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ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTER Y 約束の青空

前スレッド No.136
58 マーシュ 2006/12/30 Sat 21:29:22 DXjf..D3Q.5iAv
ACE COMBAT 5 INVISIBLE GOD CHAPTER Y The Blue Skies of Promise
エースコンバット 5 インヴィシブル・ゴッド 第6章 約束の青空

――――――――――主な登場人物   Main Character

 オーシア国防空軍第24飛行隊 “ガーディアン・イーグルス”
 Osean Air Defense Force 24th Squadron “Guardian Eagles”

 ハイエルラークを本拠地とする飛行中隊。マクネアリや他の基地にも別部隊が存在する。当初はF-16ファイティング・ファルコンを採用しており、今現在はブロック60に更新されている。 また、近い未来F-2ヴァイパー・ゼロ(彼らはこの愛称で呼んでいる)が配備される予定。
 しかし、他部隊と比べ、やや個性が強い傾向にある。


 スコット・ヘンダーソン  Scot Henderson   TAC Name:“Mustang”
 本作の主人公。国籍不明機の攻撃から生き残った一人。高校卒業と共にオーシア空軍へ入隊。なりゆきか運命かは曖昧だが、現在はガーディアン・イーグルスに所属し、オーシアの空を守っている。また、サンド島のナガセとダヴェンポートとは同期。真面目で控えめな性格だが、熱くなると我を失うところもある。極端に得意や苦手は存在しないが、勉強も運動もそれなりに出来る秀才。
 TACネーム(ニックネーム)はMustang(ムスタング)

 ステラ・バーネット  Stella Burnet   TAC Name:“Firefly”
 オーシア空軍第24飛行隊「ガーディアン・イーグルス」に配属する若手のパイロット。軍隊にはあまり興味が無いが、親友である“ケイ・ナガセ”が空軍に入隊するのをきっかけに彼女も同じ道を進んだ。
 父親は15年前のベルカ戦争で撃墜されて以来行方不明で、母親も失踪した為、幼いころからポールの親戚が経営するバーネット孤児院で育つ。
 TACネームはFirefly(ファイアフライ)

 ポール・“ジャック”・マーシャル  Paul“Jack” Marshall  TAC Name:”Rex“
 オーシア空軍第24航空隊、「ガーディアン・イーグルス」通称イーグル中隊の隊長。 判断力があり部隊長としては優秀なのだが、テンションが高く私語が多い為に少々浮き出た存在である。だが、空戦技術はオーシア空軍の中でもかなり高い。
階級は大佐。15年前のベルカ戦争に参加。そこで彼は同じ部隊に所属していた「2人のジャック」と意気投合し、それ以降彼も「ジャック」と名乗ることがあったそうだ。
 TACネームはRex(レックス)

 ミラ・バーク  Mira Burke   TAC Name:“Sherbet”
 オーシア空軍第24飛行隊所属「ガーディアン・イーグルス」のパイロット。一言で言うと “2重人格” 。戦闘時は凛々しいが、それ以外となると気合が抜けたかのようにだらだらしている。 出身はユージア大陸のサン・サルバシオン。
 また、アイスシャーベットが大好きで、暇さえあればとにかく食べている為、TACネームはsherbet(シャーベット)


―――――その他の登場人物  Sub Character

 ジェシカ・ブラッカイマー  Jessica Bruckheimer
 オーシア空軍のAWACS(空中管制機)ブルー・ドヴに随伴する管制官である才女。この空飛ぶ司令室のオペレーターを務める。人見知りで新人の為、まだ緊張気味。ナガセやステラ、ミラとは面識があり、任務中に出会うと若干私語を漏らすことも。

 イアン・スピルバーグ  Ian Spielberg
 オーシア陸軍「ブラック・ナイト」戦車大隊に所属する兵士。ミラの同級生で仲が良いが、実は恋仲。イアンが二十歳になったらミラと結婚する約束を交わしている。
 彼は口より身体が先に動くタイプで、勉強が苦手な体育系。彼が軍隊に入隊した理由は結婚式の資金を稼ぐ為。 階級は2等兵。

 ブルース・グリム  Blues Grimm
 オーシア陸軍、第1大隊に所属する兵士。階級は大尉で、優れたリーダーシップを持つ分隊長。隊の中では非常に真面目で、周囲からの信頼も厚い。 ハンス・グリムの兄。

 レオン・ライト・ブルーベル  Leon light bluebell  TAC Name:“Amadeus”
 ウスティオ生まれで、15年前のベルカ戦争ではウスティオ空軍の一員として参加。その後はオーシアでプロサッカー選手として活躍。サッカー引退後は戦時での経験を生かし、オーシア空軍で再びパイロットとなるが、勇敢で的確な判断力が評価されて第502戦術航空中隊の指揮官に任命される。
 TACネームはAmadeus(アマデウス)

―――――”戦争にルールは無い ただ敵を殺めるのみ”
59 マーシュ 2006/12/30 Sat 21:32:16 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第51話  『解放。 ……そして、告別』  Call of the Freedom
―――――2005年、ユージア大陸  サン・サルバシオン   Location:USEA  San Salvacion  (5Years Ago)

 13歳のスコット・ヘンダーソンはある夜、1人の少年と共に路地の片隅にいた。今、この中立都市はエルジア軍の占領下にあるが、独立国家連合軍(ISAF)の進撃により、今まさに「解放」されようとしている。

 ((俺は戦い方を知っている。だから、それを使うまでだ。 スコット、お前は…))
 ((僕も戦う! バクーニンが戦っているのに、僕は指をくわえて見ているなんて!))

 この都市、サン・サルバシオンはユージア大陸のど真ん中にあり、戦争があれば100パーセント巻き込まれる不運な都市だ。ただ、各地域や外国、周辺への便が大変よく、国際交流の中心とも言える大都市でもある。

 ((スコットとこの町の人たちは俺とあいつを迎え入れ、助けてくれた。 だから俺はその恩を返さないといけない))

 スコットとバクーニンが出会ったのは今から5年前。バクーニンは信じられないことに、10歳で戦闘機を操縦して海外からやってきたのだ。しかも1人の少女と共に。

 ((だからって、まだ子供じゃないか! 子供は戦争に参加してはいけないというルールは国際法で決まっている!))

 バクーニンは小柄な体に似合わない防具を装備し、重そうなライフルを持っている。これでエルジア軍と戦うレジスタンスに加勢するつもりだ。

 ((……俺は戦う為に育てられたようなもんだ。 こんなこと言っても信じないと思うけど、俺は今から10年前に勃発した「ベルカ戦争」に参加していた。少年兵として))

 スコットはわが耳を疑ったが、バクーニンは冗談だと言って笑いを誘った。しかし、笑える冗談ではない。 既に町の大通りはISAFの戦車とエルジア陸軍が激しい戦闘を繰り広げている。

 ((大丈夫だ。俺は必ず戻る。それまであいつのことよろしく頼むな))

 バクーニンはそう言うと、レジスタンス・グループの青年たちにと共に国営放送ビルの方向へ向かった。そこをエルジア軍から奪還する為に兵力が必要だからだ。

 ((あれは……))

 すぐ真上を1機の戦闘機が通り抜けていく。ラジオや新聞によると、この戦闘にはISAFのエース・パイロットである「リボンマークの戦闘機」が参加しているとのことだ。このリボンマークの戦闘機のパイロットは「メビウス1」というコールサインのみが知られる謎多きパイロットだ。


 「僕も……戦う為の力が欲しい。 大事なものを守る為の翼が……」


 ―――――翌朝。


 スコットが目覚めると、既に戦闘は終わっていた。町は歓声に満ち溢れ、自由の叫びがよく聞こえる。 だが、そこにバクーニンの姿はなく、殴り書きの手紙があった。


 “急ですまない。 どうしてもこの町を去らなくてはならなくなった。 俺はあいつと共にこの町を去る。 スコット、今までありがとう。 元気でな”


 これ以降、スコットの元に彼からの連絡は無かった。
60 マーシュ 2007/01/04 Thu 20:21:30 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第52話  『お帰りヘンダーソン君』  Mr. Henderson Welcome Back

 ドレスデネ地方にあるオーシア最前線基地にやってきたイーグル中隊。ここは元々破棄された敵軍基地であり、さまざまな物資が散乱している。どうやら敵はかなりあわてて逃げ出したようだ。

 「まだ陸軍の連中がいるな。 俺たちの寝る場所、盗られなきゃいいんだが」

 オーシア歩兵大隊の隊員達がこの基地の倉庫周辺にあるコンテナに腰がけ、古いドラム缶で焚き木をしつつ、雑談と酒に溺れているようだ。すると、スコットたちに気がついた一部の隊員がスコット達に手を振り、こっちに来いと合図した。

 「スコット、お前空軍に彼女でもいたのか?」
 「いや、友人が居るだけだ。 そうだよな、スコット?」

 このとき、ステラとミラ、マーシャルは互いに顔を見合わせてわが耳を疑った。スコットに手を振っていた陸軍の丸刈り頭の兵士が、他の丸刈り頭に「スコット」と呼ばれている。

 「スコット。元気だった?」

 「おう、元気だぜ。 スコットのほうはどうだ?」

 オーシア陸軍第1大隊に所属する「スコット・アンダーソン」と、ガーディアン・イーグルスに所属する「スコット・ヘンダーソン」は戦争が始まる前に出会った知り合いで、互いに高校の部活動。ブラスヴァンドの国際大会でオーレッドに来た際、偶然出会って息統合した中だ。


 「ジェフ、空軍のスコットにシャンパンを出してやってくれ」
 「おしきた。 任せておけ」

 このオーシア陸軍は少し前、「フットプリント作戦」にて第8艦隊と輸送船団に先駆けてユークトバニアに上陸した最初の部隊だ。 この部隊はスコットたちが海上で護衛した大規模機甲部隊と合流し、最終目的地をユークトバニア首都とした大進撃を開始する。


 「ところでスコット。そちらのお姉ちゃんらはお前の彼女か?」

 ステラとミラを見た陸軍のスコットがぽつりとそう言い放った。

 「……なっ! ち、違う! 僕らはそんなのじゃ……」


 「ちがうの、すこっと?」


 ミラが何気に悲しそうな顔をしている。彼女はどうやらスコットと仲のいい友達でいたつもりだが、今の台詞がそれを否定しているのだと思ってしまったようだ。 それを見た陸軍の一同が異状にまで敏感に反応した。

 「おおい、 ”空軍の” スコット! 女の子の心は繊細なんだぞ! なんてことを!」

 その空軍のスコットは陸軍の丸刈り頭集団をやり過ごすのと同時に、ミラのご機嫌を取り戻す必要があった。しかし、勢い的にこれはかなりの重労働である。
61 マーシュ 2007/01/04 Thu 20:24:11 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第53話 『丸刈り頭の兵士たち』 jarhead

 スコット達は陸軍のスコット達に温かく受け入れられた。 人気の無いハイエルラークとは違い、ここはにぎやかだ。寒帯で湿気のある場所だが、兵士たちは戦いの疲れを癒す為に色々と手を加えつつ、奪取した倉庫から様々な代物を持ち出してきている。

 「臆病者のスコットが世話になっています。あいつは空でどんな感じなんですか、バーネット少尉」

 必死で周囲とミラをなだめるスコットをよそに、陸軍のスコットはステラに空軍のスコットがどんな生活を送っているのかを聞いていた。 それに対し、ステラは忙しいときは地上より空に居る時間が長く、退屈なときは殆どハイエルラーク基地で暇をもてあましているとだけ答えた。

 「―――あいつとは、ただの友達ですか?」

 「ただの友達ではないわ。 スコットとは……」

 基地の遠くに見える乾燥した丘を眺めつつ、ステラはこう言った。

 「スコットは…… 一緒に空を飛ぶ仲間。友達とか、家族とかとは違って、なにか特別な存在。 言葉で言い表せないような……ね」

 シャンパンを一口飲み、陸軍のスコットはステラと空軍のスコットが恋人なのかを聞いてみると、ステラはイエスともノーとも言わず、ただ微笑するだけだった。

 「そっちはスコットとどういう関係なの?」

 「自分ですか? スコットとは高校時代、ブラスヴァンドの国際大会で出くわした中だ。 大会終了後、会場の外でエキシビション。というか、フリー・コンサートをやっていた」

 両者ともバイオリンの担当だった。サン・サルバシオン高校代表のスコット・ヘンダーソンとバーナ学園代表のスコット・アンダーソンはここで日が暮れるまでバイオリンを引き続けた。 そのおかげで今の空軍スコットは翌日まで飛行機を待つ羽目になったが、それはそれでいい経験・思い出になったのかもしれない。

 「軍に入ってからは、機会さえあればどうにかしてバイオリン演奏をともにする。 バイオリンとか、オーケストラは音が重なれば重なるほど良くなるからな。 っと、すみません。ついタメ愚痴に」

 上官であるステラに敬語を使用することを忘れ、陸軍のスコットはすぐに謝った。しかし、ステラはそんなことは全く気にしておらず、嬉しそうに微笑んでいた。 幼いころ孤児院で育った彼女にとって、このような話はとても楽しいものであったからだろう。

 「それで、自分は第1大隊の兵士をかき集め、「アーミー・オーケストラ」を設立したんですよ。 設立っても、軍が公式に認めている楽団とは別物ですけどね」

 ふと気がつくと、空軍のスコットを含んだ丸刈り頭の集団は楽器を持ち出し、演奏を始めようとしていた。すぐさま陸軍のスコットもバイオリンを手に取り、それに加わる。

 「グリム大尉、今回の曲は?」

 他の隊員とは少し違った戦闘服に身を包む大尉が指揮者だ。 そして、両手を構える。


 「今日はあの曲だ。 “メガリス 〜神の子羊〜” をやるぞ」


 神の子羊。アニュス・ダイというと、ユージア大陸で有名な平和への賛歌だったはず。
62 マーシュ 2007/01/04 Thu 20:25:23 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第54話  『グリム兄弟』  brother’s Grimm

 イーグル中隊のメンバーは今、初めてスコットがバイオリニストだと知った。しかし、それ以上にオーシア陸軍第1大隊の兵士達が楽器を扱えることが驚きだった。 普通、若者はクラシックやオーケストラよりもロック等を好むが、この部隊は非常にオーケストラ好きらしい。

 「ギターなら得意なんだがな」

 腕を組んで答えるマーシャル。 演奏が終わるころには既に日が暮れていた。 少し前にオーシア空軍の輸送機が投下した補給物資コンテナの中には大量の食料が入っており、丸刈り頭たちはそれでバーベキュー・パーティをやり始めた。


 「ヘンダーソン少尉。君は少し前、サンド島部隊にいたそうだな?」

 「はい。そうです」

 バーベキューで盛り上がる一同とは別に、陸軍のスコットとバイオリンを引き続けるスコット。そんな彼の下に先ほどオーケストラの指揮をしていた大尉がやってくる。 彼はブルース・グリム大尉。サンド島のウォードッグ、ハンス・グリムの兄だ。 スコットはグリム兄貴に弟は勇敢にも空襲の中を離陸し、基地を守った勇者であると伝えた。

 「そうか……あいつもとうとう実戦に出ているのか。 なあ、もし空でハンスと出会ったときは、手を貸してやってくれるか?」

 「勿論です、大尉」

 スコットはあの時、5年前。戦う為の力を求めていた。それは友人の力となる為でもあり、守りたいものを守る為の力であった。そして今、スコットの力は弟を案じる兄に求められている。 人を殺す為よりも、何かを守る為に自分の持つ力を使う。そうすれば戦うときに感じる罪悪感とか、そのほかに感じる言葉で表せない感情をもっと別の感情。喜びとか、達成感に変えられるかもしれない。


 「―――俺たちは近日に発動される大進撃 “ゼロ・アワー” と同時に機甲部隊と合流。一気に周辺地域の敵軍を駆逐して「ジラーチ砂漠」へ敵を押し出す。 その砂漠を突破すれば、あとは「クルイーク要塞」が敵国首都への最後の防衛線になるはずだ」


 おそらく、イーグル中隊もこの作戦に加わるはずだ。しかし、なぜ作戦会議でもないのにこんなことを教えてくれるのだろうか?

 「スコット。 実は、嫌な予感がするんだ。 何か、とてつもない秘密兵器が出て来る気がしてな…… それで、もし出来れば…… こいつを」


 彼が懐から何かを取り出す。 ……遺書だ。


 「俺の部隊が。地上部隊が全滅する夢を見るんだ。 だから、お前にこれを託したい」

 勿論。遺書など受け取れるはずが無い。受け取るということは、相手の死を受け入れるようなものだ。


 「―――もし何かあったら、僕たちが上から大尉たちを救います。 絶対に」
63 マーシュ 2007/01/05 Fri 22:48:14 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第55話 『約束の青空』 The Blue Skies of Promise
――――― 2001年 (9年前)・ユージア大陸、サン・サルバシオン   location:USEA San Salvacion (9Years Ago)

 スコット・ヘンダーソンは小学生の時から才児とまではいかなくとも、平均よりはいい成績を維持する秀才だった。しかし、特に短所が無い彼に嫉妬するものも多数存在した。そのため、放課後に喧嘩を売られることもしばしばだった。スコットは特に武術を習っている訳ではないが運動神経はなかなか優秀であり、1対1なら相手を負かすことはさほど困難ではなかった。

 「これ以上ひどい目に遇いたくなければ、出しゃばらないことだな」

 だが、争いを好まない彼に人を傷つけることは難しかった。それにより、スコットは事実上カツアゲの対象になりつつあった。


 「待て」

 しかし、そんな彼がこのような目に遇えば、それに対して制裁を加える者もいた。 当時の1年前、飛行機で此処にやってきたバクーニンだ。 カツアゲをしたのは子供と言え、金属バットやカッター・ナイフを所有しており、下手をすれば大怪我をするだろう。

 「なんだお前は」

 「―――スコットから奪った物を返せ」

 スコットから金を奪った不良の中には、恐らく中学生やより高年齢の人物も居る。しかも武器を持ち、5人でバクーニンを囲んでいた。

 「ガキだからって、容赦はしねぇぞ」

 そういうと、不良は金属バットをバクーニンの後頭部狙って振ったが、バクーニンはしゃがんでそれを回避し、足払いでバットを振った不良をダウンさせる。次に正面からカッター・ナイフで切りかかってくる輩には先ほどの不良から手放されたバットを使用し、ナイフを手から叩き落させた。直後に顔面にバットで突きを加え、気絶させる。

 「まだやるか?」

 倒れた不良の腰には2つのトンファーがぶら下がっている。それをつま先に引っ掛けて蹴り上げる。バットを投げ捨てて宙に浮いたトンファーを両手につかむが、不良は自分らの手に負える相手ではないと思い、一目散に逃げ始めた。

 「あだっ!」

 だが、背を向けて逃げる不良の足にトンファーが飛来し、転倒させた。 そこに追いついたバクーニンは顔面に金属バットで叩き込みを入れた。 花血が出ようと、相手が叫ぼうとそれに構わず、徹底的に叩いた。

 「バクーニン! やめろ!」

 何故止めるんだという表情でスコットを見返すバクーニン。 不良は今、スコットから奪った現金を本人に返却したが、かなり負傷している。 正直、バクーニンはやりすぎだ。
64 マーシュ 2007/01/05 Fri 22:50:36 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第56話 『あの空の向こうへ』 He’s Wings

 不良に襲われたスコットを救う為とはいえ、バクーニンは相手に重症を負わせた。これは流石にマズイ。 さらに不運なことに、パトロール中の警察官に見つかり、逃走する羽目になった。

 「何故逃げるんだ!? バクーニン!?」

 「俺には都合が悪い!」

 不良に大怪我を負わせたのはバクーニンだが、ありのままを説明すれば警察官もわかってくれるのではないか? しかし、よく考えると、バクーニンは孤児かつフルネーム不明で、経歴どころか出身まで不明である。スコットは聞かないようにしているが、警察に連れて行かれ、事情を聞かれるのは彼にとってとても面倒なのだろう。


 「―――何とか逃げ切ったな」

 裏路地で一息つくスコットとバクーニン。しかし、スコット様子がおかしい。 まるでとんでもないことをしてしまったかのように。

 「バクーニン。 彼らは実は、ユージア・マフィアの手先なんだ。 こんなことをしたら、ただじゃ……」

 サン・サルバシオンはとても物流がいい大都市であるが、その裏ではそれを利用したブラック・マーケットもさかんである。武器や麻薬の密売ぐらい、日常茶飯事といっても過言ではない。

 「つまり、俺は警察とマフィアの手先。両方からお尋ねものになるってか? 面倒だな」

 バクーニンは物陰から路地を覗き込んでみると、拳銃を持った数人の不良が何かを探すように歩き回っている。早いところ此処から離れるべきだ。 バクーニンはスコットを連れて狭い路地を駆け巡り、追ってくるであろう集団から逃げ切ろうとした。


 「いたぞ! あのガキどもだ!」

 いきなりこちら向けて発砲してくるマフィアの手先。放たれた銃弾は路地に転がっていた木箱を粉砕した。

 「バクーニン!此処のことなら僕に任せて! 道なら隅から隅まで知り尽くしている!」

 バクーニンに代わり、スコットが前に立つ。 中世時代の雰囲気を残す表路地はともかく、暗くて汚れたサン・サルバシオンの裏路地は迷路のように入り組んでいる。闇雲に走ったところでどうしようもない。

 「どこへ行く!?」

 「あいつらのテリトリーから脱出しないと!」

 サン・サルバシオンの裏路地一帯はユージア・マフィアのテリトリー。支配区域であり、ここにいれば奴らに捕まるのは時間の問題だろう。 二人は狭い路地を駆け抜けると、林の中を進み、建設中の高速道路に出た。高速道路は未完成で、少し向こうにはトンネルが見える。


 「とりあえず、一安心か?」


 余談だが、この高速道路。 4年後の戦争で「黄色中隊」と呼ばれるエルジア空軍の精鋭部隊の野戦滑走路として使用されることとなる。 高速道路として完成されぬまま。
65 マーシュ 2007/01/05 Fri 22:51:08 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第57話  『ブルースカイ・オブ・プロミス』   The Blue Skies of Promise Part U

 「あの倉庫に逃げ込もう」

 一安心かと思いきや、追っ手はまだやってくる。 二人は放置された格納庫と思える建造物の中に身を隠した。中から外を覗いてみると、いつの間にか彼らの倉庫を囲むようにマフィアが集結している。黒い車、ライフルを持った手先。もう、此処から逃げ出すのは難しいだろう。

 「バクーニン。これは……」

 スコットは格納庫の中央にある怪しげな物体に気がついた。古い布にかぶせられた物体は背景と違和感無く溶け込んでおり、一瞬見た程度ではすぐには気がつく代物ではない。 二人は早速布を引き、その正体を確かめた。もしかして今の状態を打破できるかもしれないと信じつつ。

 「アパッチだな」

 姿を現したのは世界でも最高レベルの戦闘力を持つアパッチ攻撃ヘリコプター。これもブラック・マーケットの商品なのだろうか? 多少の傷が目立つものの、最近手を加えられた形跡が伺える。周囲には様々な武器や燃料もそろい、今すぐにでも使用できそうだ。 そのとき、格納庫の窓ガラスが一斉に散らばり始める。どうやら既に二人の居場所が判明し、マフィアが銃撃を加えてきたようだ。

 「まず外部から銃撃を加え、様子を伺う。しばらくして何もなければ突入して後始末をつける。 だな」

 彼はこの後マフィアの手先がどう行動するかを予測した。何故相手の動きを予想できるかはわからないが、その次にバクーニンは攻撃ヘリコプターの操縦席を調べ始める。

 「―――これしかない!」


 一方、外では銃撃を終えたマフィアの手先が相手の反応が無いことを確認し、格納庫への突入を始めようとしていた。 だがそのとき、いきなり格納庫の屋根が吹き飛ぶ。

 「おい! 誰だ!? 誰が商品を動かしている!?」

 吹き飛んだ屋根の穴から浮き上がる攻撃ヘリ。 操縦するのはバクーニンだ。

 「悪くないな。 こいつならマフィアどもを簡単に蹴散らせる。 スコット、武器は機関砲とロケット弾が使用できる」

 スコットはヘリの銃座席に乗っていた。しかし、本当にこんなことをしてもいいのだろうか? スコットは乗る前から反対していたが、バクーニンは「こうするしかない」と言い、聞かなかった。こうなると、もうやるしかない。

 「奴ら、まさか自分たちの商品に襲われるとは思っても無かっただろうな」

 拳銃やライフル程度では致命傷にはならない。時折ロケット砲を撃ってくる奴もいたが、使い慣れていない使用者から放たれる武器の回避は容易である。 スコットはしぶしぶ機関砲を使い、人に当てないよう、車のみを狙った。
66 マーシュ 2007/01/05 Fri 22:51:31 DXjf..D3Q.5iAv
―――――――――――第58話 『約束』 Promise

 「初めてにしてはうまいな、スコット」

 気がつけば、スコットはヘリの機関砲で全ての車を粉砕していた。

 「……それで、これからどうするんだい?」

 「マフィアの拠点を叩く」

 スコットはわが耳を疑った。軍用ヘリコプターを勝手に操縦し、それで暴れた挙句にはマフィアの中枢まで叩こうというのだ。正直、子供がやるようなこととは思えない。 まだ10代の子供がヘリを操縦していること自体普通ではないし、こうやってその平気で暴れ回るのもどうかしている。

 「奴らは俺立ち向かって撃ってきたんだぞ。 撃ち帰して当然だろう? 撃たなければ殺られる。基本中の基本だが?」

 バクーニンの今の台詞は、普通の子供から出る台詞ではない。これはある程度経験を積んだ軍人や、殺し屋とかが言う台詞だ。今までに何度か聞いたが、バクーニンは自分の過去に関して一切口にしない。

 「バクーニン。 とにかくヘリを下ろしてくれ! もうたくさんだ!」

 「…わかった」

 あまり町のほうに接近するとサン・プロエッタ空港のレーダーに引っかかってしまう為、低空のまま山の奥へ着陸する。

 「スコット。 どこへ行く?」

 「もうたくさんだ。 帰る」

 マフィアの手先を一掃したとはいえ、恐らく地元の警察が駆けつけてきているかもしれない。町に戻るのであれば、迂回して帰らないといけない。 バクーニンは手りゅう弾を取り出し、それでヘリを爆破処分した。

 「バクーニン! いい加減にしてくれ! アクション映画の主人公じゃないんだから、もうこんなデンジャラスなことに僕を巻き込まないでくれ!」

 滅多に怒らないスコットが怒っている。バクーニンは少し落ち着いて考えてみたが、彼にとって、自分のしたことは当然のことであった。ただ、それがスコットに理解してもらえないだけで。 だが、スコットが明らかに激怒している。今回は謝るべきだろう。

 「…………悪かった。 お前には1年前助けてもらった上、色々と世話になっているからな。 それで、今後はどうすればいい?」

 サン・サルバシオン山ふもとの林から迂回して市内を目指す二人。
 「約束して。 もう二度と、あんな真似はしないって」

 「……努力する」
67 マーシュ 2007/01/05 Fri 22:52:54 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第59話 『ラーズグリーズの帰還』  Retune of the Razgriz
―――――ユークトバニア大陸・ドレスデネ地方のどこか   Location:Doresdene

 奪取した敵基地からは面白い情報が発見されている。重要機密からどうでもいいくだらないお喋りの記録までよりどりみどりだ。 中でも興味深いのは「ラーズグリーズの悪魔」だ。ユークトバニア兵らは最新鋭潜水艦シンファクシを撃沈した「サンド島部隊」のことを「ラーズグリーズの悪魔」と呼んでいるらしい。

 「大佐、こちらにもラーズグリーズの記事が……」

 ステラが手に取っているのは重要書類だ。この内容によると、ユークトバニア北部にある「ラーズグリーズ氷海」から弾道弾を発射し、オーシア陸軍に大きな打撃を与えるというものだった。 そして、そのミサイルを発射するのがサンド島で出くわしたド級潜水艦シンファクシの2番艦「リムファクシ」であった。

 「おいおいまじかよ。 またあの化け物が出てくるってのか?」

 ステラは隣に居た陸軍のスコットにその書類を渡した。彼が軍司令部にそれを通達してくれるはずだ。 一同は更に基地の捜索を続ける。

 「ステラ、ここに何か書いてある」

 基地のラウンジには勲章と顔写真がある。どうやらこの人はユークトバニアのエースらしい。だが、ウォッカや勲章が捧げられているということは、この人物は恐らく戦死したのであろう。名前は “アレッサンドロ・ジョバンニ” 大佐。 名前からすると、ユークではなく「サピン王国」か「ラティオ共和国」の出身なのだろう。

 「 “俺たち501飛行隊は侵攻するオーシア艦隊への攻撃を命じられた。俺はいつもどおり、愛着の付いたターミネーターで出撃するはずだった。だが、くそったれのヴィンシスキーが急に最新鋭機に乗り換えろと命令してきた。ワイバーンという試作戦闘機の実践テストに俺を選びやがったんだ。作戦は明日だというのに……” 」

 彼の日記も此処にあった。スコットが撃墜したワイバーンのパイロットの日記が。

 「もしこの人がターミネーターで飛んでいたら、もしかして僕たちは負けていた?」

 「そうかもしれないね……」

 更に探索を続けると、また機密っぽい資料が。 これも潜水艦リムファクシに関する資料だ。重要な部分だけを取り出すと、そこには補給潜水艦とリムファクシのランデヴー時刻がはっきりと記入されていた。

 「あわてて逃げたとはいえ、もう少し落ち着いて撤退すればこんな重要な書類を置いていったりしないのにね。 何かもっと重要なことがあったのかしら?」

 確かに、こんな重要な情報を放置しているとなると、相当急いでいたのか、またはこれ以上に優先するべきことがあったのだろう。

 「もっと探してみよう。 もっと収穫があるかもしれない」
68 マーシュ 2007/01/12 Fri 21:47:48 DXjf..D3Q.5iAv
――――――――――第60話 『ゼロ・アワー』  Zero Hour
 ―――――ユークトバニア・ドゥガー地方  Location:Duga

 オーシア陸軍は進軍を開始した。このドゥガー地方を抜け、先にある「ジラーチ砂漠」を突破すれば、クルイーク要塞が敵国首都への最後のドアとなる。フットプリント作戦にて上陸した先遣隊と先日イーグルスが護衛した機甲部隊の勢いが続けば、それもさほど困難ではない。

 「こちらオーシア陸軍、ブラック・ナイト戦車大隊。 敵の反撃は殆ど無い!前進を続ける!」

 地上ではオーシア軍が圧倒的だ。空中のスコットたちが手を出すまでも無い。 また、リムファクシの攻撃を事前に予測し、部隊は少しだけ早く進軍を始めていた為、上陸地点であるバストーク半島に撃ち込まれた散弾ミサイルの被害を受けずに済んだ。

 「なあ、本当に大丈夫なのか? ここはそのレムファクシミリの攻撃範囲外なんだろうな? 司令部はそのことを承知で俺たちを前進させてるんだろ?」

 「イアン、レムファシクミリではない。 レムファクシだ」

 「いや、リモファクシだろ?」
 「いいえ、ニモファクシではありませんでしたか?」

 「ナイト・リーダーから全員へ。 正しいのはリムファクシだ。 ボケもいい加減にしとけよ?」

 また、そのリムファクシの対処はサンド島のウォードックが引き受けている。補給中を狙い、リムファクシをラーズグリーズ海峡で撃沈する作戦だ。今一番話題の彼らであれば、必ずその作戦を成功させてくれるであろう。以前遭遇したシンファクシを撃沈したのであれば、尚更である。

 「でも、ケイからのメールだと、アークバードはスパイによって使用不能にされたそうよ。補給物資に混入した爆弾が爆発したとか」と、ステラ。

 アークバードの支援は失われ、有利かと思われていたオーシアの形勢は平等に戻ってしまった。アークバードの支援があれば、この戦争をより早く終結させることができたのだが、相手にとってもアークバードは厄介な存在。あちらも必死でアークバードを封じたのであろう。

 「こちらナイト・リーダー。 航空機部隊へ、引き続き上空で待機し、敵航空機の襲来に備えてくれ。 地上は我々だけで十分だ」

 「イーグルス、了解したぜ。 今のところレーダーに反応はねぇ。心配するなよ」


 結局この日、イーグル中隊は敵長部隊を数対破壊したのみで、大きな仕事は無かった。道中リムファクシが弾道ミサイルで攻撃を仕掛けていたが、その直後攻撃を開始したサンド島部隊、ウォードッグの活躍によりリムファクシは撃滅。地上部隊の脅威は完全に取り除かれた。

 「第4戦車大隊は無事なのか? あっちのほうにミサイルが着弾したみたいだが」

 イーグル中隊は第1、第2戦車大隊の上空に居たのでリムファクシの長距離ミサイル攻撃を受けずに済んだが、ミサイルに狙われた地上部隊は進撃を断念し、体勢を立て直しているとのことだ。その部隊が次回の作戦に参加できないのは明白だろう。
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