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ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTER Z 虚空の剣闘士

No.138
1 マーシュ 2007/01/17 Wed 20:05:25 DXjf..D3Q.5iAv
ACE COMBAT 5  INVISIBLE GOD Chapter Z SKIES OF GLADIATOR
エースコンバット 5 インヴィシブル・ゴッド 第7章 虚空の剣闘士

この小説は「エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー」の2次創作作品となります。
分類ではサイドストーリーに属し、本編のネタバレも多数ありますので、読む際はご注意ください。

ちなみに、作者のワードソフト故障につき、更新が停滞気味です


Contents 目次

―――――Chapter 1 Phantom Menace   第1章 見えざる脅威
#00 『その時、僕は空中にいた』  Red Alert
#01 『新たな部隊』  The Guardian Eagles Part1
#02 『なりゆき』  The Guardian Eagles Part2
#03 『開戦』  “Open The War” Part1
#04 『ソーズマン』  “Open The War” Part2
#05 『狭間の第1派』  “Naval Blockade” Part1
#06 『ケストレルを守れ』 “Naval Blockade” Part2
#07 『やばいもん見ちまった』  I shouldn't have looked
#08 『海上封鎖線』  “Naval Blockade” Part3
#09 『ヘヴィーなサーフボードだぜぃ』 Kestrel’s Alive
#10 『ミラのシャーベット』  Mira’s Sherbet

―――――Chapter 2 A Blue Dove for the princess   第2章 姫君の青いはと
#11 『姫君の青い鳩』  A Blue Dove for the princess
#12 『タービンの回転が上がらねぇ!』  These turbines won't start up!
#13 『ウォードッグ・リーダー』  Wardog Leader
#14 『初陣』  “First Flight”
#15 『アーチャー』  Archer
#16 『日没の空』  Skies of Sunset
#17 『サンド島からの手紙』 Letters From Sand Island
#18 『待ち合わせはイーグリン海峡で』  “Rendezvous”
#19 『第3艦隊集結』  “Rendezvous” PartU
#20 『艦隊の死』  “Ballistic Missile”

―――――Chapter 3 The Demon of the Razgriz   第3章 伝説の悪魔
#21 『雪の降る空』  Snow Skies
#22 『旅立ち』  Odyssey
#23 『サンド島防衛戦』  “Front Line”
#24 『伝説の悪魔』  Demon of Legend
#25 『Aサット照準』  A-sat Targeting System
#26 『ラーズグリーズの悪魔』  The Demon of the Razgriz
#27 『シンファクシ』  “Scinfaxi”
#28 『ミラのカキ氷』  Mira’s Frappe
#29 『悪夢?』  The Doom?

―――――Chapter 4 Road to Yuktobania   第4章 ユークトバニアへの進軍
#30 『食卓の鬼神』  The Cock of Round Table
#31 『15年前』  “15 Years Ago”
#32 『ザ・ベルカン・ウォー』  THE BELKAN WAR
#33 『円卓の騎士』  The Knight of the Round Table
#34 『ベルカのお肉』 The Belkan Beef
#35 『憎しみの連鎖』  “Chain Reaction”
#36 『コインの表側』 Face of the Coin
#37 『進軍』 Road to Yuktobania
#38 『あおいはと』 A Blue Dove for the princess Part2
#39 『紅の海』  Crimson Sea
#40 『戦闘開始』  Engage

―――――Chapter 5 A Fateful Encounter   第5章 運命の再会
#41 『戦闘機乗りの名誉にかけて、一歩も引き下がるな!』  Knight of the Skies
#42 『今こそイージス(盾)の使命を果たす』 Aegis
#43 『女将アンダーセン』  Admiral Mao Andersen
#44 『ゴールゥビ・ガルボーイ』 Blue Dove
#45 『運命的な再会』 A Fateful Encounter
#46 『ユークトバニアの精鋭』 The Republic Commando Part1
#47 『オーシア海軍の剣士』  Swordsman
#48 『リパブリック・コマンド』 The Republic Commando Part2
#49 『この大空にオーシアの翼をはためかせん』  The Wing of the Osean
#50 『決別への引き金』  The Trigger

―――――Chapter 6 The Blue Skies of Promise 第6章 約束の青空
#51 『解放。そして、告別』  Call of the Freedom
#52 『お帰りヘンダーソン君』  Mr. Henderson Welcome Back
#53 『丸刈り頭の兵士たち』  jarhead
#54 『グリム兄弟』  brother’s Grimm
#55 『約束の青空』  The Blue Skies of Promise
#56 『あの空の向こうへ』  He’s Wings
#57 『ブルースカイ・オブ・プロミス』  The Blue Skies of Promise Part U
#58 『約束』  Promise
#59 『ラーズグリーズの帰還』  Retune of the Razgriz
#60 『ゼロ・アワー』  Zero Hour

―――――Chapter 7 Skies of Gladiator  第7章 虚空の剣闘士

Coming Soon......
2 マーシュ 2007/01/17 Wed 20:18:09 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第61話 『砂漠の矢』 “Desert Arrow”
―――――ユークトバニア・ジラーチ砂漠上空  Location:Jilachi Desert

 「ちっくしょー! 馬鹿にしてる バカにしてる 馬鹿にしてるぜぇー! またしてもコイントスなんかでオイラのミッションを決めやがって!」

 サンド島舞台。ウォードックのチョッパーがやけに腹を立てている。細かいことはわからないが、軍の上層部とごたごたがあったのであろう。

 「こちらAWACSサンダーヘッド。 ダヴェンポート大尉、私語はやめろと何回言わせるのだ?」

 「こちら “ラーズグリーズ・スリー” 了解サンダーヘッド」

 この作戦は「デザート・アロー」作戦と呼ばれている。別名「デザート・ブリッツ」作戦で、4つの目標を破壊するのが今回の任務だ。このジラーチ砂漠にはユークトバニアの野戦司令部と飛行場、石油関連施設、前哨基地がある。 司令部を破壊し、残りの施設を奪取するのが目標だ。

 「ウワサはもう広がっているようだなぁ。 ステラ、サンド島のナガセは何か言っているのか?」

 「はい、大佐。 メールでは先日、ケイは敵地上空で撃墜されたそうです」
 「ナガセ大尉が?」と、スコット。

 「ケイは一晩雪山で過ごし、翌朝救助されたのですって。 しかも、そこで敵兵を捕虜にとって、情報まで聞き出していたそうよ」

 「ナガセ大尉、何かすごいな……」

 彼女に対するイメージを改めたスコット。 そろそろ気持ちを入れ替えなければならない。既に作戦空域内であり、敵司令部へ向かうオーシア軍爆撃機部隊が見える。それに随伴するのはブルーベルの502戦術飛行隊と808対地飛行隊のサンダーボルト攻撃機だ。

 「ブルーベルたちが居れば爆撃機は問題なさそうだな。俺たちは別のところへ行こう」

 今回、イーグル中隊は特定の味方の護衛や、特定の敵の攻撃を命じられていない。状況によって攻撃する敵を選別する遊撃部隊として参加している。

 「マーシャル大佐、戦線の左翼の戦況が不安定みたいです。 そこで交戦しているのは第3戦車大隊ですが、第4戦車大隊が不足している為、第3大隊の負担が増えているようです」

 石油関連施設は元々第3戦車大隊と第4戦車大隊が共同で攻略するはずだったが、数日前のゼロ・アワーにおいて、リムファクシによるミサイル攻撃により第4大隊は大きな被害を受け、ごく少数の戦闘可能な車両が第3大隊に編入されているぐらいだ。

 「よし、そうなら早速行くぞ。 イーグルス、戦闘準備!」
3 マーシュ 2007/01/28 Sun 00:23:39 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第62話 『砂漠の電撃』  “Desert Lightning”

 「ミラ、下にはイアンがいるのでしょう?」

 イアンというのはオーシア陸軍、第2戦車大隊「ブラック・ナイト」に所属する “イアン・スピルバーグ” 2等兵のことだ。ステラの説明によると、彼は二十歳になったらミラと結婚する約束を交わしているらしい。
 だが、味方の数はかなり多い。しかも地上となると、空から彼一人を探すのは非常に困難である。針の山から1本のみを探し出すようなものだ。 それでもイアンが第2戦車大隊に所属していることは判明しているので、大体の位置は把握できなくも無い。

 「ミラ、あの辺りじゃないか? あのV字フォームで進軍している部隊だ」

 少し前方に20両程の戦車中隊が見える。実はマーシャル大佐の友人がブラック・ナイト戦車隊の隊長だとのことで、マーシャル自身もある程度その部隊の陣形や作戦目標を知っていたのだ。

 「こちらナイト・リーダー。上空を飛ぶファルコンはもしかしてマーシャル大佐か?」

 「よぉうルーカス。元気だったか?」

 「元気もくそもねぇよ。飲み込むつばさえない暑さだ。たまんねぇな こりゃ」

 戦車の中は当然防弾措置が施されているため、通気性なんてものは考慮されていない。コンピューターの故障を防ぐためにエアコン等が車内に付けられているらしいが、それでも砂漠のど真ん中では効果も薄いのだろう。

 「こちらイーグル中隊のミラ・バーク少尉です。 ナイト・リーダーへ、そこにイアン・スピルバーグ2等兵はいますか?」

 しゃっきりとした口調で質問を繰り出すミラ。 するとルーカス中佐は「いるぞ」と短文で返した。 数秒後にはイアン本人が無線に出た。

 「ミラ! いつから空軍にいたんだ!? それに、シルバーストーンなのにこんなことをして大丈夫なのか!?」

 今まで公表こそはされていなかったが、ミラ・バークは「シルバーストーン」という太陽の光を浴びることが出来ない特別な病に冒されている。彼女がハイエルラーク基地のガーディアン・イーグルスに所属しているのは、ハイエルラークの気候が寒帯かつ殆ど曇りであるだからだそうだ。 無論、ミラ本人の操縦技術の高さも認められている。

 「だからミラは機体に乗るとき、宇宙服みたいなのを着ていたのかぁ……」

 今まで微妙に感じていた疑問がはれ、少し納得したスコット。彼女が冷たいシャーベットを好む理由も、ここにあるのだろうか? それはわからない。
 スコットはふと気がつくと、戦線左翼に戦車とは少し違う車両が前進しているのを発見した。ほぼ同時に地上の第2戦車大隊がそれを砲兵部隊だと識別し、警告を促した。

 「おい、そこの自走砲隊。師団砲兵はそんなに前に出るんじゃねえ。3キロ下がって大砲撃ってろ。 自走砲の基本がなっちゃいねぇぞ」

 スコットは特に軍用車両の知識に精通した人物ではないが、「じそうほう」という存在自体を知らないわけではない。自走砲とは自走流弾砲の略で、戦車の車体の上に巨大な大砲を載せた「足つきの大砲」である。これらの目的は肉眼では見えない距離の敵を長距離から攻撃することだが、何故その自走砲部隊がここまで前に出てきているのだろうか。
4 マーシュ 2007/01/28 Sun 00:24:21 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第63話 『師団司令部なんてくそらくえだ』   Fool of the division HQ

 「こちらドラゴンフライ砲兵団。 司令部から座標を指定された。そこを射程に捕らえるにはこの位置でないと駄なんだ」

 戦車隊の隊列を追い抜き、砂漠のど真ん中に展開する自走砲部隊。ここにもしも敵がやってくれば、この自走砲部隊は高確率で全滅してしまうだろう。外見は戦車と大差ないが、防御力や機動性は戦車を下回るそうだ。

 「こちらナイト2、そこは敵の戦車が来る。護衛の戦車がいてもダメだ、後退しろ! オーバー」

 「そういわれてもな……師団司令部の命令なんだ。 やるしかない」
 「アホ! 師団司令部なんてくそくらえだ!」

 そのとき、敵戦車の砲撃により砂漠の砂が一気に舞い上がる。 噂をすれば影だ。

 「見やがれ、敵戦車!後退しろ、後退! 航空機、敵戦車の前面に自走砲が取り残された。援護してやれよ…なあったら!」

 第2戦車大隊ダックス分隊はそういい残して後退を開始。だが、戦車隊の半数。ブラック・ナイト部隊はまだ自走砲に随伴し、撤退を待っているようだ。だが、自走砲部隊は撤退どころか、踏みとどまって砲撃をしている。勿論肉眼で見える敵戦車ではなく、遥か遠くの砂漠にいるであろう敵部隊に。

 「こちらナイト6、スピルバーグだ。 イーグル中隊へ、敵戦車を攻撃してくれないか!? 俺たちだけでは自走砲部隊を護りきれない!」

 彼らを狙っているのはユーク地上軍の戦車中隊だ。2個中隊が味方を挟撃しようと散開を開始している。彼らが包囲される前に敵戦車隊を撃滅しなければならない。スコットたちはすぐさま敵部隊への攻撃を開始した。

 「こちらイーグル・ワン。了解した。 一番近いやつから叩くぞ! 間違って味方を撃つんじゃねぇぞ!」

 マーシャルが一番初めに降下し、敵部隊の中央に爆撃を加える。それに続いてスコットやステラ、ミラが各自爆弾ミサイルで総統攻撃を加えた。敵の中に対空戦闘車両はいないが、歩兵部隊からの携帯ミサイルや他車両の機関砲がイーグル中隊を迎え撃つ。これらの攻撃が当たってしまえば悲劇に繋がるだろうが、その可能性は殆ど無い。携帯ミサイルや戦車の機関砲など、軍艦や敵機のミサイルに比べれば子供だましにも過ぎない。

 「自走砲部隊の避難はまだなのか? 僕たちだって弾薬無制限じゃないんだ。 ミラ、君の友達に早く砲兵隊を説得するように言ってくれないか?」

 すぐさまミラは無線で地上部隊のイアンに連絡を取った。今丁度砲兵隊が撤収を開始したところらしい。

 「ナイト・シックス!ナイト・シックス! フォームから離れているぞ!すぐに戻れ!」

 一方で、最後の最後の自走砲が動き出すまで待機していたイアンの戦車がキャタピラ部分に被弾し、走行難に陥っているようだ。キャタピラは壊れていないものの、中波して走行に影響を及ぼしている。

 「ナイト・リーダーから航空機部隊へ! すまないが我々は自走砲のお守りで手一杯だ! ナイト6を!イアン2等兵を救ってくれ!」
5 マーシュ 2007/01/31 Wed 20:57:04 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第64話 『イアン2等兵を救え』 Saving Private Ian

 イアン2等兵のエイブラムズ戦車が被弾し、走行困難で部隊から脱落。戦場のど真ん中に取り残されている。他の味方戦車は後退する自走砲の護衛で精一杯で、今イアンを手助けできるのは上空のイーグル中隊のみだ。

 「くそっ!スピードが上がらない! マッコイ、ジョー!とにかく撃ちまくって敵を威嚇してくれ!」

 幸いイアンの戦車の武装はまだ使える。追撃してくる敵に反撃しながら後退することも可能だ。しかし、手負いの状態で敵部隊と戦うのはあまりにも厳しい。早急にこのエリアから離れなければ、イアンらはやられてしまうだろう。

 「あの様子だと逃げ切るのは難しそうだな…… やっぱり敵を全部叩き潰すしかねぇようだな。 イーグルス、各自自由に攻撃!」

 この作戦に参加する前に聞いた話だが、イアン・スピルバーグは来週が誕生日だそうだ。 彼はこの戦争が終わり次第ミラと結婚式を挙げるのらしいので、此処で死ぬわけにはいかないはずだ。それを知るスコットたちはなお更彼を生還させたいと思った。 そのとき、レーダーに新たな機影が映る。

 「不味い!ハインドまでやってきやがった! スコット!ステラ!ヘリを狙え!」

 ユークトバニア軍のハインド攻撃ヘリコプターが5機。まっすぐイアンの戦車に向かってくる。恐らく戦車隊が仕留め損ねた自走砲部隊の尻拭いに来たのだろうが、部隊から脱落したイアンのエイブラムズ戦車を先に発見した。 と、いう所だろう。

 「イアンが危ない……助けないと……」

  “戦闘中” のミラとしては珍しく緊張のこもった声を発している。婚約者が危険なのだから当たり前だろうが、何か違和感を覚える。 とはいえ、この部隊(イーグル中隊)そのものが違和感の塊なのかもしれないが。

 「ステラ、ミラは19でイアンは20歳って聞いたけど、どう思う?」

 「そうね……二人の気持ちはわかるけど、少し早すぎるかな?」


 「うぉい二人とも!戦闘中だぞ! ヘリや戦車相手だからって、そんなに油断するな!」

 真面目なオーラを感じさせる声で叫ぶマーシャル。それに続いてミラも。

 「こちらシャーベット。 戦闘中なので、私語を謹んでください」

 まるでAWACSサンダーヘッドだ。 相手がヘリや戦車だからといって油断するのは良くないのは事実なので、すぐさま仕切りなおす。

 「ムスタング、了解」
 「ごめんなさいね、ミラ」

 ヘリがイアンの戦車に危害を加える前に叩き落す。それらが完了した後は残りの戦車を叩けば良い。 あまり対地攻撃の経験が多くないスコット達だったが、反撃が少ないため、それほど困難なことでもなかった。
6 マーシュ 2007/02/04 Sun 22:21:31 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第65話 『守護神ヘルヴォル』  The Guardian of the Hervor


 「<こちらゼニート8. オーシアの自走砲部隊を追撃していた友軍から通信が途絶えたそうだが?>」

 ジラーチ砂漠中央付近ではユークトバニアのAWACSが到着し、指揮統制を再確認していた。更にAWACSの指示により、オーシア軍の砲撃支援を無力化するため、先に取り逃がした自走砲部隊の行方を追っていた。

 「<もしや、 “ラーズグリーズの悪魔” か?>」

 「<違う。 守護神 “ヘルヴォル” だろう。 オーシアのエースはラーズグリーズだけではない。 ゴールゥビ・ガルボーイ隊の隊長を落とした奴らだ>」

 少し前にユーク軍はオーシアの大艦隊に大規模な航空部隊を送り込んだ。その作戦が成功していれば、このジラーチ砂漠に展開している戦車部隊の大半が水没していたはずだが、オーシアの守護神 “ヘルヴォル” の妨害により、輸送船団を全て撃ち漏らしたどころか、ユーク空軍のエース・パイロットである「アレキサンダー・ネイガウス大佐」が戦死。この戦闘はオーシア軍の大勝利に終わってしまったのである。

 「<お前ら、ラーズグリーズどころかヘルヴォルまで信じているのか? あんなのは子供だましに過ぎない>」

 彼らの言うヘルヴォルというのは、童話「姫君の青い鳩」で知られる作家 “エリノア・グラウン” の作品『王子様の届かぬ想い』に登場する守護神のことだ。この作品は「姫君の青い鳩」との関連作品で、それに登場する姫君に思いを寄せる王子様の話である。

 「<クワント2からゼニート8へ。 ラーズグリーズは実在する。ヘルヴォルが実在してもおかしくは無い>」

 「<で、どうするんだクワントリーダー。 悪魔と守護神の対応は>」
 「<ヘルヴォルは貴隊に任せる。こちらはラーズグリーズを>」


 「<……大佐の敵を討つ。 全機俺に続け!!>」

 ラーズグリーズへの対応に向かう本隊と別れ、ヘルヴォルのいる空域へと向かう彼ら。
7 マーシュ 2007/02/06 Tue 21:35:33 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第66話  『ヴァチャーズィ』  Yuktobanian Knights

 損傷したイアンの戦車はようやく他の戦車と合流できた。彼らが合流したときには既に体勢は立て直され、新たな目標へと向かおうとしていた。それはこの先の野戦司令部の先にある「クルイーク要塞」の前哨基地で、クルイーク要塞そのものを攻略するにはまず此処を制圧しなければならない。


 「こちらAWACSブルー・ドヴ。 イーグル中隊は引き続き第2大隊の上空支援をお願いします。前哨基地で他の部隊も合流するはずですので、それまで頑張ってください」

 数キロ前方には敵地上軍と少数ながら敵の航空機が確認される。だが、体勢を立て直したこちら側の敵ではない。 また、イアンは新車に乗り換えて戦線復帰している。

 「第2戦車大隊のルーカス。ナイト・リーダーだ。 敵軍の防衛線を突破し、最終目標である敵クルイーク要塞の前哨基地へ向かう!」

 「ダックス各車、ブラック・ナイトに続け!」
 「ラフレシア、行軍開始!」

 先ほどまで殆どの部隊が敵により足止めを受けていたが、サンド島部隊ウォードックの活躍により今では全ての友軍が最終目標へ向けて前進を開始している。彼らは既に戦線を離脱してサンド島への帰路についているそうだが、あとは彼らの力を借りるまでも無いだろう。

 「敵部隊は敗走中。一気に潰せ! ナイト・シックス、第3分隊を引き連れて左舷から攻めろ! ダックスとラフレシアは後方から援護を! 航空機部隊、援護を頼む!」

 「こちら808航空隊。了解した。これより敵戦車の攻撃へ移る。 周辺の友軍機へ、本隊の支援を要請する」

 イーグル中隊の側面を飛行するのは、少し前味方爆撃機に随伴していた4機のサンダーボルト攻撃機部隊だ。反対側にはその護衛として、オーシア空軍第11飛行隊 “エクストリーム・ハリケーン” 中隊のトーネード戦闘機が4機。

 「今のところ敵機はいねぇな。 たぶん前哨基地で守りを固めているか、ラーズグリーズ。もといサンド島部隊が殆ど始末したんだろうな」

 マーシャルの言うようにレーダーに敵影は無い。他は地上部隊がレーダー照準機でマークした敵地上部隊だけだ。 だがそのとき、友軍のサンダーボルト攻撃機4機が遠距離からのミサイルで撃墜される。本当に一瞬の出来事であった。

 「何だ!? 攻撃機が一瞬でやられたぞ!? イーグルス、そちらはどうだ?」

 「こちらイーグル2、レーダーに敵影!」

 レーダーに8機の機影が映っている。 それらはマッハ2でこちらに迫っているとステラが告げた。


 「ユークトバニアのターミネーターが8機! スコット……」

 「わかっている。 バクーニンらの “リパブリック・コマンド” だ。 また戦うことになるのか……?」

 イーグル中隊、ハリケーン中隊と敵ユークトバニアの青いターミネーター部隊との距離が徐々に縮まる。
 相手は高性能のターミネーターが8機。対するこちらはファイティング・ファルコンとトーネードが4機ずつ。数では平等だが、性能面でこちらが不利である。
8 マーシュ 2007/02/06 Tue 21:42:51 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第67話 『スカイ・オブ・グラディエーター』 Skies of Gladiator
―――――ユークトバニア・ジラーチ砂漠 クルイーク要塞前哨基地周辺
       Location:Yuktobania | Jilachi Desert  Cruik Fortress Front Line Base

 遠方から迫る青いターミネーターとヘッドオン状態で接近する一同。すると、通常ミサイルの射程に入らない間にXLAAによる長距離攻撃の第2派が迫る。 それにより、回避行動を取ったもののハリケーン中隊のトーネード2機が撃墜されてしまった。

 「今度はこちらの番だ! ハリケーン・スリー、フォックス3!」

 友軍のXMAAが敵ターミネーター向かって飛んでゆく。だが、敵はそれを簡単に回避。そのまま格闘戦に突入する。格闘戦における性能面では、ターミネーターを超える機体は殆ど存在しない。かと言って遠距離でも侮れない力を発揮する。 こうなると、頼れるのは己自身の操縦技術だけだ。


 「<ゴールゥビ・リーダーから各機へ。トーネードから先に叩く。 ファルコンはその後だ>」


 「何故敵の無線が聞こえてくるの!?」

 ステラをはじめ、皆が薄々感じていたことだが、少し前から敵の無線がこちら側に漏洩している。普通はありえないことだが、今は確かに敵の声が聞き取れる。
 オーシアの機体は世界最高水準の『ノース・オーシアグランダーI・G』社製で、高度な技術を有する会社の製品としては、欠陥等とは考えにくい。


 「<敵機を捕らえた>」

 青いターミネーターの1機が友軍のトーネードの背後につく。それと同時にミサイルを放った。

 「畜生!ミサイルだ!」

 「ハリケーン・スリー、ブレイク ブレイク! くそっ!皆やられちまったか!」

 ミサイルの直撃を受け、火を噴いて堕ちてゆく友軍のトーネード。パイロットは脱出に成功したようだ。 寮機を失ったハリケーン・リーダーとイーグル中隊は引き続き交戦を続ける。
 スコットは周囲をうろつく敵を無視し、友軍や味方を狙う敵のみを狙おうとしていたが、敵が先にこちらをロックオンしてきたようだ。


 「気をつけろスコット! 2機に狙われているぞ!」

 スコットのファルコンを挟むように上下から敵機が迫る。下から機関砲で銃撃されたため、スコットはバレル・ロールで機体を回転させつつ追撃から逃れようとするが、なかなか思うようにいかない。 それを見ていたステラがスコットを追う2機のターミネーターの背後につく。

 「イーグル1からファイアフライ。 ステラ、気をつけろ!!」

 後ろから攻めるのはもっとも安全で一般化した空戦技術だが、このターミネーターは真後ろへもミサイルを発射できるため、油断すれば命取りになる。

 そのとき、その2機の間に割り込むかのように1機のターミネーターが現れる。
9 マーシュ 2007/02/08 Thu 23:47:41 DXjf..D3Q.5iAv
 ――――――――――第68話  『戦う理由』  Why We Fight

 2機のターミネーターに狙われていたスコットだが、その間にバクーニンのターミネーターが割り込んできた。今、彼のターミネーターはQAAMでスコットを補足している。

 「バクーニン、やめてくれ! 僕は君と戦いたくはない!」

 「<それなら何故此処にいる!?>」

 その台詞と共にQAAMが放たれ、2発の高軌道ミサイルがスコットのファルコンに迫る。 チャフ・フレアを散布しつつブレイクして回避を試みるが、回避してもこのミサイルは再度目標を追撃するという厄介な特徴を持っている。

 「くそっ!」

 スコットはすぐさまバレル・ロールを開始。2発のミサイルが回転するスコットの機体の軌跡を追うが、2発のQAAMも同じように回転するうちにミサイル同士が衝突。空中で消滅した。

 「スコット!」
 「ステラ! 下がっていてくれ! これは僕の問題だ!!」

 ステラがスコットを援護するために再接近してきたが、彼は彼女にこの場から離れるように言った。これは彼とバクーニンの問題であり、ステラが介入するべきことではないと。

 「<一人でいいのか? スコット、本気で俺に勝てると思っているのか?>」

 スコットは体勢を立て直して、バクーニンのターミネーターとヘッドオン状態に入る。

 「<お前は命の恩人だが、ここで俺に立ちはだかるというのなら、やはり容赦は出来ない。 お前はケンカすら出来ない優しい奴だというのに、何故オーシア軍なんかにいる!? 気は確かか!?>」

 両者ともエンジン・スロットルを最大にし、最大推力で突進してゆく。

 「僕だって戦争が好きで軍にいるわけではない! 守るべきもの、守るべき力が欲しかった!」

 射程に入り、相手をロックオンが完了するのと同時にロックオンされたときの警報が鳴り響く。

 「イーグル4・ムスタング、フォックス2!」
 「<ゴールゥビ・リーダー、フォックス2!>」

 二人が放った2発のミサイルが飛翔し、二人の中間点で衝突、消滅した。 そして彼ら自身も衝突寸前で機体を90度傾け、腹と腹を合わせてすれ違った。

 「<いいだろう。 俺も本気で行かせてもらうぞ!>」

 このときバクーニンは臆病者のスコットが躊躇して撃たないと思っていたが、実際には堂々とミサイルを放っていたので、少しながら驚いていた。 そのとき、彼の寮機がスコットの背後から迫る。

 「<手出しをするな! これは俺とあいつの闘いだ!>」

 その寮機に威嚇射撃して追う払うバクーニン。今までに味方向かって機関砲を発射する隊長なんて殆ど居なかっただろう。
10 マーシュ 2007/02/08 Thu 23:50:31 DXjf..D3Q.5iAv
 「<来い! これで1対1だ!>」

 「バクーニン……。 これが運命だというのか……」


 ―――――――――――第69話  『エース・コンバット』  ACE COMBAT


 先に旋回を終えたバクーニンのターミネーターから2発のQAAMが放たれる。

 「<まさかお前が軍隊にいるとな。 しかも今では『守護神ヘルヴォル』と言われているそうではないか>」

 バクーニンはさらに通常ミサイルでスコットに追い討ちを加えた。 それに対するスコットはチャフ・フレアを撒布しつつバレル・ロールでミサイルの回避を続ける。1発、2発と徐々にミサイルをチャフ・フレアに巻き込ませる。

 「バクーニン! 君は何故戦う!? 生きる理由が闘いだなんて、僕は決して受け容れない!」

 ブレイクして残りのミサイルも振り払うと、斜め宙返りとも言われるひねりこみでバクーニンのターミネーターをオーバーシュートさせる。この技はかつてサンド島に居たときにバートレット大尉から教わったものだ。

 そしてスコットは後方からバクーニンのターミネーターに機関砲を浴びせる。だが、バクーニンも後方へミサイルを発射。スコットはすぐに回避行動に入り、機関砲が数発被弾しただけに留まった。

 「<お前は俺たちの隊長を撃墜し、命を奪った。そこに俺が戦う理由がある>」

 バクーニンたちの隊長。セレス海上空で落としたワイバーンのパイロットのことだろう。 あの時はただ仲間を守り、海上の輸送船団の護衛。そして再会したバクーニンの存在しか頭になかったが、あの戦闘でスコット自身が撃墜した敵パイロットの多数は戦死したであろう。スコットは今、他人の命を奪っている事を改めて身重に感じていた。

 「……バクーニン…… 僕は!」

 バクーニンはスコットの戦意が揺れている隙に背後を奪い、ミサイル・ロックを完了させた。かつての恩人を討つのは何だが、今は敵同士。撃たなければこちらがやられる。

 「<別れだ。 スコット>」

 2発のミサイルが放たれる。 だが、そこに1機のファイティング・ファルコンが乱入した。

 「何をしている!? 死にたいのかスコットォォォ!!!!」

 機関砲で1発のミサイルを破壊したのはマーシャル大佐だ。更に残りの1発も機関砲で叩き落し、3機のターミネーターに追われながらもスコットとバクーニンの中間をすり抜けていった。

 「<クソッ! 邪魔をするな!>」

 マーシャルのファルコンが3機のターミネーターに追われながら猛スピードでバクーニンの背後から迫る。 バクーニンはコブラ・クルビットでマーシャルをオーバーシュートさせると、目障りなマーシャルのファルコンに機関砲を掃射した。

 「俺様を甘く見るな! 食らえぇぇぇッ!!!」

 マーシャルは被弾して機体のコントロールが鈍くなる中、減速上昇して失速気味の状態でコブラ・クルビットもどきを成し遂げると、追ってくる4機のターミネーターにXMAAを発射した。 それによりバクーニン以外のターミネーターを始末したが、バクーニンがそれに反撃。 マーシャルの機体にミサイルで止めを刺した。

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