオ政府は山岳地帯にある“ヴァレー空軍基地”への後退命令を下す。
だが、既に国境の防衛線は突破され、ウスティオ首都ディレクタスの完全占拠は時間の問題であった。


 ウスティオ空軍・サークル飛行中隊に所属するハンク・ライトと、レオン・ライトは新たに登場した凄腕の傭兵2人組みである『”ガルム隊”』と出会い、彼らと共にベルカの手から首都ディレクタスを解放した。


 そして、ベルか陸軍と連合軍の大規模な戦車部隊がヘイムガルド平原で決戦を迎えるが、ベルカのレーザー兵器”エクスキャリバー”の攻撃により、サークル隊は撤退を余儀なくされる。

 彼らは撤退するが、とある場所に迷い込んでしまう。そこはベルカの重要防衛空域である”円卓”であった。そこでハンクは昔の因縁の相手である”ドミニク・ズボフ”と再会する。ハンクは奴と決着を付けることは出来なかったが、何とかウスティオまで無事に生還できた。


 そんな彼らはすぐに次の作戦に参加し、「エクスキャリバー」を破壊。その直後、「バトルアクス作戦」が発動され、彼らはエリアB7R”円卓”への進撃を開始した。


 7発の核爆弾の爆発。表向きにはここでベルカ戦争は此処で終結した。しかし、真実はまだ多く残されている。核爆発から半年の歳月が過ぎた時だった。『“国境無き世界”』と名乗る組織が軍事クーデターを起こし、旧ベルカ軍が開発していたXB−0“フレスベルグ”と呼ばれる巨大ガンシップを強奪。これでルーメンを爆撃し、そのままヴァレー空軍基地も攻撃した。

 片羽の妖精が去ったあと、元クロウ隊の3番機であるパトリック・ジェイムズ・ベケットを新たにガルム2とした新生ガルム隊は、爆撃を受けるヴァレー空軍基地から何とか離陸。フレスベルグを撃墜した。


 だが、既に『国境無き世界』の計画は実行段階にまで進み、大量報復兵器“V2”の発射準備に入っていた。連合軍は総力を挙げて国境無き世界の拠点である“アヴァロンダム”への攻撃を実施しようとしていた。全ての決着をつけるために。


―――ウスティオ・ディレクタス飛行場。


 ウスティオ軍司令官である“イーサン・クーリッジ元帥”が集会室で直接会議を進行させていた。元戦闘機乗りであり、次期ウスティオ大統領の最有力候補である彼は軍事、民間からも厚い信頼を得ている人物である。


「―――国境無き世界にはベルカのみならず、オーシアやザピン王国、多国籍で高度に組織化されていると判明した。また、現在クーデター軍はV2核ミサイルを保有し、巨大都市エンゼルブルク周辺の“アヴァロンダム”に拠点を置いている。」


 ブリーフィングに参加している兵士達は皆真剣な表情でクーリッジ元帥の話を聞いている。だが、クーリッジ元帥の表情が少し妙だった。何だかいつもに比べて落ち着きが無く、発言も少しだけ詰まっているように聞こえる。


 だが、今のハンクにとってそんなことに構っている余裕は無い。彼は任務を成し遂げるのと同時に弟であるレオンを無事に連れ戻さなければならない。レオンは間違いなくクーデター組織、『“国境無き世界”』に居るはずだ。


「………(取り戻してみせる。あいつとの関係を……今度こそ取り戻してみせる)……」
31 アドミラル・マーシュ 2006/07/22 Sat 20:16:27 aUlt..D3Q.t07f
―――――第20話 『円卓の夜V』 “The Nights of Roundtable V”


 サークル隊は最後の闘いに備えて2人の新兵を加えて部隊戦力を増強した。2人の名はトーマス・マクレーンとパトリシア・J・ベケットの両少尉。“パトリシア・ジェイムズ・ベケット”は元クロウ隊のガルム2であるPJの妹だという。


 2人を加えた6機のサークル中隊はディレクタス空港を発とうとしたのだが、正面にいきなりAC-130スペクター・ガンシップが乱入する。

「管制塔、あのガンシップは何だ!?早くどかしてくれ!」
「こちら管制塔、それはクーリッジ元帥の専用機だ。急用で今すぐ出なければならない。」

 のろのろとタキシングを開始するガンシップ。見ているこちらはいらだって仕方ない。ようやくガンシップが離陸して、ハンクたちが滑走路に入ろうとした時だった。いきなり元帥のガンシップが滑走路に攻撃を仕掛け、滑走路の一部を破壊してしまった。

「こちらサークル6、滑走路に被害!管制塔状況は!?」
「一体何があった!?あれは元帥の飛行機ではないのか!?」

 元帥のガンシップが去った後、すぐに工兵部隊が修理に乗り出すが、これによりかなりのタイムロスとなってしまった。


「・・・元帥もクーデター軍の一部だって!?何で今まで気が付かなかったんだ!?」
 サークル4のカイルは力強く機首を上げて応急措置された滑走路から飛び立った。欠番だったサークル3のポジションはパトリシアが継承し、2番機はトーマスが引き次いだ。

「既に連合軍やガルムはアヴァロンに向かっている。急いで追いつかないといけない。」

 彼らは最短ルートであるエリアB7Rを通過する。もうアヴァロン攻撃まで時間がない。


―――エリアB7R 「円卓」


「誰もいないな。ガルムも先に行っちまったようだ。」
 真夜中の円卓を通過するサークル中隊。だが、お約束のようにレーダーに反応が。
「レーダーに敵!未確認航空機が8機!」


 夜の円卓から別国で開発された最新鋭戦闘機。ねずみ色で未塗装の“X-02ワイバーン”がマッハ2でサークル中隊に接近してくる。

「<リッター・ワンから全機へ、“円卓の鬼神”を阻止する。>」
「<リッター・スリー了解>」
「<こちらリッター・ゼロ。よく見てみろ、奴らはガルムではないぞ。殺人犯が隊長のクズ部隊だ。>」
「<クソ、入れ違いか!?リッター各機へ、鬼神を追跡、発射したら反転する。>」

 サークル隊各機にミサイルアラートが鳴り響く。リッターはXLAAを撃ち逃げしたようだ。ハンク達は慣れた機動でミサイルを回避し、再び編隊を組みなおす。既にリッターの遠距離先制攻撃には慣れていることもあり、回避はそう難しくはなかった。

「サークル1からサークル全機へ、奴らを逃がすのは危険だ!このままだと奴らは背後から連合軍とガルムを攻撃するだろう、追跡するぞ!」
「ちょっと待った!あれは隣国エルジア製の試作戦闘機や!何でこんなとこにあるねん!?」
「こちらサークル6.サム?何でそんなことを知っているんだ?」

 アフターバーナー全開でリッターの追跡を開始したサークル中隊。そして、リッターもそれを察知してこちらに向きを変える。

「<リッター5、フォックス2.>」

 ミサイルが迫り、パトリシアは急旋回で回避した。回避を確認するとすぐさま格闘戦の準備に入る。

「<正気かハンク?機体の性能差は明らかだぞ?自殺するようなものだ。>」
 ハンクのF-15と敵のX-02が真正面からすれ違い、敵のワイバーンは大きくバンクしてハンクとの距離をとった。
「……レオンか?クーデターに入ってどうするつもりだ?」
 少し雑ながらも、力強い飛び方。ハンクは直感でレオンだと分かった。
「<リッター・ワンからゼロへ。もう奴は兄ではないのだろう?>」
「<分かっているヴァイゲル。奴はもう兄ではない。>」


 ハンクの乗るワイバーンの下部にあるウェポンベイが開き、1発のミサイルが切り離される。どうやら通常のミサイルではないようだ。

「ミサイルだ!回避!」

 上昇や旋回で一斉に回避行動に入るサークル中隊。その直後、ミサイルが空中で炸裂し、巨大な爆発を起こした。

「今のはなんだ?ミサイルが空中で炸裂したぞ?」
 爆発が消えた時には既に、リッター中隊の姿は無かった。ハンクたちサークル中隊は反対を組みなおし、再びアヴァロン攻撃の集結地点へ向かう。


     『―――もう“円卓の夜”には戻らない。』
32 アドミラル・マーシュ 2006/07/23 Sun 20:09:56 aUlt..D3Q.t07f
――――――第21話 『王の谷』 “The Valley of Kings”


――翌朝、アヴァロンダム・ムント渓谷上空


「こちらドミノ・リーダー。上空は対空砲の嵐だ!攻撃部隊は本隊に続け!」
 ウスティオ空軍ドミノ飛行大隊を先頭に、アヴァロンダム攻撃部隊は敵の対空防衛が比較的薄い渓谷から低空飛行でアヴァロンダムを目指す。

「ドミノ・リーダーからガルムへ、俺たちも局地飛行のプロだ。アヴァロンまでは俺たちがエスコートする。ついて来い!」

 ドミノ、ジョーカー、ガルム、サヴェージ、メナス、ギズモ、ハンマーの各部隊は連合軍の中から選りすぐりの部隊で、アヴァロンに眠るV2の破壊を命じられた。また、サークル隊と他の連合軍部隊は上空で陽動作戦を実施している。

「皆、地面にキスはするなよ!」
「こちらハンマー2、敵の対空兵器は任せてくれ。」

 イーグル・アイの情報によると、渓谷内部にも4箇所の対空防御拠点があり、激しい抵抗が予想されるとの事だ。今ちょうどサークルの正面を、サイファーとPJのガルムが飛行している。


「こちら、サークル隊の3番機、PJ。ガルム隊、可能な限り援護します!」
「了解サークル3、…って、誰だ!?」

 過去に自分が言ったのと殆ど同じ台詞を聞いて、PJはわが耳を疑った。

「“パトリック”兄さん、私。パトリシアよ?」
「“パトリシア”?大学はどうした?それよりなぜこんな所に居るんだ!?」


 だが、その時、前方で爆音が響く。どうやらドミノ大隊が第1防衛線に侵入したようだ。すでに4機のタイフーンが犠牲となっている。

「駄目だ!ドミノ11イジェクト!」
「サークル1から全機、第1防衛線を通過した。被害は?」
「わいらはまだ無事や。でもドミノとメナスの被害は増えていまっせ。」

 高射砲の弾丸が空中で炸裂し、対空砲弾が嵐のように吹き上がってくる上、対空ミサイルまでも彼らを狙っている。

「間もなく第2防衛線だ、気を抜くな!」
「こちらサークル4.隊長、俺らは上空援護ではなかったのですか!?」
「カイルはん、そういう細かい事はしにしなさんな」


 左右には峡谷、真上は対空砲の嵐、下は水路。ここでは防衛線の弾幕に突っ込むしか無さそうだ。その時、トーマスのイーグルに対空砲弾が突き刺さった。いくつか部品がはがれ、黒煙を噴いている。

「サークル2被弾!高度を保てない! 脱出する!」

 同時に第2防衛線を通過する際に8機の友軍機が撃ち落された。ハンマー隊は既に全滅し、サヴェージ隊も大きな被害を受けて撤退している。

「ジョーカー4が墜ちた!攻撃部隊残り9!」
「メナス6もやられた!」

 第2防衛線を通過したハンクが後ろを振り返ると、自分の背後にいたウスティオのタイフーンがミサイルの直撃を受けて四散した。残骸がアヴァロンダム水路へと消えてゆく。

「何なんやここは!わいらに死ね言うとるんじゃないか!?」
「メナス3墜落!まだここからだ!進軍続行!」

 ようやく第3防衛線を通過した連合軍攻撃部隊。部隊の先頭を進むジェファーソン中佐のドミノ部隊は、彼を残して3機しかいない。そして、彼の背後からガルム隊の2機が続き、その少し後方からサークル隊が迫る。

「こちらサークル6、ジェファーソン中佐、大丈夫ですか!?」
「ドミノ1からサークル6、心配は無用だ。最後までガルムと共に行くぞ!」

 最後の防衛線が迫る。此処を越えれば敵の拠点、アヴァロンだ。

「駄目だ!ドミノ4ベイルアウトする!」
「クソ!ロックされた!逃げ切れん!」


 瞬く間に第4防衛線に配置されていたSAMがジェファーソンのタイフーンを火だるまに変えた。その背後からガルムの2機が最終防衛線を突破し、アヴァロンへ侵入した。

「ドミノ・リーダーも落ちた!攻撃部隊残機3!」

 連合兵士の誰かがそう報告しているが、この数値にサークル隊は含まれていない。

「2機抜けた!?ガルムが抜けたぞ!」

 その報告を聞いたハンクはすぐさま操縦桿を最大まで手前に引き寄せる。

「全機上昇!上空からガルムを援護するぞ!」
 だが、峡谷から出た瞬間、ミサイルにロックされた。すぐ真下からSAMが吹き上がり、ハンクのイーグルの真横をかすめた。更に2発のミサイルが迫る。ハンクは急旋回して1発目を回避するが、2発目までは回避できなかった。


「こちらサークル・リーダー!ミサイルの直撃を受けた!イジェクトする!」


 激しく揺れる機内でハンクはシートの下に置いてあった小さいバッグを取り出した。それを足に装着し、一気にレバーを引いた。キャノピーが吹き飛び、射出シートが機外に飛び出る。


 自分の前方でF-15が空中で爆発し、残骸がアヴァロンダムへと墜ちてゆく。周囲では航空機とミサイル、対空砲火で染まり、いつそれらに撃ち抜かれるか分からない。
33 アドミラル・マーシュ 2006/07/24 Mon 21:28:21 aUlt..D3Q.t07f
――――― 第22話 『アヴァロン』 “Avalon”


「<総員Aハンガーに集結せよ!V2発射施設に“鬼神”が迫っている!繰り返す!戦闘員は直ちに鬼神の迎撃に向かえ!V2を死守せよ!>」

 ハンクはベイルアウトした場所から水路に流され、水力発電タービン周辺の広い部屋から見知らぬ空間へと出た。


 施設内では絶えず指令放送が鳴り響いている。ここは既に“国境なき世界”の中枢なのだろう。ハンクは“グロック・マシンピストル”を構え、出口のある通路へゆっくりと進むと、その直後に武装したクーデター軍の兵士が10〜20人ぐらい先の廊下を横切った。ハンクは慌てて身を隠し、何とか見つからずに済んだ。


「<アヴァロン内部防衛部隊に告ぐ!連合軍のガンシップがハンガーDに侵入した!直ちにDハンガーへ向かえ!繰り返す・・・>」

 侵入?連合軍の部隊がアヴァロンに突入するという話は聞いていない。恐らく何かの事故で偶然侵入してしまったのだろう。そこに向かえばもしかすると、仲間と合流できるかもしれないので、ハンクは敵のあとをつけてDハンガーへ向かった。


 一方、DハンガーにはウスティオのAC-130スペクター・ガンシップが不時着し、その残骸の背後で数名の連合軍兵士がクーデター軍の兵士達に必死で応戦していた。

「聞こえますか!?こちらポーク分隊!敵地に不時着!至急救援を要請します!」

 ウスティオ軍に所属する特殊部隊隊員であるアンドリュー・ワシントン・スミス大尉を始めとする数名の小隊と、クーデター軍の兵士数名がトラックを盾に銃火器の撃ち合いをしている。今、ハンクの手元には手りゅう弾がある。これを投げつければトラックごと敵兵を吹き飛ばせるかもしれない。

 ハンクの手榴弾がトラックの真下で爆発し、敵兵もどこかへ吹き飛んだ。安全を確認すると、ハンクは警戒しつつガンシップの仲間のもとへ向かった。

「ライト大尉!?半年前に失踪したはずでは!?」
「…俺はハンクだ。」
 ハンクは先程までの自分の状況をスミスに説明した。
「あいにくこのガンシップは離陸不能です。ギアが折れてしまい、滑走ができません。」
 飛行機の足であるランディング・ギアが折れ、主翼も片方が完全に折れている。修理は不可能だろう。ここは何か別の脱出手段を探さなければならない。

「此処に施設の案内表示がある。これによると・・・もう1フロア上にハンガーがあるみたいです。」
「ロイド、武器弾薬を出来るだけ持て。そのハンガーまで移動するぞ。大尉はどうしますか?勿論我々と一緒に・・・」

 ハンクはスミスの誘いを断った。まだレオンを見つけていない。それまではウスティオへ変えることは出来ない。そこに大破したガンシップの中からいくつか武器を持ち出したロイドが戻ってくる。使えそうなのは小型グレネード・ランチャーを装備した“M4A1ライフル銃”が4丁。改良型の“MP5短機関銃”が2丁だが、片方は壊れている。それと“ソーコム拳銃”が4丁、大型のM60重機関銃が1丁。

「皆武器を持て、脱出するぞ。・・・大尉、途中まででも一緒に行きませんか?」
 スミス大尉を先頭にハンク、ロイド軍曹、ハートソック軍曹、リコ伍長、チャーリー2等兵の6人は施設内の案内表示を頼りに、目的地であるGハンガーへと向かっていた。頻繁に施設外部で爆音が聞こえるが、振動は全く感じない。恐らくアヴァロンはかなり頑丈に作られているのだろう。しかし、次の爆発では施設が揺れた。

「<<全部隊へ!“鬼神”がV2発射施設のスタビライザーとジェイロシステムを破壊した!これ以上奴の好きにさせるな!叩き落せ!>>」

 放送から判断すると、サイファーとPJはダム内部にあるV2ロケット発射施設への攻撃を進めているようだ。更に施設を進むと、通路先の部屋にエレベータがある。それで上のフロアへいけるだろう。だが、既にエレベータには誰かが乗っていた。

「お前は・・・“ジョシュア・ブリストー”か!?」

 ハンクたちの存在に気が付いたブリストーは、拳銃でハンクたちを撃ってエレベータへの乗り込みを阻んだ。一同が物陰から再び通路へ顔を出すと、既にエレベータは登っていた。そして、ブリストーはエレベータの中から伝達用のマイクを手に取る。

『<破壊という名の新たな創造は、正道な力を以って我々が行使する。領土、人民、権力、今その全てをあらゆるものからを開放する。『“国境なき世界”』 が創造する 新しき国家の姿だ。>』

 一同はエレベータの操作パネルを操作したが、既にアクセスが出来なくなっている。

『<国籍や国家も意味を成さない。その線引きは今我々が消し去り、『“国境なき世界”』 が新しい物語を書き連ねる。そして、世界は変わる>』
34 アドミラル・マーシュ 2006/07/24 Mon 21:32:06 aUlt..D3Q.t07f
―――――第23話 『運命の再会』 “Fateful Encounter”


 ジョシュア・ブリストーがエレベータの制御盤に何か細工をしたのだろう。このエレベータはもう使えない。

「大尉!敵です!!」

 リコ伍長は敵が迫っていることをハンクとスミスを呼び覚ますように告げた。背後からクーデター軍の兵士がぞろぞろとあふれ出し、完全に数で圧倒された。もう逃げ場が無い。スミスはエレベータのドアを爆破し、下のフロアにロープで降下。ハンクたちもそれに続いた。


「真っ暗だな。」
 ハートソックが携帯ライトで周囲を照らすが、何も見えない。だが、いきなり照明がONになった。すると、部屋の中央には見知らぬ航空機とそこから分離したコックピットが。


「嘘だ・・・・・・・・」


 ハンクの手からマシンガンがすり抜け、カタンと音を立てて床に墜ちた。

「あれは・・・人だなよな、リコ。」
「…みたいですね、スミス大尉。」

 未知の航空機と思える物体から分離したコックピットの中には、ハンクの恋人であった“アンジェラ・ハリソン”が閉じ込められていた。彼女に意識は無く、眠っているようだった。ハンクは拳銃でコックピットの結合部分を狙い撃ち、彼女を救出しようとしたがコックピットには傷一つ付いていない。

「落ち着け大尉。この人は誰なんだ?」

 一方で、ハートソックが散らばっている書類の中からこの機体の資料を見つけ出した。


「ADF−00“ラーズグリーズ”・・・」


 だが1回の爆音が響き、彼らの部屋にクーデター軍の兵士が再び殺到してきた。リコ、ハートソック、ロイドはすぐさま物陰に隠れてから反撃したが、逃げ遅れたチャーリー2等兵が手榴弾に吹き飛ばされた。

 スミスはライフルに取り付けられたM203グレネード・ランチャーで数名のクーデター軍兵士を吹き飛ばしたが、敵は次から次へとやってくる。減るのは手持ちの弾薬だけだ。


 ハンク達とクーデター兵士の激しい撃ち合いの中、突如天上が爆発し、何者かが爆発で出来た穴から飛び降りてきた。2人は両手に小型のスコーピオン・マシンガンで次々とクーデター軍の兵士を撃ち倒してゆく。

「大尉が2人!?」

 現れたのは“ドミニク・ズボフ”とレオン・ライトだった。ハンクはすぐさまズボフ向かってマシンピストルを構える。

「はっ。てめぇの女の面倒を見てやった上に、今助けた俺に銃を向けるのか?」
「何!?」

 スミスはハンクの銃を下ろさせた。誰が見ても今のズボフとレオンは自分達を助けてくれた味方である。周囲の安全を確認し、ライト兄弟とズボフは対談し始めた。

「俺はと様々なソースからイーシャの行方を捜した。まだ生きていると信じてな。だが、探している間にハンクの恋人であるアンジェラの存在を掴んだ。」
 レオンに続けてズボフが言い付け加える。
「この組織、“国境なき世界”はそこにある試作戦闘機“ラーズグリーズ”を完成させたが、操作できる人間がいなかった。元々無人戦闘機として開発していたんだが、肝心の頭脳が完成せず、その代わりが要求された。」


 ズボフは“国境なき世界”の設立者の1人であり、ウスティオ軍の司令官である“イーサン・クーリッジ”から多額の報酬を受け取り、体内に神経回路を内蔵された人材をクーデター組織に提供することとなった為、オーレリアでアンジェラを拉致したと言う。

「そして、俺が高額の報酬を支払い、ズボフに協力を依頼した。」

 しかし、レオンがそんなに金持ちにも思えない。ハンクがその部分を聞くと、レオンは“国境なき世界”のメンバーになる際に、受け取った報酬をズボフに支払ったと言う。

「勘違いするな、俺は金を目当てに動く悪党だ。そういう仕事だからな。」

 ズボフ本人はそう言うが、誰も彼が悪党とは思っていない。後はここに居るアンジェラを何とか救出し、ここから脱出するだけだ。

「レオン・・・?イーシャは・・・」
「いや・・・それは俺が悪かった。その・・だな、ハンクはただ任務を遂行していただけで・・・」

「正直に言えばいいだろう。もったいぶるな。」

 ズボフがそう言い付け加えると、レオンは自分の気持ちを正直に言い明かした。

「父さんも母さんも死んだ。もうハンクだけが唯一の家族なんだ。それなのに俺は・・・」


 その時、1発の銃声が響き、レオンの左肩を銃弾が貫いた。

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