Interlude | |||
Mobius様 Puyo2様 Lightning1様 northowl様 セル様 小沢 公成様 hir様 Grandmort様 inthewings様 黄色の26様 |
INTERLUDE #01 | |
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子供のころ 星が降った夜を 覚えている 隕石を撃ち砕くために むやみに大きい大砲が作られ それをめぐって 戦争が始まったことも 戦争など 遠い国の出来事 テレビの中の物語に過ぎなかった あの夏の終わりの日 ふいに身近に姿を現すまでは いつものように学校に向かう道 私は空を見上げた 遠雷のような轟き はるかな頭上 飛行機雲たちが 互いに回り込みあい 複雑なループを描いていた 美しく遠い空の戦い 私は 飽くことなく ながめ続けた 轟音 背後の丘をかすめて 先鋭なシルエットがよぎる 追いつ追われつ 急上昇していく戦闘機たち 逃げる機が 炎とともに揺らぎ 湖につき出た岬へと 堕ちていった 我が家のあった場所 なつかしい家族は もはや記憶の中にしかいない 戦果を確認する 撃墜者の機体に 黄色で『13』の文字が 描かれていたことを 私は けっして忘れない 敵軍は進撃をつづけ 連合軍とやらは 海の向こうに退き 私たちの町は 大陸の中央にあって 深い孤独に取り残された |
INTERLUDE #02 | |
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戦争は瞬く間に進んだ いつの間のことだったのだろう 西から来た軍隊に 町が占領されたのは 私は そんなことにも構わず 来る日も空を見上げ あの『黄色の13』を 見つけようとしていた 気がつけば 全てが変わっていた 学校で習う言葉・・・ 呑気な町の巡査は 姿を消し 外国の憲兵が代わって立った はじめのうち人々は パラボラアンテナを掲げ ノースポイントからの放送を 見ようとしていたが やがて 衛星が破壊されたのか 何も映らなくなった 軍事用以外のすべての コンピューター・ネットワークは 遮断され 占領下の市民へのガソリン供給は滞った 21世紀のこの世が 鉱石ラジオと 荷馬車の時代に 逆戻りした 私は 町中に住む叔父の家に 身を寄せていた ガソリン無きタクシー運転手である 叔父は 仕事も無く ひたすら酒に溺れていた 私は 近所の酒場で 得意のただひとつ得意であるところの ハモニカを吹いて 意地悪な占領兵の施すチップを得ては 叔父の家計を 助けねばならなかった 叔父は敵兵相手に商売する 酒場の親父の陰口をたたきながら しかし 私の持ち帰る 日々の実入りを 拒むことは けっしてなかった 私は−といえば 実のところ 少しばかり年上の 酒場のひとり娘に 心奪われていた 「黄色の13」を記した戦闘機は 今日もこの町の空に現れない |
INTERLUDE #03 | |
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ある夜 突然 陽気な一団が 酒場へなだれこみ 陰険な陸兵たちを追い出して その場を占領した 私にだってわかった 彼らの袖のワッペンは 誇り高き航空兵の徴だ 冗舌な中年男が 各人の本日の戦果と これまでの撃墜数を発表してゆく 累積撃墜数が5機に達した者は 頭から 酒と 称賛と やっかみを 浴びせかけられた 5機墜とせば “エース” と呼ばれるのが 彼らの習わしらしい それらが ひとわたり済んだあと その男−中隊副官の准尉が言った 「そして 我らの隊長の 本日の戦果!」 騒ぎをよそにギターを爪弾く 寡黙な男を 皆は振り返った 先程から 私は このギターの音色が 気に入りはじめていた 「我らが『黄色の13』は 今日も3機を墜とし -」 ギターの男は 少しはにかんだ 顔を私に向け 私はハモニカをくわえ 彼は新しい曲を弾き始めた 私は ついに『彼』を見つけたのだ そして − だが何故かそれは |
INTERLUDE #04 | |
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町外れの麦畑に 建設中だった 高速道路 その建設が決まったとき 町長が得意げに演説したことを覚えている ただ 町の横を素通りする だけの道であったのに それが 占領軍の野戦滑走路となり 工事途中のトンネルが 掩堆壕となっていた それが「彼ら」の基地だった 彼らは あの落ちて来る小惑星を 撃ち落すために作られ 結局はこの戦争を引き起こす 元となった 大砲を防衛するため選りすぐられた飛行中隊 訪れる敵機も絶えた今では 時に応じ ほかの戦区にも 派遣されていた 私は『黄色の13』に向けるための ナイフをしたためた 酔った敵兵の懐を狙い 拳銃さえ手に入れた 面と向かって 突き付けるべき 言葉も胸にした だが それらを携えたまま 『13』に近づくことは 出来ない いつもそばに控える 二番機パイロットが 穏やかな表情のうちに 地上にあっても 一切の危険を彼に 近づけぬ態度を 毅然と示していた 彼らのかなめである『13』の犯し難い横顔 常に5機だけを選んで飛び 自らの撃墜数より すべての列機を 必ず連れ帰ることを誇りにする男 彼の操縦が どれほど優れていたか 私がそれを語るのは難しい だが 一度だけ たしかに 地上から目にした 同じカーブ同じタイミングで 旋回する5機編隊で 彼の機だけが 鋭く飛行機雲を引いたのだ 自分が墜とした 弱すぎる敵を 哀れむその心 いつの日か 対等の敵が現れ 技の限りを尽くせるなら たとえ墜とされても 恨むことはない 彼自身がそう言ったのだ 長い時間を彼らと過ごすうち 私は やがて彼らの中に 家族の居心地を見つけている 私はもう 彼らの間を離れられない |
INTERLUDE #05 | |
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いつしか私の保護者であるはずの 叔父は 姿を消していた 酔ったあげくの不穏な言動で 秘密警察に連れ去られたのか 自ら失踪したものか 寄る辺をなくした私は 黄色中隊の一員のように暮らしている 敵兵相手に商売し 皆から軽蔑される酒場の親父は 実は 一家そろって 抵抗運動のメンバーで 客に来る敵兵から 情報収集をしていたのだ 彼女は 私をかばった だがそれは 私の幼さゆえのこと 実は英雄的だった酒場の一家 それにくらべ 敵の中に 安住の場所を見つけている私 |
INTERLUDE #06 | |
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「もうすぐよ もうすぐ始まるから」 酒場の娘は 私に耳打ちした 抵抗運動の一員である彼女は 連合軍の大陸進攻を 心待ちにしている 「助けが来たら この人たちはどうなるの?」 私の問いに 彼女は顔をしかめた 「もちろん追い出してやる! 私たちの町から!」 だが・・・・・・彼女が 心底そう望んでいないのを 知っている 彼女は『13』に心を寄せていた そのくらい 二番機を 見つめる 彼女の嫉妬の目でわかった ほかのパイロットは入れ替わっても 替わることのない 不動の二番機 彼女は 隊内唯一の女性であり 『黄色の13』から 絶対の信頼を おかれた 護衛機なのだった 『13』は いっさいに無頓着に 昨日の空戦で現れた敵の “見所ある奴”の 飛びっぷりを寸評している 「もう少しだ」 「こいつ もう少し生き延びれば 俺の前に出られるほど上手くなるのだが」 だが敵に そんな幸運などないと 『13』の目が 悲しんでいる |
INTERLUDE #07 | |
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陸用爆弾が 彼らの基地に運び込まれる あんなもので戦わねばならない相手が 来たのだ 中隊の滑走路が 抵抗運動に破壊された 『黄色の4』が軽傷を負った 滑走路は 補修できるが 予備機材がやられたのは痛い 連合軍の上陸以来の混乱で 補給は絶え絶えになっていた 整備長が 私などを相手によく そうこぼしていたから知っている 「上がってからのことは恨みっこなしだが 飛ぶ前にやられるのは腹が立つ」 『13』の気持ちは 私にもよく分かる ストーンヘンジ空襲の報が入る 『4』も上がって行く 爆装などしない 軽々とした身で だがそれは交換すべき部品を 取り替えぬままの機体だったのだ |
INTERLUDE #08 | |
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『4』を失い― しかし 決して表には出されぬ『13』 の悲しみ 私はそれを知ってしまった 彼は 静かに 『4』の遺品の ハンカチを見つめていた 私に見られていることに 気づいた彼は言った 「理由はどうあれ―」 「不調機で上がった者に文句は言えん ―どんな場合でも」 「操縦者が自分で負うしかないことなのだ」 それから彼は 彼女と出会ったころの話を始めた 教官だった彼に教え込まれる前の まだ戦う操縦士ではなく ただの娘だった彼女の話を それは誰に向けた言葉でもなく― しかし この世に語り残して おかなければならない 大切な記憶として 彼女が残したハンカチの かすかな香水の香り 中隊のパイロットも大分入れ替わった 熟練者は 他部隊に引き抜かれ 飛行時間の足らぬ新人ばかりが 補充される 『13』は司令部からファクシミリで 届いた連合軍の新聞を張り出す ストーンヘンジを破壊した パイロットを称える記事だ 『13』は言った (『13』が記事を叩く) 「称えるに値する」 「敵にもこういう奴がいる」 「姑息な破壊活動をする ヘドの出る連中ばかりではないのだ」 酒場のひとり娘の顔が歪むのを 私は じっと見逃さない 私たちの町を目指し 連合軍が近づきつつある |
INTERLUDE #09 | |
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連合軍の進撃に追いやられ 撤退してきた諸部隊が 町にあふれる 病院の屋上に陣地を築いた高射部隊に 『13』は静かな怒りを燃やしている 灯火管制で 明かりが絶えて久しい 夜の町 酒場の娘は 爆撃誘導用のレーザー発振器を仕掛けようとして― 敵に発見された それは『黄色の13』だった 彼は知ってしまった 中隊の滑走路を爆破した者の正体を 憎むべきスパイは 身近な者だったのだ 「僕らの町を出て行け 侵略者め!」 私は そんな言葉を口にしていた こんなにも歪んだ彼の顔を はじめて見た 「そんなに 俺たちが憎いか」 私たち二人とも かぶり振ることも うなずくことも出来ない 長い長い時間ののち 彼は言った 「行け!」と 翌日からも彼の態度は変わらない 質が落ちた燃料のせいで 吹き上がりが悪いと 相変わらず 整備長に注文を付けている 連合軍が間近に迫ったとき 抵抗運動の手で 町の灯火管制は 一斉に解除されることになっている |
INTERLUDE #10 | |
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−歌声 町は解き放たれた 夜間空戦の時 低空機に俯角射撃し 町並みを吹き飛ばした高射砲兵が− 市民軍に捕まっている 『彼ら』も撤退し その棲み処は もぬけの殻でしかない 久しぶりに 連合軍機が頭上を飛んでいる 『13』が待ち望む 運命の敵機も− もし 二機が出会ったなら 何が起こるのだろうか 私は 敗走する敵兵に交じって 中隊の後を追う |
INTERLUDE #11 | |
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『黄色の13』の肉体は大空に消え 地上に戻ることはない 彼の消えた空中から ただ一枚の ハンカチが舞い落ちるのみ うっすらとした香水の香り。 はるばる中隊のあとを追って来た 酒場の娘と私は それぞれの思いとともに ハンカチを埋めた それが『13』の墓なのか 『4』の墓なのか もはやどちらでもよい 彼らの記憶は混沌となり ひとつの夢となって 現実の舞台を去った その日 降伏勧告が受諾され 戦争は終わった |
INTERLUDE #12 | |
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心地よく鼻をくすぐった ジェット燃料の 燃える匂いもかすれ果てた 『黄色中隊』の野戦滑走路も 今では ただの自動車道にすぎない 私は今 手紙を書いています あのむなしかった戦争の最後に あなたのような好敵手と巡り会えたのは− 彼には 望外の喜びだったに違いない− せめてそう信じたいものだと− それを確かめる相手は 彼を墜としたあなたしか残らない だから こうして あなたへの手紙を−− |