ACE COMBAT 5 RESURRECTION OF RAZGRIZ
No.106
- 1 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:00:31
- ―――エースコンバット5 レザレクション オブ ラーズグリーズ―――
INTRODUCTION イントロダクション
前作、「ENDURING FIGHTTERS」から2ヶ月。今回で2回目となる作品投下です。
エースコンバット・ゼロが発売されたばかりの時期ですが、「5」のストーリーも素晴らしい部分が多く、ゼロにも劣らない作品だと思います。(実際には両方とも傑作。
お暇潰しにどうぞ。 2ページ目から本編へ入ります。
- 2 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:04:09
- 『“歴史が大きくかわるとき、ラーズグリーズはその姿を現す
はじめには漆黒の悪魔として、悪魔はその力をもって大地に死を降り注ぎ、やがて死ぬ。
しばしの眠りのあと。ラーズグリーズは再び現れる”』
―――ユークトバニアの大型潜水艦「シンファクシ」及び「リムファクシ」。
この2隻は戦艦、航空母艦、潜水艦の長所を組み合わせた驚異的な軍艦で、これに乗ったクルー達はその艦の性能からして、おとぎ話に登場する伝説の悪魔である「ラーズグリーズ」と名乗っていた。
しかし、それは大きな誤解だった・・・
オーシア空軍のエースが現れ、それと対峙したシンファクシがセレス海で没し、リムファクシもユークトバニア北部のラーズグリーズ海峡で撃沈される。
その後、2隻を撃沈したオーシアのエースが「ラーズグリーズ」と呼ばれるようになった。
ACE
COMBAT
5
RESURRECTION
OF
RAZGRIZ
―――――第1話 『クルイーク要塞攻防戦』
2010年、12月7日。ユークトバニア、クルイーク要塞上空
ユークトバニア共和国は先月オーシア領のサンド島に大規模な上陸作戦を試みた。しかし、潜水艦シンファクシを失った上に部隊は敗走し、形成は逆転。攻勢に転じたオーシア連邦はバストーク半島に上陸し、ユークトバニア首都シーニグラードを目指す。
進撃するオーシアに対し、ユークトバニアが有効な防衛線を築けるのは“クルイーク要塞”と、その背後にある市街地だけだった。
「信じられない・・・クルイーク要塞が!」
クルイーク要塞から援軍を要請され、ユーク第501飛行隊所属のオリオン中隊が救援に向かった。しかし、彼らが駆けつけた時には要塞各地から煙が立ち上り、友軍は壊滅状態だった。
Su−27フランカーの4機編成であるオリオン中隊を率いるニコライ中佐は、前方に3機のオーシア軍航空機を発見した。地上の味方を壊滅に追い込んだのはたった3機の敵だと言うのか?
「隊長、管制機オーカ・ニエーバは退却しても良いと言っています。」
ニコライの横で編隊を組むイカロス大尉は退却を主張する。彼は3機のオーシア軍機が今話題の“ラーズグリーズの悪魔”ではないかと恐れ、数回退却を飛びかけた。
「下を見ろ。味方の地上部隊がまだ生き残っている。彼らの撤退を支援しなければならない。オリオン1、交戦。」
「了解。オリオン2、交戦。」
「隊長に従います。オリオン3、交戦」
「オリオン4、交戦」
後に続く仲間たち。
ニコライのオリオン隊はそのまま例の“ラーズグリーズ”部隊に向かう。
クルイーク要塞防衛隊所属の味方航空機がラーズグリーズと交戦していたが、ニコライ達が手助けする前に叩き落された。
「目標、ラーズグリーズ及び敵勢力。」
編体内の一番右を飛行するエレノア少尉。彼女はこの中では一番の新入りである。イカロスとエレノアは3機のラーズグリーズ向かってミサイルを放ったが、3機は散開してミサイルを回避。姿勢を正すと機首をこちらに向けた。
「ラーズグリーズの悪魔が向かってくるぞ!」
ミサイル警報と共に彼らは散開する。ミサイルが機体のすぐ近くをかすめてゆく。
しかし、後方で爆発音がした。ニコライが後ろを振り返るとオリオン4が見当たらない。
「中佐!プシュフィが悪魔に食われました!」
「戦闘を続行しろ。」
ニコライ中佐のフランカーの真上から悪魔が襲い掛かる。ニコライは機体に穴が開くのを感じた。
「中佐、悪魔には勝てません!撤退しましょう!」
その直後、エレノアのフランカーにミサイルが直撃。彼女のフランカーは火を噴きながら要塞の外へ墜ちていった。
「オリオン中隊、退却するぞ!」
ニコライはイカロスと共に撤退を試みる。しかし、ラーズグリーズの1機が追撃を加えてくる。
「悪魔め!まだ来るのか!?」
ニコライは必死で逃げるが、遂にロックオンされた。続けざまにミサイル警報が鳴り響き、ニコライは急上昇してミサイル回避するが、ラーズグリーズの悪魔は上昇するニコライのフランカー向かって機銃を撃ち込む。
「駄目だ!脱出する!」
機体のエンジンが停止し、ニコライは操縦不能になった機体を捨て脱出した。
悪魔はそのまま要塞のユーク軍に恐怖と破壊を撒き散らし続ける・・・
- 3 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:05:29
- ―――――第2話 『姫君の青い鳩』
「待て!味方だ!乗せてくれ!」
クルイーク要塞から撤退するユークのT80戦車をヒッチハイクするニコライ。
「中佐!?ご無事でしたか!どうぞ乗ってください。」
ニコライは戦車の砲塔の上に乗り、敗走部隊は再び市街地向けて移動を始めた。
「何か飲み物は無いか?」
「手付かずの新品です。」
戦車中隊長は車内からコーラを取り出し、それをニコライに手渡す。ニコライはキャップを開け、コーラを口の中に流し込んだ。ぬるかった。
中隊長のコリンキィ大尉たちは要塞での戦闘で勝利するたびにコーラを飲む習慣があったそうだ。酒を飲んで酔っ払っている時に敵が攻め込んできても困らないように、アルコールは避けコーラを飲んでいたらしい。
「戦車にコーラを持ち込んでいるのか。珍しいな。」
「はい、しかし4度も強行突破してくるオーシアも珍しいと思います。」
コリンキィ大尉はまた車内から何かを取り出した。ビーフステーキ味のレーション(軍用食)だ。この戦車大隊の指揮官だったキーロフ大佐が、ステーキ味の軍用食を好んでいたので部隊全員に配布されていたのだろう。
―――2010年、12月9日。 ユークトバニア・フランブルク基地
町に着くとニコライはコリンキィ大尉と別れ、最寄りの空軍基地へ向かった。ニコライは司令部で報告し、シャーワーを浴びた後ラウンジでアイスコーヒーを堪能した。
「遅かったですね。」
イカロス大尉がレモネードと本を手にニコライと同じテーブルに着席し、何かの本を広げる。
本のタイトルは『姫君の青い鳩』。
「・・・イカロス、本当にラーズグリーズの話を信じるのか?」
ニコライの問いかけに首を下ろすイカロス。彼はニコライに聞かせるかのように音読し、時々レモネードを口に運ぶ。
「・・・つまり、あのラーズグリーズは伝説の悪魔だと言いたいのか?」
「中佐、お言葉ですがあの機動を見せられたら、そうとしか思えませんよ?プシュフィとエレノアを一瞬で墜としたのも事実ですし・・・」
ニコライは本の文中にある“大地に死を降り注ぎ、やがて死ぬ”の部分に目が行った。
「この文章の通りなら、奴らはそろそろ死に絶えるのではないか?」
「まあ・・・そんな都合のいい話は期待できませんがねぇ・・・」
- 4 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:06:47
- ――――― 第3話 『反撃への離陸』
ニコライとイカロスに通知が届いた。損失の多いオリオン中隊は501飛行隊から703飛行隊に吸収、合流となったようだ。
703飛行隊は孤立したパビエーダ半島の部隊を支援する為に、シーニグラードから派遣された味方と共に輸送機を護衛する任に就くこととなる。
2人はフランカーに乗り、滑走路まで機体を移動させた。だが、タキシングの最中に無線が飛び込む。
「飛行場にて待機する航空隊へ!オーシア軍の爆撃機が接近中!直ちに発進し、これを迎撃せよ!繰り返す・・・」
突然、ニコライの背後で飛行場にあるハンガーの一つが爆発した。
爆発の直後、オーシアのF−15が滑走路を機銃掃射し、離陸しようとする味方のMIG−29を穴だらけにした。残骸が滑走路の真ん中で炎上している。
「1番滑走路は使用不能だ!隣の3番滑走路を使うぞ!」
イカロスはニコライと反対の方向へ進み、基地の裏にある第2滑走路を目指す。基地の各地から対空砲が空に弾丸をばらまいている。今のところ爆撃及びミサイル攻撃は格納庫を狙っており、離陸には大きな影響は無い。
最大出力で離陸するニコライ。しかし、正面からオーシアのF−2戦闘機が迫る。
「まずい!」
しかし、地上からの味方高射砲による援護射撃によりその敵は粉砕された。ニコライは高度を上げ、すぐさま爆撃機の迎撃に向かう。
「こちらオリオン1のニコライ中佐だ。無事に離陸したものは報告しろ。」
ニコライが滑走路を振り返ると、3本の滑走路から3機のMIG−31が離陸。
だが、1機はオーシアのF−15の餌食となり墜落した。
「こちらメテオール7、隊長機が撃墜されました。オリオン中隊の指揮下に入ります。」
「了解メテオール7。オリオン2、どこだ!?」
ニコライはイカロスを探した。すると、イカロスのフランカーはまだ滑走路にたどり着いていなかった。
途中で敵機の機銃掃射を受け、エンジンから煙を吐いている。動けないイカロスのフランカーに追い討ちをかけるかのようにオーシアのF−2が迫る。
「冗談じゃない!飛ぶ前にやられてたまるか!」
イカロスはレバーを引き愛機から脱出。パラシュートで眼下しながら愛機が爆発するのを見届けた。
「オリオン1からメテオール7及び9へ、爆撃機の迎撃に向かえ!護衛は任せろ」
ニコライの指示を受け、2機のミグ31はXLAA(長距離ミサイル)による爆撃機の迎撃に向かう。更に4機の味方が随伴し、援護している。
2機のF−2が味方を追撃しているので、ニコライはすぐさま旋回してミサイルをお見舞いした。
片方にはミサイルが直撃し、もう片方の敵機が旋回する。その敵機はニコライ向かってミサイルを放つが、ニコライは機体を傾けてミサイルを回避。飛び抜けて行ったミサイルが後方で爆発する。
「真正面か・・・オリオン1、フォックス2!」
ミサイルが敵のF−2に直撃して爆発した。ニコライは爆炎の中を飛び抜け辺りを見回す。まだ敵機が残っているはずだが、見当たらない。
突如ロックオン警報が鳴り響く。背後に敵機がいたのだ。
しかし、ミサイルを放つ前に敵機は四散した。
「イカロス!?」
ニコライが地上を見ると、地上にツングースカ対空戦車が布陣していた。先頭にはオートバイに乗ったイカロスが。彼がこの部隊を連れてきたのだろう。
- 5 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:08:06
- ―――――第4話 『名前負け』
フランブルク飛行場の管制塔から中継無線が入った。
「・・・私は首都防空司令部のヴィシンスキー将軍だ。オーシア軍の大編隊がシーニグラード向かって侵攻している。フランブルク基地所属の部隊も迎撃に参戦せよ!」
ヴィシンスキー将軍はニコライ直属の上司で、ベルカ戦争にも参加した歴戦のエースだった。十数年間軍に在籍し、今でも防空司令部で活躍している。
ニコライは予備の機体で離陸するイカロスを見守り、周辺の味方と共にオーシア軍の迎撃に向かう。ニコライとイカロスの2機のオリオン隊。他にはミグ31のメテオール隊、ミグ29が4機のモルニヤ隊の計8機。
彼らは侵攻するオーシア軍の大部隊の後方から迫る。すると、B−1爆撃機を護衛するFA−18の一部がこちらに向かってくる。
「正面からオーシア軍戦闘機が4機!」
イカロスは上昇して雲の中に姿を消し、モルニヤ隊も散開して迎撃体勢をとる。
そして、ニコライの後ろで編隊を組む2機のMIG−31がXLAAを敵機向かって発射。放たれた4本のミサイルは全て命中し、護衛を排除した。
「真正面にオーシアの爆撃機が見える。奴らを絶対に首都に行かせるな!」
アフターバーナー全快で突入するニコライ達。
オーシアのF−15が爆撃機を護衛しているので、まず護衛を始末する必要がある。
ニコライは敵機をロックオンしてミサイルを発射。反応した敵機は散開して回避行動を実施した。
「よし、ヘッド・トゥ・ヘッドだ!」
1機のF−15が上昇した時、雲の中からイカロスのフランカーが出現してミサイルを放ち、オーシア軍戦闘機を退場させた。
「<ヴァイパー4が撃墜された!上空だ>」
イカロスのフランカーは弧を描いて敵編隊の中を駆け抜け、編隊に復帰する。
その直後、散開したモルニヤ隊と敵部隊が互いにミサイルや機銃を打ち合う。まるで渦に飲み込まれるかのように。
「<・・・ラーズグリーズ、これより作戦を開始する。>」
「中佐・・・、今、聞こえましたか?」
混声の中、確かにラーズグリーズと聞こえた。しかし、視界に映るのは敵のF−15とB−1爆撃機のみ。
「オリオン1から全機へ!攻撃を継続せよ」
ニコライは冷静に爆撃機をロックし、ミサイルを放った。
「<こちらヴァイキング4!撃たれた!制御不能!>」
「<ジラーチ砂漠でも言っただろう!?名前負けするのがオチだって・・・>」
やかましい無線の中、爆撃機は煙を吐きながら墜ちてゆく。
「今の・・・何者?」
「さあな・・」
だが、彼らのまったりムードを打ち壊すかのように、レーダーに新たな機影が映る。
「敵の増援が接近中です!オーシアのF−14が8機!」
遠方から8機のF−14トムキャットの編隊が迫る。オリオン、メテオール、モルニヤの各隊は方向転換し、迎撃に向かう。
だが奇妙だ。トムキャットは艦上戦闘機。通常の航空機に比べれば航続距離は短い筈。どこかで空中給油を受けたか、クルイークで補給を受けたか、周辺海域に母艦があるか・・・考えるのは後でいい、今は制空権を確保し、本空域を防衛するのが先決だ。
- 6 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:09:20
- ―――――第5話 『精鋭の戦闘』
オーシア軍機とニコライ達との距離が縮まる。
「<ソーズマンから各機へ、敵航空機と敵地上勢力を掃討しろ!>」
「<アルファ・チーム了解。>」
「<デルタ・チーム了解。地上勢力を担当します>」
マーカス・スノー大尉率いる8機の航空機が陣形を解除し、6機が左右に散開した。
「遠距離から攻撃します。メテオール9、フォックス3!」
メテオール7も続き、正面から迫るF−14に長距離ミサイルによる弾幕を展開。ミサイルにより寮機を2機撃墜されたスノー大尉は、ニコライ達の下に潜りMIG−31を真下から銃撃。一気に両方のMIG−31を穴だらけにする。
「メテオールがやられた!あいつは何者なんだ!?」
ニコライは煙を吐きなが地上へ墜ちてゆく味方を一瞬だけ振り返り、無線越しにイカロスに説明した。
「奴はオーシア海軍のマーカス・スノーだろう。F−14を駆る海軍のエースだ。」
ニコライとイカロスは上昇してスノーの後を追う。上昇する2人の真上からスノーのF−14が急降下してくる。
「爆撃機は全滅したのに、奴らは何が目的なんだ?」
イカロスとニコライ、スノーは同時にミサイルを放った。互いのミサイルがすれ違い、それぞれのミサイルがこちらに向かってくる。
「危ねぇな!畜生!」
3人ともミサイルを回避し、空中ですれ違う。ニコライとイカロスは機体を反転させ、再びスノーの追跡を続ける。
「捕らえた!」
イカロスはスノー機をロックオンすると、すぐさま発射ボタンを押した。
「オリオン2、フォックス2!」
ミサイルがパイロンから切り離され、白線を引きながら目標に向かう。それに対しスノーは減速しながら急旋回してミサイルを回避した。
イカロスに続き、ニコライは旋回するスノー機向かって銃撃するものの、スノーはすぐさま射線から逃げ去る。
スノーは追撃から逃れると、宙返りを行ってイカロスの背後からミサイルを放った。
「撃ってきやがった!回避する!」
イカロスは急降下を開始した。機体を180度回転させてから降下し、そのまま水平飛行に戻すスプリットSと呼ばれるターンを決めた。イカロスの真後ろをミサイルが通過し、低空域で爆発した。
「<スノー大尉、地上からSAM及び対空砲の攻撃を受けています!デルタ・チームが全滅!>」
先ほど飛行場でニコライを援護したツングースカ対空戦車が参戦している。ツングースカの砲塔が回転し、地対空ミサイルが発慰謝され、スノー大尉指揮下である最後のF−14を撃墜した。
「<アルファ、デルタ応答しろ!?・・・全滅したのか!?>」
引き返し始めるスノーを追撃するかのように、モルニヤ隊の2機が追撃を加える。
しかし、ニコライはそんな彼らを呼び止めた。
「モルニヤ、攻撃を中止しろ。奴に戦う戦力は残っていないし、深追いするのも危険だ。」
ニコライ達はレーダーから敵機が消え去るのを確認すると、基地に引き返した。
- 7 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:11:40
- ―――――第6話 『消えた足跡』
数週間後、ニコライとイカロスは前回の戦いで生還した2人のモルニヤ隊所属のパイロットと共に、フランブルク空軍基地のラウンジでボードゲームをしていた。
「長弓兵で3番の槍兵を攻撃し、騎兵隊で首都を制圧・・・僕の勝利です!」
ゲームが終了すると、ニコライはコーヒーを口に運ぶ。
「アンドレイの5連勝か・・・これぐらいなら軍の戦略部門の方が向いているぞ・・・」
この中世時代を題材としたボードゲームで、アンドレイはニコライとイカロス、ミハイルの連合軍を軽々と負かした。
―――フランブルク基地、管制塔。
「おい、レーダーに何か映っているぞ?」
「心配するな、首都から来る増援部隊らしい。・・・アーチン、レーダーから目を離すなよ。」
管制官達はラウンジへ飲み物を買いに行った。1人の士官が残り、イスに寄りかかる。そのまま彼は深い眠りについた。
「・・・ところで、聞きました?ラーズグリーズの悪魔が軍から逃亡したという話。」
このニュースは皆が知っていた。
オーシアの精鋭である「サンド島中隊」がユークトバニアのスパイで、それが発覚して脱走したという事件があったそうだ。その後、ラーズグリーズは姿を消したという。
無論、正確な情報は無い。中には「魔法で姿を消した」「我々を混乱させる口実」「どこかのバカの出鱈目」という噂も出ている。
「こいつを見てください。」
アンドレイはノートパソコンを開き、衛星カメラの映像をニコライ達に見せた。そこにはオーシア軍機によって撃墜されるホーク訓練航空機の姿と、その乗員を救助したヘリ部隊の姿が映し出されていた。
「これ、例のラーズグリーズだと思うのです。」
ニコライとイカロスはしばらくその映像を眺めていた。映像が2週目に入った時、ニコライは映像を止めるように言った。停止した映像に映っているのはオーシア軍のF−14。
「これは・・・昨日のオーシア軍のエース・・・!?」
イカロスはそのエースを確かめようと、映像に釘付けになる。
「・・・ところでアンドレイ、何所でこんな映像を?」
アンドレイは更にPCを操作し、ユークのアグレッサー部隊の情報を表示した。そこには信じられないほどに多くの情報が眠っていた。アグレッサー部隊の核兵器保有を始め、未だに謎の多いベルカ戦争の記録。ベルカのエースがオーシア、ユークの両国に紛れ込んでいたこと。
そして、画面をスクロールさせてゆくと「最高機密」の欄にたどり着いた。
「入れるか?」
「少し時間をください、ニコライ中佐。」
アンドレイは侵入を開始する。
「・・・飲み物買ってくる。」
そう言うとミハイルが財布片手に席を外し、そのままカウンターへ向かう。ニコライはラウンジの窓から滑走路を見下ろしつつコーヒーを一口飲む。
だが、突然電気が消え、辺りが真っ暗になる。
- 8 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:13:32
- ―――――第7話 『フランブルク強襲』
空軍基地の中から銃撃音が聞こえる。ニコライ達は拳銃を手に取り、姿勢を低くした。
「こんな真夜中に演習か!?」
イカロスは辺りを見回すが、暗くて見通しが利かない。
「演習のわけが無い!敵襲だ。とにかく管制塔へ向かうぞ。」
その時、ラウンジのガラス越しにハインド戦闘ヘリが姿を現す。低空でホバリングし、ニコライ達にライトを照らしながら狙いを定めている。
「走れ!」
ハインドのバルカン砲がラウンジのテーブルやガラスを粉々にしてゆく。ニコライ達は階段を駆け下り、ハインドの死角に逃げ込む。
「あれはユークの戦闘ヘリだ!何故味方が攻撃してくるんだ!?」
「落ち着けイカロス。いまは基地指令の元へ向かうんだ。」
ニコライ、イカロス、ミハイル、アンドレイは周囲に気を配りつつ移動した。証明が消えて、薄暗い基地の中では絶えず銃撃音が鳴り響いている。
基地のロビーでは激しい戦闘が行われていた。基地所属の兵士がイスやテーブルでバリケードを構築し、侵入者を食い止めている。
「おい、どうなっている!?」
ニコライ達はバリケードの影に滑り込んだ。
「侵入してきたのはユークの特殊部隊です!何故攻められているか分かりませんが、相手は「ハッカーを探して始末しろ」と時々叫んでいます!」
ニコライはその兵士に、ある程度的をけん制したらこの場を退却して、どこかで立てこもるように指示した。そして、ニコライ達はバリケードの手前に積み重ねられているAKライフルを手に取った。
「格納庫へ向かおう。この基地にいては危険だ。」
だが、ニコライの決断に横槍が入る。
「中佐!?どうするんですか!?ここにいたほうが安全ではないですか!?」
アンドレイは仲間と共に基地で立てこもると主張した。しかし、今の話からすると、相手はアンドレイの握る情報を狙っている可能性がある上、戦力が大きい。基地の兵力では援軍が来るまで持ちこたえられないだろう。
「中佐、格納庫まで案内させてください。自分は最短ルートを知っております!」
ニコライ達はその兵士の後に続く。
「右通路に敵兵だ!」
イカロスはAKライフルを連射して敵を威嚇射撃し、敵が反撃する前に移動する。敵の追撃を阻止する為にイカロスは定期的にけん制射撃を行っていた。
通路を抜けると、広い部屋に出た。上の階層では味方と侵入者が激しい戦闘を繰り広げている。そんなニコライ達に上から銃撃を仕掛けてくる侵入者達。
「・・・!?PC落とした!」
アンドレイはPCを取りに銃弾の嵐の中に戻ろうとするが、イカロスはそんなアンドレイを引き止めた。
「正気か!?絶対撃たれるぞ!」
「しかし、あそこにはまだ重要な情報が・・・放してください、イカロス大尉!」
「PCなんてどうでもいいだろ!とにかく基地が敵に制圧される前に脱出するぞ!」
「ベルカ人の陰謀で両国が戦争をしているのです!」
ニコライは物陰からAKライフルを構え、上の階に布陣する敵兵に発砲した。ニコライが銃撃している間にイカロス達が危険地帯を横断する。
「中佐!援護します!」
危険地帯を横断したイカロス達が敵兵向かって発砲し、ニコライが避退する時間を稼ぐ。
「みんな無事だな?」
彼らは危険地帯を無事に通過した。負傷者は特にいない。
「中佐、格納庫はこの先です。自分は3階の仲間のもとへ向かいます。幸運を!」
兵士と別れたニコライ達は格納庫を目指す。
- 9 ゼネラル・マーシュ 2006/03/30 Thu 12:23:46
- ―――――第8話 『翼の為に』
滑走路、駐機場でも基地兵士と侵入者による激しい戦闘が繰り広げられていた。上空ではハインド戦闘ヘリが数機飛び交い、地上にいる味方に圧倒的火力で襲い掛かっている。
「困ったな・・・僕らの機体のある格納庫が破壊されている・・・」
アンドレイは倉庫の物陰から無残に破壊された自分の愛機のある格納庫を眺めていた。この基地から脱出するには飛行機が必要なのは確実であり、ニコライ達のフランカーは滑走路の向こう側にある整備用格納庫に収められている。
しかし、上空は敵のハインドが支配しており、歩いて横断するのは非常に困難だった。
だが、そんな彼らの元に6両のT−80戦車と装甲ジープが駆けつける。
「ニコライ中佐!」
先頭から2両目の戦車には、先日クルイーク要塞で救助してもらったコリンキィ大尉が乗っていた。ニコライ達はすぐさまジープに乗り込み、格納庫を目指す。
「みんな、RPGに注意しろ!全速力で移動する!」
しかし、突然どこからかRPG対戦車ロケットが飛来し、先頭の戦車のキャタピラが吹き飛ばす。
「駄目だ、撃たれました!走行不能!」
「ウェルテス2、脱出しろ!そのままでは標的になるぞ!」
コリンキィ大尉は戦車の乗員が退避する間、敵が居そうな場所に機銃掃射する。戦車から脱出した乗員はコンテナや残骸をかき集め、防御陣地を構築し始めた。
「ニコライ中佐、自分が敵戦闘ヘリを引き付けます!その間に格納庫へ!」
コリンキィ大尉の2両の戦車が隊列から離脱し、残りの装甲ジープは速度を上げて戦場の突破を試みる。
先頭のジープに乗り込んでいるニコライは銃座に取り付けられた大口径の機関砲で応戦した。
「そこらじゅう敵だらけだ!油断するな!」
ニコライは敵がいそうな場所に銃弾をばら撒いた。薄暗い夜の飛行場を照らすかのように銃弾が飛び交う。
「8番格納庫だ!止めてくれ!」
ニコライ達がジープから飛び降りると、ジープは急発進した。格納庫に入ると、中には4機のフランカーが待機していた。
「ウェルテス3、ロケット弾被弾!戦闘不能です!」
コリンキィ大尉の戦車部隊は明らかに不利な戦闘をしていた。対空装備の無い戦車で戦闘ヘリに勝てるわけが無い。
そして、コリンキィ大尉の戦車を発見したハインドが旋回して射撃位置につく。
「真正面にハインドだ!回避急げ!」
「間に合いません!」
暗い飛行場の駐機場で爆発が起きた。基地を制圧し、戦車を破壊したのを確認するとヘリ部隊は退散した。
「ヘリが撤退していく、飛び立つなら今だ!」
イカロスはタキシングを始め、滑走路にたどり着いた。あとは出力を上げ離陸するだけ・・・しかし、進路上に先ほどのハインドが再び姿を現した。
「マジきゃよ!また地上で撃たれるのかぁ!」
しかし、予想外のことが起きた。飛行場にある航空機の残骸からミサイルが姿を現し、ヘリを撃墜した。
「やるぅ」
滑走路の横にはミサイルランチャーで武装したコリンキィ大尉がたたずんでいた。そして、彼の後ろから続々と兵士が姿を現す。
「ニコライ中佐、彼らを置いていくのですか?」
滑走路に入ったアンドレイが、ここに残る彼らの身を案じた。
「心配ない。コリンキィ大尉達は、クルイーク要塞でラーズグリーズの悪魔の攻撃から生き延びた精鋭だ。」
コリンキィ大尉たちはニコライの部隊が離陸するのを確認すると、ジープに乗って飛行場で戦う味方の支援に向かった。
ミハイルとアンドレイもフランカーで離陸し、空中で編隊を組むにコライ達。
「・・・パビエータ半島の基地へ向かおう。位置は分かるな?」
「オリオン2、了解。」
「・・・ニコライ中佐、ボク達もオリオン隊ですよね?」
アンドレイとミハイルも703飛行隊に転属し、リストによれば確かに2人はオリオン中隊所属になっていた。
「その通りだ、オリオン3、オリオン4、合流を歓迎する。」
- 10 ゼネラル・マーシュ 2006/03/31 Fri 11:40:58
- ―――――第9話 『ベルカの陰謀』
翌朝、ニコライのオリオン中隊はパビエータ半島の空軍基地上空に接近していた。
「こちらユーク第703飛行隊所属のニコライ中佐だ、管制塔応答せよ。」
沈黙が走る。
「やけに静かだな・・・ん?飛行場が・・・」
突然ミサイルアラートが鳴り響く。
「オリオン中隊、散開しろ!」
飛行場防衛用のSAM(地対空ミサイル)がニコライ達の編隊向かって突き抜け、まだロックオン警報が鳴っている。やがて、電波妨害によってレーダーが乱れる。
「ジャミングか?管制塔応答せよ!」
ミハイルは乱れつつあるレーダーに映し出された機影を確認した。所属不明のSu−47・ベルクトが滑走路から数機離陸してくる。
「全機、この空域から離脱するぞ!交戦を許可する。」
「了解、オリオン2、交戦!」
「了解です!オリオン3、交戦!」
「オリオン4、交戦!」
離脱を図るニコライのフランカーの背後に、ベルクトが迫る。離陸してきたその部隊は、容赦なくニコライ達を攻撃してくる。
「(奴らは我々のデーターベースをハッキングし、その情報を握っている!生きて逃がすな、絶対に機密を死守しろ!)」
「(了解、全機撃墜します。)」
フランカーとベルクトでは性能差も大きい。いくらニコライ達が優秀でも、質と数で勝る相手には立て打ち出来ない。
「こいつらは何者だ!?空港を襲った連中の一味か!?」
ミハイルが後ろを見ると1機のベルクトが射撃位置についていたので、上昇して回避を試みる。しかし、上からも別の敵機が迫る。ミハイルは水平飛行に戻し、再び背後を確認した。2機のベルクトは空中ですれ違い、再びこちらに機首を向けた。
「こちらオリオン4、レーダーに新たな機影が見える。ユーク軍だ!」
8機編隊のSu−27フランカーがこちらに向かってくる。
「オリオン中隊、南へ避退せよ。我らの母艦へ案内する」
聞き覚えのある女性の声だった。その部隊が登場すると、ベルクトは引き返し始めた。ニコライのオリオン中隊はその部隊の後に続く。
しばらく飛行を続けると洋上に出た。海面にはユークトバニアの大艦隊が見える。
「物凄い数だな・・・」
航空母艦や巡洋艦を中心とした艦隊は、どうやらオーシアを目指しているようだ。ニコライ達は空母に着艦し、空母のブリッジに案内された。
「アンドレイ、あのことは口に出すな。今は誰も信用できない。」
アンドレイはゆっくりとうなずいた。
ユークトバニア空母、アドミラル・ツァネフは巡洋艦ウミェールイとイージス艦カニェークに挟まれて航行している。その周囲を囲むかのように15隻の駆逐艦やフリゲートが陣形を組んでいる。この艦隊は軍上層部の命令で、オーシア軍の海上輸送路の切断の任に就いているようだ。
同時に、セレス海を制圧して地上のオーシア軍を攻撃する任も受けている。確かに18隻の大艦隊なら可能かもしれない。
ニコライは艦長にフランブルクの件を報告したが、「その件に関しては調査中だ」と言われ、相手にしてもらえなかった。
空母の戦力が不足している為、ニコライのオリオン中隊はクワント部隊として配備された。急過ぎる事態の進展に意義を唱えるが、軍の命令には逆らえなかった。受け入れるしかない。
「・・・何もかもがおかしい。まるで2つの国家は進んで戦争をしているようだ。」
空母のラウンジで缶コーヒーを飲むニコライ。
「絶対にベルカの陰謀です。僕が最後にPCを見た時、ニカノール首相とオーシアのハーリング大統領が行方をくらませているとありました。 また、“灰色の男達”とよばれる人物がこの戦争に絡んでおり、その人物の所在は・・・」
アンドレイもコーラを飲む。喋りながら飲んだ為、むせた。
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