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「隠す者」〜from hel with love〜 Vol.1

No.114
1 HIROKI 2006/06/28 Wed 23:20:25
はい、ちょっと血迷っているHIROKIです。
今回はちょっと長い作品ができちゃいました。
この作品はスナイパー氏の『スカイウィングス』の外伝っぽい、というか同じ世界観でのお話と受け取ってください。

で、今回の作品のテーマは、
『ソーディウス基地で大規模な窃盗事件が発生!』
・・・うん、発想から血迷ってるね。空戦一度も無いもん。
でも、こういう作品で、戦いだけがエースのやる事じゃないって事が伝わればいいなぁと思います。

●世界設定
・ソーディウス基地
 オーシア第157飛行隊のホームベース。物語の舞台。

・みぃとろ
 少佐。オーシア空軍のトップエース。15年前のベルカ戦争を戦い抜いた男でもある。
 卓越した飛行技術と戦場、才能を見通す目を持つ。

・あいすまん
 大尉。同じくオーシア空軍のトップエース。
 みぃとろと共にベルカ戦争を戦い抜いた男であり、親友である。

・heric
 まだ若いパイロットだが、操縦センスにはすばらしいものがある。
 基地で数少ない常識人。そのため、苦労と突っ込み役を引き受ける事になる。

・HIROKI
 hericとほぼ同期の若手パイロット。格闘戦のセンスはピカイチ。地上でも。
 自分用の拳銃としてマテバを愛用しており、なぜかオートマチックの銃を嫌っている。

・↑松
 初老の基地料理長で、雑貨品やその他の取引もやっている。
 おそらく、ソーディウス基地で最強の男。あと、厨房の情報網は凄い。

・レスター君
 犬。

・憲兵
 出番無し。

――――――オーガスト・ホーレンスタイン
 スイスのライフル選手。

――――――マルクス=トゥルリウス-キケロ(前106〜前43)
 ローマの政治家、雄弁家、文人。「国父」の称号を持つ。

――――――アルトゥール ショーペンハウアー(1788〜1860)
 ドイツの哲学者。厭世哲学を主張。

――――――オスカー・ワイルド(1854〜1900)
 アイルランド(ダブリン)生まれの英国の劇作家・小説家。

――――――ロマン・ロラン(1866〜1944)
 フランスの作家、思想家。ノーベル賞受賞者。

――――――ジョージ・バーナード・ショウ(1856〜1950)
 イギリス近代演劇の確立者。社会主義者でもある。
2 HIROKI 2006/06/28 Wed 23:20:46
『ある人が実際にどんな人であるかを知りたければ、
 その人がお金をなくした時にどう振舞うかに注目するがよい。』
――――――ニューイングランドの諺

−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜from hel with love〜(1)
【 2010年、1月8日、朝 】
オーシア、ソーディウス基地。

(眠い。もうだいぶ寝てるような気もするが・・・)
 まどろみから醒めつつある意識の中で、彼はそう考えた。
 士官用宿舎のあまり柔らかくないベッドのなかで寝返りを打つ。
(まだ頭が重い・・・寝すぎたか・・・?)
 まだ目覚ましは鳴っていない。という事はもう少し眠れる。
 彼は意識を、再びヒュプノスの揺り篭にゆだねた。

 ・
 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・・あれ?
 おかしいな。そろそろ鳴ってもいいころだ。カーテンの外はだいぶ明るくなってるし、何より熟睡によって意識がはっきりして来た。
 ある可能性に気付く。嫌な予感がする。いや、怖くなってきた。
「まさか・・・」
 恐る恐るベッド脇の時計を見る。針は8時55分を回ったところだった。

「・・・」
 放心してたのは数瞬。一気に跳ね起き、着替える。
 いつもの軍服。だが、なにか違和感がある。
 何かわからないが重要な事のような気がする。腕時計に目をやる。時刻はすでに9時を回っている。
「急がないと」
 だが、そこである事に気付く。もしかして・・・
 カレンダーに目を向ける。1月8日、今日は休みだ。

「・・・・・・・・」
 今度の放心は数秒間続いた。
 そうだった。今日は休みだった。
 12月に行われた陸海空合同演習が予想外に長引き、正月休みが無くなってしまったために兵士の間で不満が続出。結局、基地指令は1月8日〜1月15日の一週間を休暇に当てる判断をしたのだった。
「やれやれ・・・」
 軍服の襟に手をかける。私服に着替えなおすためだ。今日1日は読書にでも使おう。
 もちろん、全ての兵員が休暇を取るわけではない。段階的に各部隊に休暇を割り振るため、まだ基地内で仕事中の仲間もいるはずだ。そう思うと私服でくつろぐのは失礼な気がする。やはり、軍服に着替えて基地内をぶらぶらしよう。なにより、着替えるのもめんどくさい。
 襟から手を下ろし、鏡を見る。鏡の中から1人の若い士官がこちらを見返している。

 ・・・?

 まだだ。まだ、何か違和感がある。
 襟にもういちど手をかける。そして、重大な事に気付いた。
「ウィングバッジが・・・無い」
 彼―――hericの顔から急速に血の気が引いた。

【 2010年、1月8日、9:20AM 】

 まいったな・・・。
 パイロットの象徴とも言えるウィングバッジを無くすなんて前代未聞の事だ。
 フライトジャケットを羽織り、部屋を飛び出す。
 なんとしてでも見つけなければ、かなり大恥をかくことになる。

「昨日行った場所は・・・」
 昨日の行動を思い出そうとする。確か、昨日の午前中は射撃の練習をやってたはずだ。
 とりあえず、射撃練習場へ行こう。

 掲示板のあるT字路に着く。射撃練習場は右だ。
 掲示板の前に誰かがいる。

「みぃとろ少佐?」
「ん?ああ、hericおはよう。何か用か?」
 掲示板を眺めていたのはみぃとろ少佐だった。
「いえ、特に。少佐こそ何かあったんですか」
 少佐の陰になっている掲示板を指差しながら聞く。
「いや・・・少し探し物をしているだけだ」
 やや迷いながらみぃとろが口を開く。

「何をなくされたんですか?何なら手伝いますけど・・・」
「いや、大丈夫だ。一人で十分見つけられる」
「はぁ・・・」

 結局、みぃとろ少佐に敬礼し、射撃練習場に向かった。
 バッジを探すのを手伝ってもらおうかとも思ったが、少佐自身も探し物をしているらしいので頼むわけにもいかない。

 それにしても、少佐の探し物ってなんだろう?聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
 気にしつつも、足は速歩きで射撃練習場に向かう。


 みぃとろは一人で掲示板の張り紙を見ていた。
 hericは気付かなかったが、掲示板には『基地内で盗難が流行っています。不審な人物に注意してください』という張り紙があり、みぃとろはそれをずっと見ていたのだ。
「憲兵から捜査官が2人到着したんだっけ?早く解決すると良いなぁ・・・」
 ぼんやりと、みぃとろはそんな事をつぶやいた。

 やがて、みぃとろは憲兵の詰め所の足を向けた。紛失物が届けられていないか確認するために。
 探し物は、他人から見ればなんでもないものだが、みぃとろにとっては命と同じくらい重たいモノだったから・・・。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
3 HIROKI 2006/06/28 Wed 23:35:09
『射撃とは、指を動かそうという誘惑に耐える競技だ。』
――――――オーガスト・ホーレンスタイン


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(2)

【 2010年、1月8日、10:00AM 】

 射撃練習場には先客がいた。
「おっはよーheric。朝から射撃練習?」
 HIROKIだ。いつもと違って、今日の笑顔には悪童っぽさがない。屈託の無い笑みだ。
 銃の整備と試射をしていたようで、少年のようにゴーグルの奥の目を輝かせながら、銃を組み立てている。
 かなり大きなダンボール箱がそばに置いてある。
「いいえ。少し無くし物をしてしまって・・・」

 HIROKIになら言ってもいいだろう。そう思ってウィングバッジの事を話そうとした。が、こちらが続けるより早くHIROKIが切り返した。
「hericもか・・・。実は俺も・・・」
 そういいながら組み上がった銃を持ち上げ、フル装填されたマガジンを銃に叩きこむ。
 ・・・マガジン?
「・・・大事なモン盗まれて・・・」
 30ヤード先の目標に向け、銃を構える。動きも構えも無駄が無い。
「・・・キレ気味なんだ♪」
 口元は確かに笑みを形作っているが、目がすさまじい殺気を放っている。
「俺のマテバ盗んだヤツぁどこだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 叫びと共に、M9ドルフィン――オーシア空軍の正式拳銃にしてHIROKIの大嫌いなオートマチック拳銃――が火を噴いた。弾奏の弾を使い切るまで、何発も、何発も・・・・・。
「グロスブラックに仕上げたばっかりだったのにぃぃっ!!!」
 空薬莢が小気味いい音を立てて地面に落ちる。フルオートはできないモデルのはずなのに、もう全弾撃ち尽くした。
 空になったマガジンをリロード。よく見るとダンボール箱の中には、装填済みのマガジンがどっさり入っている。

「ハラワタをブチ撒けろぉぉぉぉぉっ!!!!」
 何があったんだろう・・・?
 聞きたかったが、今話しかけるとヤバイ事になりそうな気がして、hericは立ち尽くしていた。


―――30分後
「・・・フフフフ・・・・・・」
 不気味な笑い声をあげながら、HIROKIは銃を下ろした。
 辺りには大量の薬莢とマガジンが転がり、足の踏み場がない。何発撃ったのか分からないが、硝煙のせいで息さえ苦しい。
 的であるマンシルエットターゲットの下半身は千切れ、無くなっていた。上半身も、穴だらけにされている。
「フフ・・・フハハ・・・」
 ゴーグルの奥の目には光が宿っていない。ただ笑顔で哂い続けている。

 生まれてこのかた、ここまで人に声をかけにくくなった事はない。いつの間にか、他の射撃練習をしていた人もどこかに逃げてしまった。
「えーと・・・HIROKI、大丈夫ですか?」
 そういえば誰かが、『空で敵に回してはいけないのは天候と鳥だが、地上の場合はHIROKIと↑松だ。』というジョークを言っていたな・・・。
 とりあえず、言ってから思い出しても遅い。
「ん・・・はっ!俺はいったい何を!」
「何をじゃないでしょ・・・」
 よかった・・・撃ち尽くして少し正気になったらしい。
「あ、おはよーheric。いや、10時半からはこんにちわだっけ?」
「いや、んなこと聞かれましても・・・」
「まぁいいや。それにしても銃って不思議だよね。撃ち続けてると意識がトリップしてくる」
 絶対HIROKIだけだと思う。いや、思いたい。

「ああ、そうだった。何か無くし物の話してたんだっけ」
「ええ、ウィングバッジを見ませんでしたか」
「見て無いよ。・・・って、んなモン無くしたの?」
 HIROKIの顔にあの悪童っぽい活力が蘇ってきた。黙ってればモテるんだろうけどな、この人。
「恥ずかしい話ですけどね・・・。心当たりはありませんか?」
 HIROKIは首を横に振る。そして、
「ああ、まだ終わってねーから・・・まだ撃ち足りない・・・」
 再び両眼が嫌な雰囲気を帯びる。
 HIROKIはおもむろに、ダンボール箱の中に入っていたマシンガン(200発弾奏を装填済みのミニミ)を持ち上げた。
 ちなみにHIROKIの足元には弾薬が一箱用意されている。・・・気付かなかった。

「アハハハハハハッ♪ 人(型ターゲット)がゴミのようだ!」
 今度は、先ほどと比べ物にならない轟音が鳴り響いた。
 ・・・黙ってても行動に問題があるな。この人。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
4 HIROKI 2006/06/29 Thu 22:53:13
『賢明な思考よりも、慎重な行動が重要である』
――――――マルクス=トゥルリウス-キケロ


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(3)

【 2010年、1月8日、11:30AM 】

 第一食堂。昼前なのでまだ混んでいない。混雑の前の静けさというやつだろう。
 あの後、苦労して薬莢を片付け、銃をHIROKIの部屋に直した。そのおかげでかなり空腹だ。そういえば朝食も食べてない。
 ・・・私室で銃の所持は禁止されてたような気が・・・まぁいいか。
 とりあえず、Bランチを頼んで外が一番よく見えるテーブルに座った。

「・・・・で、hericはウィングバッジを、俺はマテバを無くたわけか」
 ようやく正気に(こんどこそ多分)もどったHIROKIが口を開いた。↑松シェフ特製ユークトバニアンコーヒーに角砂糖を三個いれてかき混ぜている。
「・・・hericって意外と間抜けなんだね」
 うあ・・・HIROKIに言われた・・・。これは反撃しないわけにいかない。
「れも、HIROKIさんらってけんゆうぬふまれてるじゃないれふか」
(でも、HIROKIさんだって拳銃盗まれてるじゃないですか)
 いかん。食いながら喋ったから本当に間抜けな口調になった。急いで飲み下す。
「んぐ。愛銃盗まれるガンマニアなんて、前代未聞ですよ」
「う・・・」
 HIROKIの頬を一筋の汗が流れる。ガンマニアの誇りでもあるのかな?
「まぁ、その・・・なんだ。とにかく見つけないとヤバく無いか?」
「そうですね。早く見つけないと・・・」
 恥ずかしい醜態が広まってしまう。HIROKIに話した時点で手遅れになったような気もしないでもないが。

「なー。そんな事より」
「なんですか?」
 ガンマニアな悪童が問いかけてきた。今度はちゃんと口の中の物を飲み込んでから答える。
「なんでhericだけご飯食べてるの?」
 HIROKIのマグカップは空だ。不機嫌な猫のような目でこっちを見てくる。
「HIROKIさんは何も頼まなかったじゃないですか」
「あの時放心状態だったじゃんか。気を利かして二人前頼んでくれたかと思ったのに」
 それはHIROKIが悪いような気がする。
「良いですけで一食分貸しですよ」
「弾薬買い込んだせいでお金ないんだもん・・・。↑松さーん、コーヒーおかわりー」
 厨房のヌシにして、おそらく弾薬を売ったであろう本人は笑顔で言った。
「自分で注ぎに来たら、料金2割引で良いぞ」
 HIROKIは自分でポットまで歩いていく。

 それにしても、ウィングバッジはどこに行ったんだろう?
 そんな事を考えていると、HIROKIがいきなり立ち上がった。
「よし、ソーディウス基地盗難多発事件対策本部!緊急結成!」
 テーブルの上のマグカップがぐらつく。ソーサーの脇には角砂糖の紙が5,6枚落ちている。
「・・・捜査『本部』? 一人でですか?」
「いや、二人!」
 僕は編入済みらしい。
「なんでまた・・・」
「だって面白そうでしょ。ボーナスの査定にプラスされるかもしれないし」
 僕が聞きたいのは、なぜ僕が編入済みなのかなのだが・・・。
「だいたい、多発っていても二件だけじゃないですか」
 そこで↑松が口を開く。
「今盗難が流行ってるらしいぞ。昨日の時点で届出は12件だそうだ」
 何で知ってるんだろう?厨房って情報部の秘密基地か何かなんだろうか。

 かくして、たった二人の捜査本部が発足した。だが、あんな結末になるとは、僕も悪童も(もちろん厨房のヌシも)予想していなかった。
 僕とHIROKIは厨房に向かってくる人だかりを避け、基地内の調査に向かう。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
5 HIROKI 2006/06/29 Thu 22:54:15
『推理する能力を持っている人はたくさんいるが、
 判断する能力を持っている人は少ししかいない。』
――――――アルトゥール ショーペンハウアー


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(4)

【 2010年、1月8日、12:30 】
 ソーディウス基地、射撃演習場。

「意外と何も見つからないもんだね」
 そういいながら、HIROKIは銃器整備用のツールボックスをひっくり返している。
 ・・・一応片付けてくれるんだよね?
「ええ、昨日立ち寄った場所で一番長くいたのはここなんですが」
 hericはそう言うと椅子の下を覗きこんだ

 あの後、互いに昨日行った場所を巡って手がかりを探す事にしたのだ。
 だが、いまいち何を探せばいいのかわからないような状況だ。
「そもそも、何を探せばいいのかがよく分かりませんよね」
「血痕とか・・・?犯人の」
「あるわけないでしょ。殺人事件じゃないんだから」
 あったら怖い。本格的に憲兵の捜査が必要になる。
「でもミステリーが終わる兆しって探偵が血痕を見つけた時じゃん」
 迷探偵HIROKIの名言。的を得ているが、射てはいないような気がする。
「それ、今の状況には不適切ですよ。・・・どうかしたんですか?」
 顔をあげると、HIROKIが一本のスパナを手に考え込んでいた。
「ねぇ、この傷、どうやって着いたんだろ」
 HIROKIがスパナを差し出す。サイズは26―24ミリの両口スパナ、だいぶ大きめのタイプで表面は磨かれて輝いている。
 そのスパナの握る辺りに、変な傷がついていた。
 大きさは1ミリ程。丈夫な錐を押し付け、ハンマーで軽く叩いてへこませたような傷だ。

「何でしょう。この傷・・・」
 傷は1ミリ以下の小さなものも多くあった。だが、手がかりではなさそうだ。
「何か鋭い物を叩き付けたような跡だな。手がかりじゃないっぽい」
「ええ、僕もそんな気がします」
 結局、僕らはスパナを直して(ツールボックスの整理は大変だった)、ハンガーに向かう事にした。かなりよく訪れる場所だし、何か見つかるかもしれない。
 あれ・・・何でツールボックスの整理まで僕がやってたんだ?ぶちまけたのはHIROKIだったのに・・・。


 射撃練習場から出て、ハンガーへ向かう数百メートルの道。空は絶好のフライト日和。触れれば割れてしまいそうなほど、澄み切っている。
 飛びたいけど、僕のファルコンとあいすまん大尉のトムキャットはまだ整備中のはずだ。
 昼休みで特にフライトも無いため、皆スポーツなどで汗を流している。今しも一匹の犬が、一人の隊員が投げたフリスビーをキャッチした。
「ナイスキャーッチ!」
 フリスビーを投げた隊員も楽しそうに手を回している。戻ってこいという合図だ。犬は素直にその指示に従い、隊員の元に走りよっていく。
 確かあの犬は、先月基地に迷い込んできたのをレイピア隊で世話する事になったやつだ。名前はレスター。もっとも今では基地内の全員で面倒を見ている。↑松シェフ特性のドッグフードを食べてるあたり、幸せな犬だ。
「犬っていいなぁ・・・気楽で」
 思わず本音が出た。
「でも犬は空飛べないよ」
「・・・・・あぅ」
 そういえばそれは重要だ。


【 2010年、1月8日、12:50 】
 オメガ隊用ハンガー。あいすまん大尉率いるF-14Aトムキャットが待機している。『ごろつき猫』なんていう可愛い名前だが、秀麗な猛獣だ。昨日整備を手伝っての感想だが。
 見ると、あいすまん大尉はみぃとろ隊長と整備中だった。

「やっぱりだめか?」
 みぃとろが聞く、手元ではグラマンの整備マニュアルが開かれている。
「ああ、このタービンブレード、そろそろ限界だ」
 あいすまんがドリーの上に引っ張り出されたエンジンを、整備班の人達と解体しながら答える。C整備を行っているようだ。
「思ったより部品の消耗が激しい。飛んでる時の感じからしても交換時だ」
「フラップの可動部も交換しときますね」と、整備兵。
「海が近いからかな?」
 マニュアルから目を離さずにみぃとろが聞く。
「こいつは元々海軍機だぜ。訓練で機動飛行をしすぎたんだろう。・・・スタータモータは問題ない」
「そうだな・・・。ん・・・?やぁheric、HIROKI、何か用か?」
 みぃとろ隊長がこちらに気付き、声をかけてきた。
 HIROKIが事情を話す。できれば何を無くしたかは言わないで欲しいが・・・。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
6 HIROKI 2006/07/01 Sat 00:21:55
『泥棒になるより乞食になるほうが安全だが、
 乞食になるより泥棒になるほうが気持ちがいい。』
――――――オスカー・ワイルド「社会主義下における人間の魂」


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(5)

【 2010年、1月8日、6:30pm 】
 第一食堂。夕食を争うごった返し状態。ここに来て新事実発覚。

「今日新たに被害者が出たそうだ。盗られたものはサイフ。向こうで泣いてるよ」
 そう言って↑松は料理を出し、急いで厨房に戻った。次の注文のためだろう。並べられたのはAランチ(今日のメニューはトンカツ)3つと、その半分の値段のNM定食(肉無しの意)が一つ。
「・・・いいですね、みんなは。肉が食えて」
 HIROKIが恨めしそうに野菜炒めをほおばる。それに対してあいすまんはAランチのおかず、トンカツを見せびらかすように口に運んで言った。
「お前が悪い。弾薬代ぼったくられすぎだ。去年の暮れにポーカーのレートに細工して巻き上げた金まで使ったんだろう?」
「何!そんな事してたのか!?HIROKI!」と、みぃとろ。
「あ、あたらしいひがいしゃがむこうでないてるよかわいそうだなー」
 HIROKI、汗を浮かべて棒読み。・・・みぃとろさん、気付かなかったのか。


 ハンガーで事情の一切合切をHIROKIは話し、ウィングバッジの件は見事にばれた。
 というかHIROKIが、
『hericなんてウィングバッジ盗られたんですよー♪』
 と笑顔で言っちゃった。
 そんなこんなで全ハンガー内を捜索したのだが、手がかりになる物は一つもなかった。
 で、結局何も得られないまま今に至ると言うわけだ。


「そう言えば、少佐達は何も盗られてないんですか?」
 何とかHIROKIはお茶を濁し、上官二人に質問を向けた。
「海軍仲間からもらったペンダントを取られたぐらいだな。届けは出してある」と、あいすまん。
「まぁ、たいした物は盗られてないかな・・・」と、みぃとろ。
「ペンダント!?意外!」
 HIROKI、お前が言うな。そういえば今朝、みぃとろ少佐が探してた物ってなんだったんだろう?
「そう言えば、みぃとろ少佐が無くした物ってなんだったんですか?」
「・・・そうだな・・・思いでの品ってところか」
「「?」」
 僕とHIROKIは同時に疑問符を出したが、結局上手くはぐらかされてしまった。

「しかし、犯人はどうやって基地内を移動してるんだろうな。いるとすればだが」
 あいすまんがコーヒーをすすり、もっともな疑問を出した。
 軍隊の基地と言うものは、閉鎖的な環境だ。外部の人間が入ってくれば怪しまれるはずだ。
「やっぱし、俺の思ってるように内部の人間の犯行ですかね」と、HIROKI。
「僕もそれは考えてたけど、僕の場合なぜウィングバッジが狙われたのか分かりませんよ」
「嫌がらせじゃないか・・・?」
 みぃとろが言う。僕ってそんな恨まれるやつだったっけ・・・。
「だが、サイフを盗むってのは金銭目的だろう。愉快犯の線は消してもいいと思うが」
 あいすまんが腕を組んで思案顔をする。
 確かに、この事件は何かへンだ。拳銃、ウィングバッジ、サイフ・・・いまいち窃盗の目的がはっきりしない。
「犯人は二人以上、でさらに二人別々に盗みを働いてるっていうのは・・・」
 HIROKIが珍しく真剣な顔で意見を出した。
「いや、それはないだろう。二人も犯罪者を闊歩させるほど、憲兵も間抜けじゃない」と、みぃとろ。
「え、憲兵なんか来てたんですか?僕は見た事無いですけど」
 僕の疑問にはあいすまんが答えた。
「二人ほどの捜査官がおととい到着したそうだが、捜査中の事故で二人とも医療室にいるらしい」
「だめじゃないですか」
 頑張れよ憲兵。HIROKIの方を見るとなぜか冷や汗を流してる。どうかしたのかな?

 議論は膠着。専門家でないとプロファイリングは難しい。
「あ、閃いた!」
 HIROKIが突然立ち上がった。
「レスター君がいるじゃないか。警察犬みたいにして犯人探せばいけるかも」
「・・・そんな上手く行きますか?」
「いや、犬の嗅覚は馬鹿にできんぞ」と、あいすまん。「人の数万倍は鼻が利くんだ。役に立つかも知れん」
 なるほど・・・それならやって見る価値はあるかもしれない。
「よし、明日レスター君を捕まえてハンガーとかに連れて行こう!」

 僕とHIROKIは確実に真実に近づいていた。だが、真実と言うものは到達するまで見えないものなのだ。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
7 HIROKI 2006/07/01 Sat 00:22:51
『飛行の魅力は麻薬に似ている。
 一度取りつかれたら最期、抜け出すことはできない。』
――――――氏名不詳


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(6)

【 2010年、1月9日、8:30AM 】
 管制塔の裏。

「うおぉぉぉぉぉっ!!待ちやがれぇぇぇっ!!!」
 雄たけびをあげて全力疾走するHIROKIと、必死で逃げるレスター君。
 そして、一人と一匹(いや二匹)を追いかける僕。何でこうなるんだろう・・・?

 事の発端は1時間ぐらい前にさかのぼる。
 最初はサラミで餌付けするつもりだった。が、レスター君を探す途中、
『HIROKI、そのサラミは餌代わりに使うつもりだから、かじり過ぎないでくださいね』
『うん、OK(モグモグ)』
『食堂の裏にはいませんね』
『どこ行ったんだろ?(モグモグ)』
『ハンガーの裏には・・・流石にいないか』
『管制塔の辺りに行って見ない?(モグモグ)』
『いました!HIROKI君、サラミを!』
『あ・・・無い』

―――――再び1時間後。午前8時半。

「止まれ!止まらんと撃つぞ!」
 HIROKIが銃を構える。あわてて僕は後ろからはがいじめにする。
「落ち着いてください!」
「後生だ、heric。撃たせてくれ!」
「だめです!ってか本来の目的を忘れないでください」

【 2010年、1月9日、9:30am 】
 さらに一時間後。ハンガーの真裏。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 汗だくのHIROKIとレスター君。あの後1時間近く追撃し、何とかレスター君にリードをつける事に成功したのだった。
「あ〜つかれた。でもこれで捜査に戻れるなheric」
「そうですね・・・」
 実際僕もつかれた。できれば後一時間じっとしときたい。

「よし、捜査続行!」
「もう!?回復早すぎですよ!」
 化け物か、この人は・・・。レスター君もぐで〜と伸びている。
 あれ・・・?そう言えば・・・
「なぁ、HIROKI・・・」
「なに?どうかした?」
「何か犯人の臭いみたいなもの嗅がせないと、追跡なんてできないんじゃ・・・」
「・・・・・」
 硬直するHIROKI。
「・・・どうしよう?」
「いや、僕に聞かれても・・・」
 レスター君は不機嫌そうに尻尾を振った。

【 2010年、1月9日、10:00am 】
 食堂裏。

 コック姿の↑松は5秒ほど考え、2秒だけためらい、つぶやいた。
「それは・・・捕まえる前に気付け」
 さすがの↑松シェフも呆れ顔だ。
「・・・勝手に反応してくれないかな?」
 HIROKIがレスター君の顔を見ながら言う。
 流石に無理だろう・・・。
 レスターは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。

「フム・・・縄張り意識ってやつを利用したらどうだ?」
「縄張り意識・・・?どう言う事ですか?↑松さん」
 鸚鵡返しに僕は聞いた。
「犬ってのは集団で生きてる動物だから、当然縄張りも群れで作る物なんだ。つまり、縄張りの中に自分の群れ以外のヤツがいたら追い出そうとするんだ」
「番犬とか・・・ですか?」
「そうだ、だから勝手に反応するといえばするな・・・」
「じゃぁ、適当に連れて回ってレスターが吠え立てたヤツが犯人?」と、HIROKI。
「まぁ、そうなるな」
 HIROKIは少し考え込み、
「よし、とりあえずレスター君の散歩に行こう」
 方向性が決まった。

【 2010年、1月9日、11:00am 】
 オメガ隊ハンガー。昨日と同じく、みぃとろ少佐、あいすまん大尉、整備兵数名がトムキャットの整備をしている。

「これで完了だな」
 あいすまんがホットコーヒーをすすり言う。
 ちょうど、トムキャットにエンジンが積み込まれたところだった。
「試験飛行でもするか?」と、みぃとろ。
「フライトプランを提出しとけばよかったな」
 あいすまんは頭を掻きながら残念そうに言った。

「あ、トムキャットの整備終わったんですか?」
 僕ら二人と一匹がハンガーについた時、みぃとろ少佐やあいすまん大尉は整備班の人たちと談笑中だった。
「ああ、そっちこそ犯人は見つかったか?」
 上機嫌にあいすまんが聞く。紙コップ二つにポットのコーヒーをいれ、渡してくれた。
 僕は受け取ったコーヒーを一口のみ、答えた。
「残念ながら何も・・・」
 レスター君を連れ、基地内各所を回ったが、何も見つからなかったのだ。
「あと探してないのは、ここ程度なもんです」と、HIROKI。
「そうか。早く犯人が見つかって欲しいが・・・」
 あいすまんがコーヒーを飲み干し、紙コップを丸めてゴミ箱に投げる。・・・ナイスシュート。

 その時だった。レスター君が唸り、突然吠え出したのは。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?
8 HIROKI 2006/07/03 Mon 02:16:49 KhjA..Hbz.5CfH
『真理をみる必要のない人々にとっては、人生はなんと気楽だろう。』
――――――ロマン・ロラン


−−−−−−−−−−−−−「隠す者」〜From hel with love〜(7)
【 2010年、1月9日、11:15am 】

 整備兵の一人。髪を茶髪に染めた若い男が、他の整備兵に右手の高そうな銀のブレスレットを見せびらかしている。
 レスター君がその男に吠えかかる。
 男の方は驚いた表情をし、逃げようとする。だが、レスター君がその右腕に噛み付いた。
「お前が犯人かっ!」
 HIROKIが猛然とダッシュ。レスター君が口を離す瞬間にジャンピングハイキックを叩きこむ。ナイスコンビネーション。
 マーシャルアーツの教官なら文句なく百点を与えるであろう一撃が、茶髪男の左こめかみに吸い込まれ、男を吹っ飛ばす。派手な音を立てて、男はジュリカンの林に突っ込んだ。・・・致命傷じゃないよな。
「よし、吐け・・・。俺のマテバをどこにやった?」
 HIROKIが危険な目で男を引きずりあげ、恫喝する。だが、男は完全に伸びていて、答えられない。
「HIROKI・・・死んでませんよね」
「安心しろheric、その気ならM9で撃ちぬいている」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
 HIROKIが男を放す。男はそのまま仰向けに倒れ、いっそ気持ちよさそうに気絶している。レスター君はその周りを唸りながらぐるぐる回っている。

「そうじゃなくて?」
 HIROKIがきょとんと鸚鵡返しに聞く。
「↑松さんが言ってただろ?犬って言うのは縄張りに入った外敵にも吠えるって」
「そうですけど、整備の人達は外敵じゃありませんし、外部の人が整備兵に化けても速攻でばれます。人数的に。というか整備の人たちの顔くらい覚えましょうよ」
 HIROKIはそれを聞いて蹴り倒した男の顔をまじまじと見つめ、
「・・・・・しまった!こいつ本物の整備兵だ!」
「『しまった』じゃないでしょ!」
「でも、じゃあなんでこいつに吼えかかったんだ?」
「さぁ・・・それはさすがに・・・」
 その時、レスター君がまた気絶した整備兵に飛び掛った。
「「!?」」
 僕らを含めみんなが驚いている中で、レスター君はブレスレットを器用に外し、それをくわえて走り出した。

「・・・え?」
 みんながみんな、頭の上に疑問符を浮かべた。
「ちょ、俺、追いかけてきます!」
 HIROKIが一番最初に立ち直り、レスター君を追いかける。
「あ、僕も!」
 僕も慌ててHIROKIの後を追う。一体何が起こったんだろう。


「あいすまん。そいつを医務室に連れて言ってもらえないか?」
 みぃとろが倒れた整備兵を指し示して言った。
「ああ、わかった」
「整備班のみんなは、後片付けをしていてくれ。俺は2人を追いかけてくる」
 言いつつドリーから飛び降り、走り出そうとする。
「・・・まだ、見つからないのか?」
 あいすまんの問いかけがその足を止めさせる。
「ああ・・・」
 少し重々しく、いつものみぃとろらしくない声で答えが返る。
「早く行け。鳥だって地上に巣を作る。ましてや俺達なんて、地上に思い出を置いて来なくては飛べないのだから・・・」
 あいすまんは気絶した整備兵を担ぎ上げ、そのままさっさと医務室へ向かってしまった。
 残る整備兵達は、なぎ倒されたジュリカンやこぼれた燃料をふき取っている。

「すまない・・・」
 誰にともなく口の中でつぶやくと、みぃとろは全力で走り出した。

−−−−−−−−−−−−−May Be Continued...?

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