AceCombat5 -Untold StoryU- part2
前スレッド No.101
- 15 アフロ庚 2006/02/03 Fri 22:43:36
- ※前スレッドが終わってしまったので、続きとなるスレッドを作成します。
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10月2日11:00頃?
道具が揃ったので、朝食を終えてから頭の中でずっと計画の事を考えている。狭い房の中を歩き周ったり、ベッドで横になったりしながら外へ出る算段をイメージしている。
ここの窓から見えた景色、午前・午後の運動の時間で見れた場所、食事の度に通る廊下の窓から見えたものを繋ぎ合わせて、必要な箇所以外は穴だらけの青写真を作り、何度も何度も記憶力というビデオデッキで刑務所の空間イメージを再生させる。壁を破り、中庭を突っ走り、塀を越える……その途中で考えうる危険を挿入する。看守が違うパターンで見回りに来たら?中庭を走っている途中でサーチライトに照らされたら?警告無しに銃弾が降ってきたら?塀の外にも見張りがいたら?危険が予想される部分に入ったら停止ボタンを押し、最善の案を考えてから最初からやり直す。
状況は違うが、15年前の戦争でもこれをやっていた。ブリーフィングが終わって出撃までの短い間、訓練を終えたばかりの連中や、数機落しただけでエース気分になっているヤツが全能のお偉いさんに祈りを捧げたり、ラッキーアイテムをせっせと磨いている間、こっちは配られた最新情報を頭の中で繰り返し篩いにかけていた。情報部が言っていた敵戦力を倍にしてみる、無いと言われていたはずのSAMが配備されている、敵の応援が間に合う…そうやって生き残る確率を少しでも増やそうとしていたからこそ、今も生きていられる。今回もそうであってほしい…。
18:00近く
計画がバレる。ハッキリ言ってあんなマヌケな形で見抜かれるとは思っていなかったが、せめてもの慰めが見破ったのが同房のヤツということだろう。事のあらましはこうだ。
16:00、アリョーシャがいつものより早く労働から帰って来る。ふらふらと房に入ってきて便器にヘタリ込んだあいつは用を済ませて立ち上がるとき、煉瓦壁の出っ張りを掴んで立とうとしたが、その掴んだ煉瓦がよりによって爆弾を挿入する為に食堂からくすねたスプーンで毎晩少しずつ穴を掘っていた場所だった。乾いた音と共に煉瓦が抜け落ち、その後ろに隠していた穴が現れた。アリョーシャはジッとそれを見て振り返ると、小声で「あんた…もしかして脱獄するのかい?」と言った。
- 16 アフロ庚 2006/02/03 Fri 22:51:41
- “見えない手で心臓を鷲づかみにされる”とはこういう時の気持ちを言うのだろう…本当に息をするのを一瞬忘れた。どういった根拠からなのか知らないが、こいつは穴を見ただけでこっちの考えを看破した。
そんなもの前からあったんじゃないか、と相手の疑いをすぐに否定すれば選べる選択肢は豊富にあったかもしれないが、こっちの沈黙を相手はYesとして受け取ったようだった。
こうなると残っている選択肢は2つしかない。つまり相手の疑いを見苦しく誤魔化すか、脅威を取り除くかだ。普通ならば後者の方が最速で問題を解決してくれるが、まだ夕食と消灯前の点呼があるので別の大問題を引き起こす…不可能だ。
アリョーシャのヤツは“労働”の疲れなど吹っ飛び、こっちが聞いてもないことをベラベラと喋りはじめた。
「やっぱり朝ガソリンの臭いがしたのは間違いじゃなかったんだ。入手場所はシャワー室かい?ベッドの下に炭酸飲料の缶があるけど、それ以外にも適量のガソリンと濃縮オレンジジュースを混ぜたり、マグネシウムと硝酸塩、水の組み合わせでも同様の効果が望めるんだ。ほら、昔そっちの国で民族紛争が起きた時、過激派が園芸に使う化学肥料から爆弾を作っただろ?」
あぁ、よく知っているよ。爆発物とオーシアの歴史講釈についてありがとよと心の中で毒づいた。
ともかくヤバイことになった。数秒後には目の前の男が“労働”の一日免除でも要求する為、大声で看守を呼ぶかもしれない。しかし、アリョーシャは自分のベッドにると、初めて女に告白する小学生みたいにもじもじと体を動かした後、とんでもないことを口にした。
「僕も連れてってくれ、頼む!ここから出してくれたら必ず助けになるから!大丈夫だろ、一人ぐらい?」
全然大丈夫じゃない。こいつは俺を弓矢で攻撃ヘリが落せる映画の主人公とでも思ってるのか?この計画の定員は一名だけだし、その一名とは俺だ。ナガセを追尾ミサイルから庇ったことが幸運の女神に気に入ってもらえて数日間は運に恵まれていたのに、土壇場でミセス大不幸がしゃしゃり出て来た。
本人は気付いてないが、この場で主導権を握っているのは間違いなくアリョーシャだ。変に気を持たせたり、適当な答え方をすれば看守に話を持っていかれるかもしれない…動揺して声が震えないことを願いながら、何もかもが計算付くだったかのように返答した。
「あぁ…問題無い。もともとお前も定員に入っている…だが、誰にも言うんじゃないぞ!」
その後も計画がバレる危険性を減らす為ギリギリまで言えなかったとか、相手を納得させる“でっちあげ”を言うのに、自分でも驚くほど舌が回った。興奮しているアリョーシャを尻目に、今夜の計画に備えて再びベッドに横になったが、何となく偵察船にいた眼鏡の男が当り散らしていた気持ちが分かった様な気がする。
- 17 アフロ庚 2006/02/03 Fri 22:53:45
- 消灯時間から2時間近くが経過し、静まりかえった廊下から今夜のドラマが聞こえてくる。クソ面白くない上、サンド島ではペローの奴へ提出する報告書やらで忙しくて見てなかったが、今日の内容は知っている。戦死したとされる主人公が実は生きており、ある日ひょっこり帰ってくるのだが、自分がいない間に友人と女性整備員がくっついていた事を知り、驚愕に目を見開いるアホ面のアップから話しが始まるのだ。看守がボリュームを少し上げたようで、こっちの房まで「俺に何かあれば彼女の事をよろしく頼むと言ったが、ヨロシク楽しくやってくれとは言ってないぞ!」という怒りの台詞がハッキリと聞こえる。残念だが、勝手にくたばったお前が悪いんだよ。
通常の刑務所ならば自殺防止などの理由により、20分に一度見回りをするはずなのだが、看守の行動をこの数日間見ていた限り、この時間帯だけは収監者を監視することよりテレビを監視していることに忙しく、次の見回りまで40分以上あった。あんなクソドラマがこんな形で役に立つとは……。
そっとベッドから降りて脚を1本はずし、昨晩流し込んだものが固まっているかを確認した。猫砂の凝固作用でちゃんと中身が固まっている事を確認すると、次に部屋の中央にある電球のソケットをいじりはじめた。力を込めながらも音を立てないように捻り、ソケット部分が外れると、慎重に繋がっている電源コードを天井から引き出し始めた。途中で切れないことを願いながらコードを引っ張っていくが、2mほど引き出した所でいきなり切れた。あと5mは絶対に必要で、一瞬、絶望に包まれたが、起爆装置に電気が伝わればいいことを思い出し、鼠のようにコードのコーティング部分を歯で噛みはじめる。
途中で切れた電源コードのコーティング部分を噛み切って剥がすと、中身を一度バラし、縒り合わせて8本の2mコードにし、それらを更に繋げて2本の8mコードにした。何もかも歪な形だが、とにかく電気さえ伝わればいい。
看守の机から盗み、マットレスの裂け目に隠していた乾電池と豆電球を取り出すと、それを8m弱の延長されたコードと接続して電池と豆電球の状態を確認した。何の問題もなく豆電球が灯った。
次に必要なのは火花を散らす起爆装置の部分だった。こちらはこの豆電球を使うことになる。煉瓦壁のセメント部分をヤスリ代わりに豆電球のガラス部分を削っていく。音がしないように手元を毛布で包んだ上に慎重に削り、20分ほどで豆電球のフィラメントが剥き出しの状態となった。
念の為に見回りがいないか耳をすませたが、聞こえるは今夜の山場……というか“修羅場”に差し掛かっているドラマの音だけだった。口ではなく、拳でのケンカを始めた主人公達に女性整備員が泣きながら、「お願いだからやめて!」とか「どうして仲良くできないのよ!?」とかのお決まりの台詞を言っている。2人がケンカをする原因を作った張本人が何を言ってるんだか。
- 18 アフロ庚 2006/02/03 Fri 22:56:12
- 第一段階が完了し、本来ならば一人で進むはずだった第二段階の為にアリョーシャを静かに揺すって起こした。消灯前、労働で疲れていたのに起きていると言い張ったが、いつの間にか寝ていた。まぁ…体力が少しでも回復するならいいだろう。
「おい、起きろ。これから刑務所を出るんだろ」
双方の命が掛かっている状況なのに、学校に遅刻しそうな子供を起こすような間抜けな台詞だ。
「え…あ…そうだったね。その…こっちは何をすればいいんだい?」
こちらで準備を整えていたので、何もすることは無かったが、とりあえずベッドのマットレスを外してそれを部屋の隅で立てるよう手短に指示した。
ぼさぼさの寝癖がついているアリョーシャがせっせと防壁の準備をしている間、こっちは爆弾の仕上げにかかる。削った豆電球のフィラメントに細いコードを通し、極それぞれにコードを巻きつけ、この部分をラップで包んである小さなガソリン袋を破らないよう設置する。爆薬内でフィラメントをショートし、その熱でラップを破った後はガソリンに引火し、最終的には爆薬を起爆させる。
起爆装置のコード部分が外れないよう慎重に爆薬の中に埋めていき、それを終えた後はパイプの口を閉じる。何かの弾みで起爆部分が抜け落ちるのを防ぐという意味もあるが、口を閉じることによってパイプ内部での圧力が増し、多少の威力増加に役立ててくれる。工具などでキッチリ閉めなければならないが、そんな贅沢品は無いので、ベッドの下に置いて口を潰した。
細工をしていた壁の煉瓦を外し、スプーンの柄で数日かけて掘った穴にパイプ爆弾となったベッドの脚を挿入する。これですべての準備が整った。後は点火装置…などとは呼べないただ単にコードと電池をつなぐだけなのだが、これを繋ぐだけだ。
アリョーシャと一緒に立てかけたマットレスの裏に移動し、乾電池の一方の極にコードを接触させる。あとはもう一方を接触すれば理論的には爆発するはずだ。接触させる前、何か手落ちが無いか、頭の中でもう一度チェックしてみた…何も無い。あるとすれば塀を越えられるまで幸運の女神と握手し続けていることだろう。
- 19 アフロ庚 2006/02/03 Fri 22:59:55
- 衝撃が大きいこと覚悟していたが、ここまで威力が大きいとは思わなかった。爆発によって立ち込める砂煙の中、盾代わりにしていたマットレスを見てみると、吹き飛んだ煉瓦の破片によって、表の方は獰猛な獣の爪によって裂かれたようにボロボロになっていた。次いで、肝心な脱出路を見ると……見事な穴が開いていた。生きてオーシアに帰れたら、サバイバルコースの教官をやっている友人に“製品”の効能を堂々と説明してやろう。
アリョーシャの方を見ると、こっちと同じように五体満足だったが爆発の衝撃で倒れていた。
「おい、さっさと起きろ!逃げるぞ!」
アリョーシャの頬を乱暴に引っ叩き、腕を取って無理やり立たせた。もうここからは1秒毎すべての行動が命に繋がっており、さっきみたいに優しく揺り起こしてなどいられない。本人の感覚がまだ戻りきっておらずフラフラしていたが、こっちはベッドの搬出という仕事があるので毛布を拾ってアリョーシャに押し付ける。
「え?毛布?……これって?」
使用用途を伝えたが、聴力が回復していないアリョーシャは意図が判らず、疑問符いっぱいのアホ面で見返してきた。もう一度説明している暇などなく、一切無駄なく行動させなければならない。
「そいつを必ず持って来い!いいな!」
それだけ言うと、脚が一本無くなったパイプベッドを穴から蹴り出し、先に外へ出た。外ではまだこの爆発の原因が何かをつかんでいないようで、警報は鳴っておらず、サーチライトもデタラメな方向を指していた。穴の方を振り返ると、アリョーシャがヨロヨロと穴から這い出てきたが、あれほど持って来いと言っていたはずの毛布を持っていなかった。胸倉を掴んで怒鳴り散らしたいが、こいつは兵士ではなくただの一般市民だ。もう一度アリョーシャに中へ戻って毛布を取ってこさせた為、貴重な20秒が失われた。
「今度こそ、そいつを持ったままちゃんとついてこいよ!」
“資材”を持って走り始めた。傍から見れば何とも笑える場面だっただろう……パイプベッドを抱えたおっさんと、毛布を持った男が刑務所の中庭を走っているのだから。後ろを振り返ったが、監視塔からのサーチライトはこっちにやってきてない。
重たいパイプベッドを持っていた腕がすぐに痛み始めたが、歯を食いしばって200m弱を走りきり、そびえる灰色の壁にパイプベッドを乱暴に立てかけた。これで1m80cmの即席梯子が出来上がった。
数秒送れてアリョーシャが息をぜいぜいと切らせながら追いつき、パイプベッドを持ってきた真意が分かったが、その表情はすぐに失望で曇った。
「こんなこと言いたくないけど…どう見たってまだ2mは足りないぞ!」
最後の一手が足りないことで取り乱さなかったことを褒めてやりたいが、今はそんな暇はない。もう何を言わずアリョーシャが脇に抱えていた毛布をひったくると、パイプベッドの梯子を登って内側に傾斜した有刺鉄線に被せるように毛布を放った。毛布が有刺鉄線の針に引っかかり、垂れ下がった部分がロープとして、アリョーシャが嘆いていた「足りない2m」を補ってくれた。それを見ていたアリョーシャはまるで初めて手品を見た子供のようにぽかんと口を開けていた。
「お前から行け!下で梯子を支えてやる」
目的と方法が理解できたのか、アリョーシャはすぐに梯子を登りはじめた。滑稽で無様だが、自由が目の前にあるということが活力を与えているようで、梯子を登り切り、毛布をつかんで必死に体を持ち上げている。
アリョーシャが有刺鉄線を越えて外へ出られたのか、塀の向こう側から落下音と情けない声が聞こえた。こっちも同じように梯子と毛布を登りはじめる。有刺鉄線を越え、向こう側へ飛び降りる寸前、振り向くとようやくサーチライトが煙の出ている穴の開いた房を照らし、次いで警報が辺りに鳴り響いた。
- 20 アフロ庚 2006/02/03 Fri 23:00:36
- 1:00過ぎ?
2時間近くも森の中を走っていた為、休ませてくれと訴えるアリョーシャの頼みを聞いて、一時的に休みを取っている。30分ぐらい前に一度森から一本車線の田舎道に出ており、一緒にいたアリョーシャは「僕は自由だ!」とか「生き延びたんだ!」とかの喝采を叫んだが、残念ながら俺達はまだ自由から程遠く、喜ぶアリョーシャを引っ張りながら再び森の中に戻った。アリョーシャはこの行為に憤慨したが、刑務所からまだ距離が取れていない上、開けた場所に身を出すなど自殺行為だ。
- 21 アフロ庚 2006/02/03 Fri 23:05:40
- 3:00過ぎ?
アリョーシャの体力が限界に近く、再び一時休止を取る。脚を揉んでいる相手を見ながら、これからの手順について考えた。アリョーシャは“運動”とやらを一緒にやっていた連中にでも匿ってもらえればいいだろう。それでヤツは本当に自由を手にする。だが、俺の場合はユークから出なければ自由を手にしたとは言えない。
“国から脱出する”という、この段階が一番キツい。刑務所ならば脱走のみに集中していればいいのだが、国を脱出するとなると国境を越えなければならなし、それには安全で効力のある書類が必要となる。加えて組織的な追っ手がいるという点もあり、捜索の輪が広がり、弱い部分を突けるまで身を隠す場所も必要となるが、それには資金が必要だ。
考えるほど対処しなければならない要素が増えていき、こんなことなら2年前に基地で行われた緊急時の対応講義をもっと真面目に聞いておくんだったと後悔した。
敵陣の後方に墜落しCSAR部隊の直接救助が期待できない場合、出撃毎に作戦司令部が設定する“救出ポイント”まで自力で走破しなければならない。ポイントに辿り付きさえすれば定期的に上空を通過する衛星から自分が到着したことが本部の連中が知り、CSAR部隊が駆けつけてくれる算段になっている。だが、自分が捕虜になったのは戦争が始まる前なので、そんなポイントなどどこにも設定されていない。
仮に何らかの奇跡が起きて、ポイントが存在していたとしても、そこに行くまでが困難を極める。敵陣の真っ只中ということから当然、こっちを敵は追いかけてくる。追いかけてくるのが人間なら隠れる方法など幾らでも思いつくが、その追いかける方が犬を使っていた場合、途端に話が違ってくる。犬は人間の半分程度の視力しかないのに、嗅覚はその人間の100万倍という、泣きたくなるような利点を持っている。風、地形、天候などあらゆる要素が犬に味方した場合、こっちの臭いは2キロ先からでも嗅ぎつけられてしまう。
よく映画で川に入って犬の嗅覚をごまかす手法がとられているが、サバイバル教官曰く「あんなのはデタラメだ」との事らしい。空気中の臭いはすぐに風などで流されてしまうが、地面の臭いは条件が良ければ最低でも20時間はその場に残留する。仮に自分達の臭いを川に入るなどで一時的に誤魔化せたとしても、逃走行為そのものの臭いは誤魔化せない。
今こうして必死に森を抜けている際、草や植物を一歩進むごとに押し倒し、茎を折ってきた。そこから落ち葉の下の地面、生えていた植物に封じ込められていた臭いが放出されて周辺環境との“臭いの温度差”を生じさせる。一度目標の臭いが途切れても、この温度差から犬は追いかける目標がどっちに方向転換したかを知り、追跡を再開する。
犬の嗅覚に対して人間は不利なことばかりだが、頭を使えば勝てなくても十分に出し抜ける。それは犬にとって追跡が“ただの追いかけっこ”ということだ。追いかけている相手が知っている軍事機密がどうとか、そんなことを犬が理解できるはずがない。目標の臭いのついた服が地面に落ちていた場合、犬は目標に追いつき勝ったと思って追跡をやめてしまう。犬に試合が続行中だということを理解させ、もう一度追跡を始めるのは意外と手間取る。
ナガセのヤツが持っていた本に、強欲のいじわるババアによって森に捨てられた兄妹が自分達の服を少しずつ脱いで腹を空かせた熊の追跡を逃れる童話があったが、似たような状況にあってもこの案は採用できない。追跡している連中から十分距離が取れた次は、街で人込みに紛れる必要があるからだ。とにかく今は逃げることだけを考える。
溜息を吐きながら、背中にたくし込んでいた獄中日記を取り出した。ハッキリ言って…こんなにも早く“これ”を使うとは思ってなかったが、追っ手は間違いなく犬を使うだろう。こういう状況になった場合の切り札として、子供がぬいぐるみを持っているように肌身離さず持ち歩き、寝る時も背中に入れていたので、十分に俺の臭いが染み込んでいるはずだ。やれやれ…生きて帰れたら自伝として出版し、退職金の足しにでもしようと思っていたんだが…。
そろそろアリョーシャも十分に休憩が取れただろう。この日記をそこら辺にバラ撒いたら、再びあいつとマラソンの時間だ。
- 22 アフロ庚 2006/02/03 Fri 23:07:13
- 中央情報庁長官宛 中間報告書
グルビナのP.O.Wキャンプに移送予定だったオーシア空軍所属のジャック・バートレット大尉は収監されていた刑務所から脱獄、本日に至るまで未発見である。現在も追跡チームを周辺地域に展開、捜索に当たらせているものの、発見されたこの日記から判断する限り、逃走者が非常に高いサバイバル技術を有しており、発見は困難と予想される。
脱獄したのが大尉一人ならば事態解決は容易と判断できたかもしれないが、問題は彼と一緒に脱獄した囚人がレジスタンス活動家だったという点にある。オーシア空軍の大尉とこのレジスタンス活動家が連携を取った場合、我がユークトバニア軍全体おける今後の作戦行動に支障が生じる可能性があると思われる。
2名が逃走しすでに4日が立っており、この日記以外に有力な手がかりが無いことから当チームの人員では捜査力が限界に達していると判断され、情報部に対し―――
- 23 アフロ庚 2006/02/03 Fri 23:20:09
- …あとがき…
何とか短くまとめようとしましたが、前作の4倍…長々と書いてしまった作品を最後まで読んで頂きまして、本当にありがとうございます。
今回の話のキッカケですが、冒頭でも書いたようにバートレット大尉が捕虜第一号から脱獄第一号になった経緯がゲーム内では数行で片付けられており、またあの性格で(失礼!)レジスタンス活動家とどうやって知り合ったのかが不明だったので、強引な解釈かもしれませんが、一緒に脱獄したという設定で書いてみいました。
今回も例によって誤字や表記の仕方など、書く上で反省する点が多くありましたが、次回作でそれを生かせるようにしたいと思います。