ACE COMBAT ZERO NIGHTS OF ROUND TABLE Episode1
No.115
- 1 アドミラル・マーシュ 2006/07/01 Sat 00:53:11
- ACE COMBAT ZERO NIGHTS OF ROUND TABLE
”エースコンバット・ゼロ ナイツ・オブ・ラウンドテーブル”
こんばんは。
今回で3作目となる投稿です。今までどおり、「各種エースコンバットのサイドストーリー」を書いて行きます。
尚、この作品は「エースコンバット・ゼロ」の内容を大幅に暴露している為、ゼロをクリアしていない方には観覧を推奨できません。
よろしければ、前作”リザレクション・オブ・ラーズグリーズ”にも目を通していただけると幸いです。
2レス目から本編に入ります。 お暇潰しにどうぞ。
―――――”New blood、 New Battles”―――――
- 2 アドミラル・マーシュ 2006/07/01 Sat 00:56:22
- ―――――序奏 “Introductory chapter”
1991年、オーレリア共和国。
「<犯人はダイナマイトを所有し、橋の中央で人質を取っています。人数は8名、武器はファマス・ライフル及び拳銃多数です。>」
「…了解、現在目標の真下だ。部下も配置に着いた。」
オーレリア警察の特殊部隊のリーダー、ハンク・ライトは橋の下の連絡橋からテロリストグループの真下に到達。彼らは煙幕弾を投げると、鉄棒の逆上がりのように橋の表に上った。
煙幕により視界は遮られている。しかし、赤外線ゴーグルを装備した彼らには何の影響もない。ハンクのチームメンバーが次々とテロリストを拘束してゆく。しかし、テロのリーダーと人質が見当たらない。ハンクはすぐさまテロのリーダーを探して煙幕の領域を飛び出した。
「武器を捨てろ!もう逃げられないぞ!」
カスタマイズされたMP5サブ・マシンガンをテロリストリーダー向かって構えるハンク。
「動くな!動くとこの小娘の頭を吹き飛ばすぞ!」
相手は1人の少女の頭に大型のマグナム銃、デザート・イーグルを突きつけ、人質を捕らえている手にはダイナマイトの束が握られている。更に、奴の腰には大量のダイナマイトが括り付けられていた。もし手持ちのダイナマイトを爆発させれば、人質や自分達、それどころか橋を吹き飛ばすこともできるだろう。
「早く人質を放せ!」
ハンクのチームメンバーも追いつき、テロリスト向かってマシンガンを構える。
「……世界に国境があり限り、我々に自由はない!」
「いいから武器を捨てろ!」
「消し飛べ。」
ハンクは気が付くと、警察のパトロール・ボートに救助されていた。ブリッジは崩壊し、残った部分から煙が舞い上がっていた。彼は幸運にも爆発と同時に皮に投げ出されて命拾いしたが、任務を失敗した挙句、仲間まで失ってしまった。
数日後、彼は周囲の言葉を無視し、責任を取る為に警察を退職。家族の待つウスティオへと帰国していった。
―――4年後、ウスティオ共和国。
母、ジョアンナ・ライトは2人の息子にすぐ軍から除隊するように薦めた。かつての戦争で夫を亡くし、息子までも戦争で失いたくなかったのだろう。
1995年3月25日。
経済恐慌の中、極右政党が政権を獲得したベルカ公国。元ベルカ自治領ウスティオ共和国に眠る膨大な天然資源発見の報を機に、ついにベルカ公国は周辺国への侵攻作戦を開始。
『“ベルカ戦争”』の開幕である。
開戦から数日後、既にウスティオ陸軍はベルカ陸軍により壊滅し、ウスティオ政府は山岳地帯にある“ヴァレー空軍基地”への後退命令を下す。
だが、既に国境の防衛線は突破され、ウスティオ首都ディレクタスの完全占拠は時間の問題であった。
生き残ったウスティオ空軍・サークル飛行中隊に所属するハンク・ライトと、レオン・ライトはベルカ軍の侵攻と共にディレクタス空軍基地に召集され、ベルカ軍を迎撃する為に緊急発進して夜明けの空に舞い上がった。
- 3 アドミラル・マーシュ 2006/07/01 Sat 22:13:18
- ――――――第1話 『ディレクタス防衛線』 “Defense line Directas”
ディレクタス空港は慌しかった。少ない滑走路から軍用、民間機が絶えず離陸している。ハンク・ライト大尉のF−1戦闘機が格納庫から出ると、酷い損傷を負い主翼の片方を失った1機のF−15イーグル戦闘機が煙を吐きながら滑走路に降りてくる。
「誰か・・・聞こえるか!?・・・・緊急着陸する!・・・滑走路を空けてくれ!」
あの機体は傭兵部隊所属の機体だろう。その部隊は最近編成された部隊で、国境の防御を担当していた。彼の部隊は侵攻するベルカ陸軍の補給部隊の襲撃だったそうだが、敵の待ち伏せに会い殆どが撃墜された。そんな中、彼は何とか任務を成し遂げてここに帰還したのだろう。
「こちらディレクタス管制塔、サークル隊は直ちに発進し、ベルカ軍地上部隊を迎撃せよ!」
管制塔から離陸許可を貰うと、ハンクは出力を上げて滑走路から飛び立った。
「サークル2、離陸する!」
レオン・ライトのF−1もハンクの後に続く。
「続いてサークル3、サークル4も離陸、サークル5、6はタキシングを開始。敵が迫っているぞ!」
サークル中隊の隊長はアーウィング中佐だったが、先日の戦闘で撃墜されて以来行方不明である為、ハンクが臨時で指揮を執っている。彼らが戦闘空域に差し掛かると、空中管制機(AWACS)イーグル・アイから作戦指示が入った。
「聞こえるか?こちらイーグル・アイ、ベルカ陸軍がディレクタス空港に侵攻している。」
その先は聞かなくても分かる。
“ベルカの数は圧倒的であり、ウスティオの戦力で押し戻すのは不可能なので、撤退するまでの時間を稼ぐ。”と、いう内容だ。ここ数日ずっと同じ内容の作戦を繰り返してきたのだから、イヤでも覚えてしまった。
「前方にベルカのレオパルト戦車とマルダー装甲車だ。レオン、イーシャ、カイル、俺の後に続け。対地ロケットで蹴散らすぞ!」
だが、双子の兄弟であるレオンが異議を唱える。
「俺に命令するな!ハンク!」
ハンクと同じ階級なのに何故いつも俺だけ命令されるのか?いつもそれを不満に感じていたが、目の前の任務をおろそかにすることも出来ない。8機のF−1が順に降下し、ベルカの大規模な機甲部隊へと挑んでゆく。
ベルカ陸軍の大規模な機甲部隊の中から、白い煙と共に対空ミサイルが上がってくる。
「ローランド自走対空ミサイル車両だ!撃ってきたぞ!」
放たれたミサイルがゆるやかなループを描きながら飛来し、ウスティオのF−4ファントム戦闘機に直撃した。
「やられた!ジョーカー3脱出する!」
空中にいる彼らにとって、見晴らしのいい場所を堂々と進軍する地上部隊を狙うのはさほど難しいことではない。だが、そんな地上部隊攻撃を阻むかのように対空車両が弾幕を張っている。
「サークル3、サークル4。ベルカの対空車両を潰せ!気を抜くな!」
「了解。行くわよカイル!」
射撃位置についたリーシャ・モンゴメリー中尉とカイル・ガーランド中尉のF−1がロケット砲でベルカのローランド・ミサイルをなぎ払い、2人はヨーヨーのごとくベルカの地上部隊に舞い戻り、残りの対空ミサイルを駆逐してゆく。
「射程に入った!ロケット掃射開始!」
ハンクの乗るF−1の主翼下部に取り付けられた2機のロケット・ポッドから連続でロケット弾が放たれ、ベルカのレオパルト戦車に花火の雨を降らせる。だが、ベルカ陸軍は圧倒的な数に物を言わせて進撃を緩める気配が無い。
「AWACS、数が多すぎる!増援をよこしてくれ!」
「こちらAWACS、その近くに運河を渡る為の橋がある。橋を爆撃して敵の侵攻を妨害せよ」
ハンク達は橋にロケット弾を掃射するが、この程度の攻撃では橋を崩せない。このままではベルカ陸軍が運河を渡り、ディレクタスへ侵入してしまう。
「くそ、ロケット程度では橋を崩せない!どうするんだハンク!」
「俺に任せておけ」
突然、1機のF−15が姿を現した。両翼の先端から、白い線を引きながら橋に急降下して爆弾を投下した。
橋を崩され、足止めを受けたベルカ陸軍の機甲部隊を安全高度から眺めつつ、レオンはF−15のパイロットの正体を探ろうとして無線で問い合わせた。
「お前、何者だ?」
「・・・ああ、自己紹介がまだだったな、俺は“ラリー・フォルク”。傭兵だ。」
- 4 アドミラル・マーシュ 2006/07/02 Sun 22:20:12 aUlt..D3Q.EmbO
- ―――――第2話 『ベルカン・ナイツ』 “Ritter”
突然、ウスティオ空軍各機のコックピット内でミサイル警報が鳴り響く。一同の注意は遠方から飛来したベルカ軍の増援、7機のF-22ラプター戦闘機にそれた。F-22“ラプター”といえば、ステルス性、短距離離陸性能を備えた新型戦闘機。
「<リッター・ワンから各機へ、ウスティオ軍機を排除する。自由戦闘へ移行。>」
「<了解、目標を排除します>」
ベルカのF-22は同時に散開し、ミサイルを回避したハンクたちを取り囲むように接近してくる。それと程同時に空中管制機イーグル・アイから戦線離脱の命令が下った。
「こちらイーグル・アイ、会戦せず離脱せよ!包囲は280だ!」
ハンクはすぐさま寮機に離脱指示を下す。
「サークル隊へ、全速力で戦域を離脱するぞ!」
「サークル3了解したわ、アフターバーナー全開!」
「サークル4、了解です。離脱!」
残りの4機も速度を上げて撤退を開始する。だが、レオンのサークル2はまだ進路を変更していない。
「おいハンク、何故逃げる?奴らを叩き潰さないか?」
レオンは数ではこちらが勝っているので、物量戦術で交戦しようと主張する。確かに勝てなくも無さそうだが、必ず犠牲者が出るだろう。
「駄目だ、このままヴァレー基地へ退くんだ!」
すると敵のF-22がミサイルを放ち、ハンクの寮機を1機捕食した。
「被弾した!制御不能!」
カイル、イーシャは既にこの空域を離れて安全なエリアに入りつつある。だが、他の6機はいつの間にかベルカ軍機に追いつかれている。
「<リッター4、フォックス3>」
2度の爆音が響く。
「駄目だ!ぐあっ!」
「サークル7と8が撃墜された!逃げ切れない!」
その事態を報告したサークル5も通信が途絶え、数秒後に爆音が聞こえた。
機体の性能差とは思えないほどに圧倒的な力の差を見せ付けられている。瞬く間にサークル中隊の4機が葬られ、他のウスティオ軍機も次々と落とされてゆく。
「ピクシー、フォックス2」
ラリーがミサイルを放ったが、ベルか軍機はなれた手つきでミサイルを回避する。ピクシーの技術はずば抜けているが、4機の精鋭相手に苦戦している。
「何をモタモタしている!?早く逃げろ!」
内輪もめしているハンクとレオンの双子の兄弟の部隊を援護するラリーが、行動の遅い事にいらだちを表しているようだ。
ベルカのF-22が北からガンでハンクのF-1を狙い撃ってくる。ハンクは機体をキリキリと旋回させながら銃弾の射線から逃げた。
「奴らは手強い!今の俺たちでは勝てないぞ!」
「……くそ、引けばいいんだろ!」
しぶしぶ了承したレオンは、ハンク、ラリーと共に低空をするすると蛇のように飛び去り、更に途中で合流した味方の電子線気によるレーダー妨害の支援を受け、彼らは何とか無事にヴァレー空軍基地の帰路に付くことができた。
「・・・双子の兄弟ってのは、皆仲が悪いのか?」
ヴァレー空軍基地へ向かう途中でも、ハンクとレオンは言い争っていた。どちらが兄か。どちらが操縦の技量が上か。正直サークル隊メンバーにとっては日常茶飯事の出来事でもあるのだが、ピクシーには良い迷惑だった。
「そうね、この2人は外見がソックリで、声とネームタグが無いと区別できなくて困っているのよ」
イーシャはレオンと恋人関係にあるそうだが、彼女がレオンと間違えてハンクに花束を渡したという出来事もあった。また、カイルもレオンを間違って“隊長”と呼び、一時的混乱を生み出したこともある。
「見えてきたな、アレが“ヴァレー空軍基地”だ。 ……それで、誰から先に下りるんだ、サークル・リーダー。」
ピクシーがそう言うと、双子の痴話喧嘩が更に加速した。
- 5 アドミラル・マーシュ 2006/07/03 Mon 22:45:11 aUlt..D3Q.EmbO
- ―――――第3話 『凍空の猟犬』 “Glacial Skies”
ディレクタス陥落から数日後。サークル中隊と“片羽の妖精”ことピクシーはウスティオ空軍の最後の砦である“ヴァレー空軍基地”へと身を寄せていた。ウスティオ空軍は第6航空師団を除いて全滅し、その第6航空師団も壊滅的な被害を受けてしまう。ウスティオ政府は生き残った第6航空師団を外国人傭兵部隊と生き残った正規の部隊で再編成し、ベルカの進行に備えていた。
ヴァレー空軍基地は山岳地帯に囲まれ、1,2本の滑走路と小さい格納庫、そして管制塔があるだけの粗末な空港である。しかし、この基地は地形的に周囲から隔離されており、地上からの侵攻を受けることが殆ど無い。これにより、唯一ベルカ軍の手に落ちなかったウスティオの軍事基地である。
「全機上がったようだな。間もなくベルカの爆撃機部隊が見える。」
ベルカ軍はディレクタスを陥落させた勢いでここ、ヴァレー空軍基地を蹂躙するきだろう。
「レオン、ここでベイルアウトしても、救助は期待できないぞ?」
「るせえな、そんなこと言われなくても分かっている。」
ハンクとレオン。双子のライト兄弟の喧嘩を見て、イーシャは慣れた口調で口論を締めくくろうとする。
ハンク・レオン・イーシャのF−1がウスティオのF−5タイガーU戦闘機部隊の数キロ後方で三角形の編隊で飛行していると、更に後方から2機のF−15イーグル戦闘機が姿を現す。片方はウスティオの正式カラーである青い翼だが、もう片方のF−15は片方だけ赤い翼だ。
「アレが噂のガルム隊か。」
ガルム隊とは、つい最近編成された外国人傭兵による新規部隊だそうだ。青い奴は新人だそうだが、もう片方は片羽が赤く塗装されており、先日共闘したラリー・フォルクの機体であることが分かる。
「ハンク、これが終わったらポーカーの続きだ。買った方がおごる。いいな?」
「いいだろう、行くぞ!」
ハンクとレオンが加速し、上昇して散開。そのままベルカ爆撃機に向かって進んだ。
仲が悪くてもすぐに修復する。イーシャはそんなライト兄弟が大好きでお気に入りだった。勿論、他の者からの評判も上々である。しかし、この2人は外見が非常によく似ており、判別が非常に困難である。唯一違う場所といえば、声の違いぐらいだろう。
「来たな、ベルカのミグ21、フィッシュベッドが2機。正面だ!」
ハンクとレオンは正面からミサイルを放ってミグを退場させる。片方はミサイルが直撃し、パイロットが脱出したようだ。もう片方は煙を吐きながら引き返してゆくので、ハンクはそれを見逃した。だが、ハンクの騎士道精神に対し、レオンは煙を吐いて逃走するベルカのミグにミサイルで追い討ちを加える。
「・・・爆撃機は他に任せる。護衛から叩くぞ!」
「よし、やるぞ!・・・ラリー、俺達の分も残しておいてくれよ。」
だが、傭兵であるラリーに獲物を分けてくれと言っても、おこぼれは期待できなかった。
数分後、彼らサークル隊、ガルム隊を始めとするウスティオ空軍の活躍により、ヴァレー空軍基地への爆撃を阻止することに成功した。帰還したハンクがヴァレー空軍基地の野戦テントに入ると、本棚がいくつも並べられていた。
棚には“姫君の青い鳩”や週刊誌“エアー・ウスティオ”及び“ベルカン・パワー”が置かれている。カイル・ガーランド中尉がココアを飲みながら映画を見ていた。
「お疲れ様です、隊長。」
「ああ。カイル、機体の整備はどうなった?」
カイルの機体はディレクタスでの戦闘で損傷し、今は修理中である。だが、整備員の話ではヴァレー基地に修理に必要な部品が無く、新しい機体に乗り換えることを薦められている。
「大尉、聞きましたか?僕達ウスティオとオーシア連邦が軍事同盟を結び、ベルカに対して大規模な反撃をするようです。」
ベルカの侵攻を受けたウスティオ、オーシア、ザピン、ユークトバニアの各国は連合軍を結成し、ベルカ公国への反撃を開始した。恐らく数年後にはこの出来事が教科書にも載るだろう。
「それで、カイルの新しい機体はどうなるんだ?」
「ここの基地に4機だけF−15イーグルが残っているので、僕たちはそれを使うことになりそうです。」
優れた部分も多いが、F-1ではベルカ空軍に立て打ちするのは難しい。空戦能力が高いF-15の方が今後の為になるであろう。
近い内、オーシア第3艦隊がフトゥーロ運河を通過するので、連合軍航空部隊がそれを空から支援するという噂が基地内に広まっている。
- 6 アドミラル・マーシュ 2006/07/04 Tue 22:53:18 aUlt..D3Q.EmbO
- ―――――第4話 『絶対的な力』 “Juggernaut”
「レーダーに敵影!総員、第1種戦闘配置に着け!これは訓練ではないぞ!」
空母ケストレル司令官、ウィーカー艦長の率いるオーシア第3艦隊はベルカ軍の待ち受けるフトゥーロ運河に侵入を開始した。
ベルカのF/A-18戦闘攻撃機及びミラージュ戦闘機の放ったLASMと、オーシア艦隊の対空砲火が花火大会のような爆音を鳴り響かせている。
「もう始まっているようだな。味方艦隊の攻撃の巻き添えを食らわないように、ある程度距離をとって戦え。」
ガルム隊と共に171号線のベルカ軍を排除し、オーシア連邦との補給路を確保したサークル中隊は新たに“サム・レッドフィールド少尉”と“デイヴィッド・コネリー少尉”、そして“かイル・ガーランド中尉”を加えて戦力を増強。サークル中隊は戦闘エリア内に侵入し、オーシア艦隊の援護の任に就いた。
「サム、デイヴィット、俺について来い!」
レオンがいきなり新人の2人を連れて前に飛び出す。
「レオン!何所へ行く!?」
「運河出口に布陣するベルカ艦隊を叩く!」
ハンクが止める間もなくレオンは2人の乗ったF-1と共に先へと進んだ。レオンのしていること自体に間違いは無いのだが、勝手に寮機を連れて行かれたハンクの心境は複雑だった。
ハンク達の左前、11時の方向から5機のベルカ軍F-35戦闘攻撃機と長距離対艦ミサイルがオーシア艦隊向かって進んでいる。5発のミサイル内2発が命中し、駆逐艦シャフトが撃沈されたようだ。
それに対し、空母ケストレルの手前を航行するイージス巡洋艦バレンスとその他の護衛艦が対空ミサイルで反撃し、3機のF-35を排除する。
「ロックオン。サークル1、フォックス3!」
ハンクのXMAAがパイロンから切り離され、真っ直ぐとベルか軍機向かって飛翔した。しかし、相手も負けじと急旋回して回避したので、ハンクは更に距離を詰めてガンで追い討ちを加えて撃墜した。
ハンクはレオンと共に艦隊攻撃へ向かったサムとデイヴィッドの身が心配だった。しかし、あちらの戦域には話題の“ガルム隊”がいるので、彼らと共に居れば無事に戻ってくる可能性が飛躍的に上昇するのではないか?とは言え、そもそもの原因はレオンにあるのだが。
「隊長!狙われています!」
カイルの声で気が付くと、ハンクの後方にベルカのsu-27フランカーが存在し、既にロックオンされている。だが、ミサイルが発射される前に敵のフランカーは四散した。
「隊長、ちゃんと後方警戒してくださいよ」
敵機が落ちた理由はイーシャの援護だったようだ。一同は引き続き艦隊の護衛を続ける。
―――フトゥーロ運河、上流
「射程に入ったらすぐに発射し、離脱するぞ!」
「了解」
「分かりました」
、サム、デイヴィッドは低空からベルカ艦隊に接近する。敵艦隊上空ではウスティオ空軍を含む連合軍が奮戦し、海上の艦隊から凄まじい対空砲火が吹き上がっていた。
「サークル5、フォックス3!」
「サークル6、発射!」
サムとデイヴィッドが2発ずつLASMを発射し、すぐさま旋回して相手の反撃に備える。だが予想外の事態に陥ってしまった。ベルカのMIG-29“フルクラム”に後をつけられ、低速で旋回している絶好の攻撃チャンスを与えてしまったのだ。
「出力を上げろ!敵に捕まるな!」
レオンは上昇し、新人の2人もそれに続く。だが、ベルカのミグもしつこく彼らにしがみ付いてくる。
F-1に乗るサムが諦めかけた瞬間、彼の真正面から1機のF-15が姿を現す。
サムが後ろを振り返ると、ベルカのミグは爆発し、ウスティオ正式カラーである青い翼のF-15が優雅に飛び去っていった。
「また出てきたな・・・ガルム隊所属の傭兵、“サイファー”だ。」
サイファーとピクシーの“ガルム隊”はベルカ艦隊の対空砲火を潜り抜け、次々と敵艦を沈めてゆく。
更に空母ケストレル所属の対艦攻撃部隊が到着し、ガルム隊と共にベルカ艦隊の攻撃を始めた。数分後に敵艦隊は壊滅し、オーシア第3艦隊はフトゥーロ運河を通過した。これでウスティオ首都“ディレクタス”解放の準備が整ったわけだ。
- 7 アドミラル・マーシュ 2006/07/05 Wed 22:08:26 aUlt..D3Q.EmbO
- ―――――第5話 『ディレクタス解放』 “Diapason”
連合軍地上部隊はフトゥーロ運河から上陸し、ディレクタス向けて進撃を開始した。作戦は順調で、明日にはディレクタス郊外に到達するようだ。
ヴァレー空軍基地の駐機場の四隅にハンクとレオンの姿があった。かすかな淡雪が降り、心地よい冷たさの風が吹いている。
「お袋は元気にしているだろうか・・・」
ジャケットのポケットに手を突っ込みながらレオンが空を見上げている。ハンクも木箱に座りながら何かを考え込んでいた。
「誰の写真だ、ハンク?」
レオンは覗き込むかのようにハンクの写真に視線を向けた。写真には1人の少女が写っている。
「・・・古い友達だ。俺は警察官として、“オーレリア”という国に住んでいた時に出会った。」
写真の少女は見た目はせいぜい15歳ぐらいだが、童顔なだけで実は当時のハンクと同じく18歳だったそうだ。つまり、これは4年前の写真。
「それで、今この娘はどうしている?」
「…………テロで死んだ。」
ハンクとレオンにとって、次の作戦を必ず成功させなくてはならない理由がある。ディレクタスには2人の母である“ジョアンナ・ライト”が2人の帰りを待っているからだ。
すると、1台の軍用ジープ“ハンヴィー”が2人の近くで止まった。
「お、ディレクタスの双子パイロットじゃねえか。」
「こんな四隅で何しているんだ?」
ハンクとレオンは運転席の陽気な男と、助手席にいる体格の良い男の名前は知らなかったが、見覚えはある。彼らは第4飛行隊、“クロウ隊”のメンバーだったはずだ。
「まあいい、俺たちはこれから基地の食堂でハンバーガーを食べるが、お前らはどうだ?」
ハンクとレオンも正直空腹だったので、彼らのハンヴィーに乗り込み、基地まで乗せてもらった。
―――翌日。 ウスティオ首都、ディレクタス。
機甲部隊を含むまだ多くのベルカ軍がディレクタスに駐留し、レジスタンス及び連合軍長部隊と激しい戦闘を繰り広げている。その中には対空火器等も含まれていた。
「全機に告ぐ、攻撃の再は市街地にも注意しろ、間違っても街中には落ちるなよ!」
ハンクは同時に建造物の陰から突然、地対空ミサイルを搭載した車両や歩兵の攻撃に注意するように寮機に警告しておいた。
「ハンク、間違っても家には墜落するなよ。」
「お前こそミサイルや銃弾を町にばら撒くなよ」
一方、ディレクタス市街地では数少ないウスティオ陸軍の生き残りである“第8歩兵小隊”も参戦していた。彼らの任務はディレクタスを占領するベルカ軍司令官の身柄の確保であったのだが、彼らの接近を感知した軍司令官はヘリで逃亡しようとしていた。
「大尉!マルダーが邪魔で先に進めません!」
第8歩兵小隊、通称“黒豚”(ブラック・ポーク)隊の指揮官、“アンドリュー・スミス”大尉は煙幕弾を使って敵装甲車両の視界を奪うと同時に部隊を目標の建物へ侵入させる。
「くそ。もぬけの殻か。」
目標の建物に侵入したが、誰も居ない。スミス大尉が窓から外を見ると、1機のヘリコプターがディレクタスから逃げるように飛び去ってゆく。あのヘリコプターに捕らえるべき敵指揮官が乗っていたのだろう。
スミスはすぐさまレーザー誘導装置をヘリ向かって構える。これを使ってあのヘリを補則すれば、あとは航空機が後始末を付けてくれるはずだ。
「よお相棒、今日はやたらと稼いでいるな。今落としたヘリには敵の司令官が乗っていたようだ。」
サイファーとピクシーもこの作戦に参加していた。彼らガルム隊にとって敵を倒すことが仕事であり、任務である。そんな時、管制機イーグル・アイから敵増援部隊接近の通達があった。
「……ここは俺たちで相手しよう」
現在サークル隊、ドミノ隊は敵地上部隊の相手で忙しい。敵も2機編成の部隊らしいので、ピクシーはガルム隊だけでも十分対処できると判断していた。
やがて、ガルムと敵部隊の距離が縮まる。相手はSu-37“ターミネーター”に乗る“オベルト・イエーガー少佐”と“ライナー・アルトマン中尉”の2機で編成された“ゲルプ隊。”
- 8 アドミラル・マーシュ 2006/07/07 Fri 21:35:45 aUlt..D3Q.EmbO
- ――――――第6話 『葬送曲』 “Funereal tune”
「<ゲルプ2、被弾した!>」
「<ベイルアウトしろ!命令だ!>」
ガルム隊が敵の増援としてやってきたベルカのエース、ゲルプ隊の2番機を撃墜する。そして、サイファーとピクシーの連携でもう片方のゲルプもディレクタスの空から退場させた。撃墜されたゲルプ1の残骸がディレクタスの郊外に墜ちて行く・・・
制空権は確保され、ディレクタスは解放された。だが、ハンクとレオン。ライト兄弟は頭の中が真っ白だった。撃墜されたゲルプ隊所属機の残骸が我が家を消し去っていたのだ。
「母さん・・・」
家の残骸からは壊れたオルゴールから歪んだメロディーが流れていた。家の殆どが焼失し、何も残っていない。これが戦争だと言うのか?罪のない民間人までも巻き込む戦いが戦争だと言うのか?
「・・・これが戦争だと言うなら、それを変えるまでだ!」
レオンはそう言い放つと、壊れたオルゴールを回収して家の残骸前を後にした。
―――ディレクタス市街地
「お、レオンじゃねえか。」
様々な後始末を終えたハンクが小さな軽食店“レダ”に入ると、中には先日ヴァレー空軍基地で出会った、クロウ隊の2人のパイロットと知らないパイロットが1人居た。
「・・・俺はハンクだ。ところで、坊主もパイロットか?」
「いや、“PJ”と呼んでください、大尉。」
彼の名は“パトリック・ジェームズ・ベケット”。ウスティオ空軍第4飛行小隊の“クロウ隊”3番機のパイロットである。
彼は高校卒業後にオーシア大陸をバイクで旅をしていた際、とある国で英雄と称えられるエースに出会った事をきっかけにパイロットへの道を選んだらしい。彼は養成学校をきわめて優秀な成績で卒業し、現在ではクロウ隊の3番機としてF-16ファイティング・ファルコンを愛機として操っているようだ。
「ところでPJ、あの娘とはどうなったんだ?」
彼の隣に座っていたクロウ隊の2番機、“テイラー・デイヴィス”がビールを飲みながらPJをからかうかのように(実際からかっているのだが)ガールフレンドのことを聞き出そうとした。PJとそのガールフレンドは付き合い始めてからそれなりの時間が経っており、そろそろプロポーズしても良いのではないか?とクロウ隊内部でもめているようだ。
「ところでハンク、顔が暗いようだが、何かあったのか?」
クロウ隊の1番機である、“ウェルチ・マクナイト”が野菜サラダを食べながらハンクに問うが、ハンクは何も打ち明けなかった。打ち明けたところでどうしようもないし、彼らに迷惑だろう。
「別に何もない。何か食べるか・・・」
ハンクはテーブル脇にあるメニューをとり、何を食べようかと考えようとした。しかし、何かおかしい。メニューを見てみると、ビール、オレンジジュース、コーラ、レモネード、ココア、コーヒー、クリームソーダ、フルーツポンチ、アイスクリーム、パフェ・・・そして表にはビーフステーキ(ベルカ、エルジア、オーシア、オーレリア産)、ハンバーガー、ビーフパイ・・・何だか牛肉に片寄りつつあるのは気のせいだろうか?そもそも此処は”コーヒー・軽食“の店ではなかったのか?
「うふてぃおふまれなのいひらないのこ?このあはりひいんひょくへんはなひかなな、ひゆうひょくとやひよくもへいひょうするようひもなっはんはせ?」
(※訳)(“ウスティオ生まれなのに知らないのか?この辺りに飲食店は此処しかないから昼食や夕食でも営業するようになったんだぜ?”)
テイラーがビーフバーガーをむしゃむしゃ食べながらハンクに説明したが、殆ど聞き取れないので長年の相棒であるウェルチが翻訳した。ウスティオといえば元は遊牧地で、牛産業に関しても世界トップレベルだったそうだ。ウスティオ産の牛肉はとても美味しいという。
軽食店レダの窓越しに、オーシアのエイブラムズ戦車が大勢の歩兵を乗せながら町の中央へと向かっていくのが見えた。その後ろから軍用ジープハンヴィーやブラッドレイ装甲車が後に続く。陸軍は準備が出来次第、“ヘイムガルド平原”のベルカ陸軍基地の攻略に向かうそうだ。
解放されたディレクタスの教会では、今も“自由の鐘”が鳴っている。
- 9 アドミラル・マーシュ 2006/07/07 Fri 21:39:53 aUlt..D3Q.EmbO
- ―――――第7話 『暁の戦場』 “Battlefield of daybreak”
夜明けと共に、オーシア、ユークトバニア、ウスティオ、ザピンの連合戦車部隊はベルカ軍の拠点“ヘイムガルド平原”にある陸軍基地への攻撃を開始した。連合軍の戦力はオーシア陸軍の車両が80両、ユークトバニア軍が40両、ウスティオが20両、ザピンが60両。計200を越える大規模な地上部隊と、オーシア軍航空機54機とウスティオ軍機が12機。ザピンが28機の航空部隊である。
「ザイオン1から全部隊へ、前方にベルカ軍の歓迎委員会のお出ましだ」
「ブラック・ナイト、正面から攻撃する。前車続け!」
「ウェルテス・リーダー了解した、左方から攻撃する!」
「こちらランザ・リーダー右方から行くぞ!」
オーシア軍の地上部隊はエイブラムズ戦車とブラッドレイ装甲車を中心とした編成で、それらと行動を共にしているウスティオ軍はオーシア軍と比較するとかなり貧弱である。20両の内、チャレンジャー戦車が4両、ウォーリア戦闘装甲車が4両、残りは機関銃や小型グレネード・ランチャーで武装したハンヴィーのみである。
「大佐ぁ!撃たれています!大砲で狙い撃ちされています!」
ベルカ陸軍は正面から攻めるオーシア・ウスティオ軍向かって主力戦車部隊で応戦してきた。更にその後方では、ロケット砲や大砲が視界外から連合軍部隊を狙っている。戦車砲による砲弾が地面を砕き、各種機銃の銃弾が飛び交っている。すると、先頭を走行していたオーシアのエイブラムズ戦車が敵砲弾の直撃を受けて爆発した。
「リュンクス1から各車へ、攻撃を開始せよ!」
「ブラック・ナイトから全車両!撃ち返すぞ!」
太鼓のような音を立てて一斉に戦車砲で反撃する混成部隊。しかし、敵戦車の方が性能が良く、明らかにこちらが劣勢な為にオーシア陸軍第2戦車大隊の指揮官、“ジェリコ・リンカーン大佐”はすぐさま航空支援を要請した。
「ナイト1から航空機部隊!援護を要請する!敵後方の支援部隊を叩いてくれ!」
「おい、出番だぜ、ハンク。」
ハンク、レオン、サム、デイヴィッドのサークル中隊が連合軍地上部隊の真上に差し掛かかった。イーシャとカイルはガルム隊と共に“ハードリアン要塞”の攻略に出向いており、今回は不在である。敵は物凄い数だが、こちらの数も相当であるので、戦力的不安は殆ど無い。
「右に展開したザピン軍と左に展開したユーク軍による包囲網完成までオーシアの連中を援護してやらんといかんみたいやな。」
サークル隊5番機のサムはそう言うと、上昇して急降下爆撃に備えて高度を上げる。
「こちらダルメシアン!上空の味方機へ!構わんから全弾ここに落としてくれ!」
味方の要望にこたえるため、サークル中隊は敵戦車部隊と平行になるように再接近する。サム、デイヴィッドが爆弾を投下し、破壊し損ねた戦車部隊をハンクとレオンがガンで掃除して行く。
「よし、道が開けたぞ!前進!」
オーシア、ウスティオの混成部隊は陣形を立て直して再び前進を始める。そろそろユーク、ザピンの部隊が両脇からベルカ軍の基地に攻撃を始める頃だ。先頭のエイブラムズ戦車に乗るブライアン軍曹はこちらにどの位の戦力が残されているのかを確認する為、戦車のハッチを開けて後方を振り向いた時、見慣れぬ軍団が接近してくる。
「なんや?後ろから来ているのはオーシアの支援部隊か?」
サムはそう言うが、自走榴弾砲車両がこんな近くまでやって来るはずが無い。ハンクはすぐにIFF(敵味方識別装置)に目を向けた。
「まずい!あれはベルカ軍だ!ブラック・ナイト、聞こえるか!?背後にベルカの大軍だ!」
「こちらブラック・ナイト、変な冗談はやめてくれ。左方はユーク、右方はザピンが担当している。回り込む余地は・・・」
すると、リンカーン大佐の背後のにたウスティオのハンヴィーが爆発で宙を舞った。それを見たリンカーンはすぐさま前進を中止し、全部隊に反転命令を下した。
「こちらブラック・ナイト。繰り返す、こちらナイト・リーダー。レトリーバー聞こえるか?」
数キロ後方に居た支援部隊に連絡を試みるリンカーン大佐。しかし、応答が無い。おそらく今現れたベルカ軍にやられてしまったのだろう。
「ブライアン!第3中隊を連れて右に展開しろ!レオナルドは第4中隊を率いて左に行け!残りは正面だ! 上空の味方機へ、援護を頼む!」
オーシアの戦車部隊の少し真上を味方のアパッチ戦闘ヘリが5機通過した。味アパッチが対戦車ミサイルを放ちながらベルカ軍戦車部隊に向かって行く。最初の攻撃で地上部隊は大きな被害を受けつつも、リンカーンの迅速な指揮で素早くたて直り反撃を開始した。
「今・・・流れ星が見えた・・・・・?」
突然、サークル6のデイヴィッドはこんな朝方に流れ星を見たと言う。疲労が溜まっているのだろうか?
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