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AceCombat5 -Untold Story-

No.95
1 アフロ庚 2006/01/14 Sat 23:58:32
はじめまして。こちらに掲載されている皆様の小説を読み、触発されて投稿することにいたしました。満足いただけるかは分かりませんが、宜しくお願いします。それとちょっとした伏線から主人公の名前は最後に明かさせていただきます(途中でバレると思いますが…)


 紙や乾いた布は水を…確かこれは毛細管現象によるものだっけ?しかし…水が水を吸い取るってのは見ていて奇妙なもんだ。…いや、この場合は雪か。そんな独り言を言いながら倒木にもたれかかっているパイロットは自分の脚を見ていた。
 地面に積もった雪が脚から血を吸っているようで、赤い色が雪の上に不気味な円を描いている。脹脛の傷口には一応の応急処置がなされていたが、寒さから手に力が入らなくなり、充てていた止血バンドを抑えられなくなってからかなり経っている。
2 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:01:09
 こんな状況になったのは彼が撃墜されたからではない。戦闘機乗りにとって、空を飛んでいる自分たちを墜とせるのは4つの存在しかいない。1つは、自分たちと同じようにミサイルと機銃で武装している敵機と呼ばれる存在。2つ目はエアポケットや落雷といった悪戯心を起こした天候、3つ目はエンジンに突っ込んでくる自殺願望のある鳥…続にいうバードストライク、そして最後が怠慢という悪徳を持った機体整備員。彼の場合、墜落原因となったのは3つ目のバードストライクであった。
 もともとオーシアの北方に位置するハイエルラーク練習飛行隊で突出した成績をを持っていた彼は、オーシア空軍の中でもエースの人口密度が高いオーシア国防空軍・第128特殊戦略飛行隊への配属濃厚と仲間内から囃し立てられていたが、何の因果か5日前にオーシア本土からは遠い第108戦術戦闘飛行隊…通称サンド島分遣隊への配属を宣告された。出世に関しては特に意識していなかった彼だったが、週に数回の哨戒飛行以外は砂浜と椰子の実ぐらいしかない国境の島へ文字通り飛ばされることに関しては憤りを露にしていた。
3 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:02:40
 サンド島へ配属直前、ハイエルラーク最後の訓練となったこの日、ACMI/Rを付けての空中戦訓練で彼はボヤいてばかりで、終いには隊長機からは「うるさい独り言はやめないと叩き落すぞッ!」とどやされた。無論、これはやかましい部下を黙らせる一言だったが、それは別の形で現実となった。模擬戦終了後に飛行場へ戻る最中、雲を抜けたところで機体下から突然、越境中の渡り鳥の群れに突っ込んだのだった。回避行動をと、思う間も無くガツンと機体の下から音がし、機体が制御を失った。
 彼はF16のコントロールを取り戻そうと操舵棹を必死に操作したものの、ガリガリと金属同士が歯軋りする嫌な音がし、エンジンが完全にイカれてしまった。内部で破砕された破片が油圧系統にまで及んだのか、F16は叱られた子供のように頭を下げると猛スピードで下降しはじめた。
 機首を引き上げようにも手段が無く、仕舞いには串で焼かれている豚のように機体がロールしはじめた。このままでは脱出すら出来なくなると思った彼はレバーを引いて脱出した。
4 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:03:57
 雪のお陰で衝撃がほとんどが和らげられ、着地した時には傷ひとつ無かった。だが、彼はこの時、一つ手順を間違えてしまった。着地後は何よりも先にパラシュートを畳むか、外すなければならなかったのだが、どことも知れない雪山の中に着地した彼は、脱出の衝撃でベルトキットが腰から取れてないかを先に確認したのだった。時間にしてせいぜい3、4秒程度の差だったが、それが決定的な差を生んだ。森の奥から突風が吹き、それに煽られた彼はまだ装着したままのパラシュートに持っていかれた。何十メートルもひっくり返され、引きずられながらも何とか切り離すことができた。
 散々引きずり廻された際に首から入った雪が背中にまで入ったことに悪態をつきながら立ち上がろうとしたとき、足に違和感を覚えた。見下ろしてみると、フライトスーツが縦に裂け、脹脛からダラダラと血が流れていた。この時、パイロットは心のそこから悪態をついた。着地後に大怪我をしたなど冗談でしか聞いたことがない。
5 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:04:37
 彼はベルトキットからカーレックスと包帯を取り出し応急処置を取り出してみたものの、どうみても傷口の方が大きかった。しかし、何もしないよりかはマシだ。応急処置をしながらハイエルラークに配属された時に全員が受けた寒冷地サバイバル・コースの教官が新入りを怖がらせる口調で話していた講義内容が思いだされた。
 冷気・冷水によって体温が奪われる低体温症は言われている以上に恐ろしい現象である。手足の感覚が少しずつ奪われ、これが悪化すると腕や脚の感覚が消失する。こうなると、登山中にどこかのクレパスに落ちたケースを考えると、自力でロープを登るなど不可能となる。助かりたいものの、思考がまとまらず、呼吸や脈拍が弱くなる。体温が30度を切ると、それまで熱を発生させようと筋肉を震わせていた機能が失われる。これは人体が生きるのに必要最低限の箇所に血液を集中させる為、手足などの末端部分を切り捨てる段階に入ったことを意味する。
6 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:05:34
 ここから更に体温が下がると手足が完全に言うことをきかなくなる。脈拍、呼吸、血圧がどんどん下がっていき、最終的に冷えた血液が心臓に流れ込み、文字通り命が凍死する。寒冷地用の防寒着があれば遭難したとしても命は数時間は延びる。テントなどといった本格的な装備にてビバークすれば数日間は持つ。無論、これは助けが間に合った場合の話しである。
 ベルトキットに入っていたナイフでパラシュート・ハーネスの切り、自分の血ですでに赤く染まり始めている包帯の上から止血帯として絞めながら、着地はこれ以上ないくらい決まったのにと、思い返す。基地の小うるさい教官も10点満点を出したはずだ。しかし、手順を3秒ほど違えたおかげでこの様になるとは…。
 彼は止血帯として絞めていたハーネスの具合を確かめようとしたが、ふいに顔をあげた。森の奥に何かの気配を感じたのだった。低体温症が進むと幻覚を見るらしいが、寒さでもう脳ミソがおかしくなりはじめたのか?こんな雪山では人どころか動物だって大人しくしているだろう。目を凝らして吹き荒れる吹雪の中を見渡したが何も見えない。
7 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:06:35
「誰か…いるのか?」
自分の脚の傷口から登ってくる死の恐怖とは、違う恐怖が声を上げさせた。
「おぉい、誰かいないのか!」
いる……はずがない。14年前、ユークのバカどもが核を7発も炸裂させたせいで周辺地域の気候がおかしくなり、6月でもこんな吹雪が荒れ狂う山に誰が来るか…。麻痺が大腿部まで這い登ってきた。これは出血が原因か?それとも寒さか?どっちにしたってこのままでは失血死だ…いや、下手をしたら凍死とのダブル・パンチなんて笑えない事態になるだろう。
 戦争でもないのに、墜落したことがとても腹立たしかったが、それ以上に残念でならないのが一機数十億もする機体が自分から離れた雪山のどこかでブチ壊れ、優雅な機体が残骸として転がってることだった。使い古された練習機とは言え、彼はあれで飛ぶのが大好きだった。特にCAS演習では模造の建物や格納庫、停泊船舶を爆撃するのが愉快だった。それが、どこぞの前方不注意のクソ鳥のせいで、オシャカにされちまった。
 くそ…何でここはこんなにも白いんだっけ?再び何かの気配を感じたが、もう最初の時とは違ってあまり気にならなかった。
8 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:07:56
 雪の上に直に座っていると20倍も早く体温を奪われるが、もうそんな教官の注意事項はどうでもよく、彼は雪の上に座り込んで血を流し続けていた。
 辺境の島基地とはいえ、来週から俺は練習生ではなく、マジもんのパイロットになるはずだったのに…。それがこんな形でくたばるなんて…死ぬにしたって機体に中でってのは高望みなのかい、神さまよ〜?
「見ろよ!ラッキーな野郎だぜ!」
 この世で最後になるかもしれない独り言を考えてる最中、何だか浮かれた声がした。ここはユークのバカどもがこしらえた雪しかないはずなのに…きっとラーズグリーズの旦那だな。ガキの頃にばあ様から聞かされた話から、もっと遠雷のような――辺りに響き渡る厳粛な声の持ち主かと思っていたが、「ラッキーな野郎だぜ」ではまるでアクション映画で真っ先にヒーローにブチのめされる悪役1みたいだ。しかし…ラーズグルーズがどんな性格をしてるかなんて島流しのパイロットにわかるわけない。
9 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:08:37
 周囲では身を切るような風が更に激しさを増し、地面に積もった雪をもう一度空中に吹き上げ、パイロットの残り少ない体温を削っていた。いくら寒冷対策コースを受けたからといっても、それはパイロットに万が一のヤバイ事態になった場合に、生存時間を多少ばかり延ばしてくれる程度の講義内容で、そこには冒険活劇をすることまでは含まれていない。…生き延びる為には風を避けなければならないが、もうどうすることもできない。
「おいおい、飯をほっぽり出して来たんだから、死なないでくれよ」
 吹き荒れる真っ白な吹雪の中からいきなり濃いオレンジの防寒スーツを着た男が現れ、背中のバックパックを下ろしながら屈みこんできた。朦朧としはじめた意識の中でその男の腕に聖蛇のマークが描かれたオーシア空軍戦地捜索救助部隊の赤いパッチが縫い付けられているのが見えた。それからすぐに同じような格好をした後続の3名も現場に合流した。
10 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:09:53
 知っている。彼らのことなら基地の同僚から聞いたことがある。飛行機が落ちる場所や状況は多岐に渡る。それは今回のような雪山だったり、海上だったり、ジャングルだったり、あるいは敵陣のはるか後方などという場合もある。救助部隊の標語となっている「Anytime Anywhere」は決して誇大広告などではなく、隊員達は谷をよじ登り、崖から飛び降り、砂漠を横断し、落ちたパイロットを探し出し、生きて連れ帰ることを徹底的に叩き込まれている。
「何も心配はいらねーぞ。もう家に帰れたも同然だからな」
 最初の男が到着したばかりの部下にてきぱきと指示を出し、自分のバックパックから色々なものを取り出しながらパイロットに語りかけた。これ以上マヌケな姿を晒したくなく、何か言おうとしたが舌が凍りかけているようで、ほとんど何もいえなかった。
 まだ救助部隊が現れてから数分程度しか経過してないが、脚の傷口は新しい包帯と副子器によって固定され、腕はいつのまにか断熱材でくるまれた輸血パック、加温輸液からの点滴を受けていた。
11 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:11:12
 3番目にやってきた隊員が担いでいた寝袋つきソリのような搬送用スキッドボードに寝かせられ、別の隊員が化学発熱材を取り出し、中身の化学反応を促進する為にパッケージを振り、寝袋の中に突っ込んだ。発熱材の熱によって雪山に落ちてからようやくまとも暖が取れた。
 寒さから抜け出したパイロットの周りでは、すでに隊員達が帰る準備を終えつつあった。
「こちらヒュゲイア64、雛鳥を確保した。繰り返す雛鳥を確保」
「こちらシー・ゴブリン、10-4。ETAは?」
「ETA20分。雛鳥をひっぱて行くから少しかかるかもしれん。ヒュゲイア64アウト」
「10-4、シー・ゴブリン、アウト」
 最初の男が無線で自分たちを現場近くまで運んで来たであろう救難ヘリに状況報告を終え、去り際に抜かりがないかをチェックしてから「行くぞ」とだけ言い、パイロットを乗せたスキッドボードは動き始めた。
12 アフロ庚 2006/01/15 Sun 00:12:36
 2名がスキッドボードの引っ張り、残りの2名がバランスなどの為に側面にあるナイロンの紐を持った。スキッドボードの載せられた彼は…アルヴィン・H・ダヴェンポート、仲間内からは“チョッパー”のコールサインで呼ばれているパイロットは、死の淵から帰ってきた者の大半がするように、自分が死に掛けていた現場を見ようと、少し首を起こした。そして、そのとき確かに見た。森の奥に6本脚の黒い馬に跨っている騎士を。兜のせいで表情はまったく分からなかったが、森の奥からじっとこちらを見ている。
 …もう助かったんだからいい加減幻覚は勘弁してくれよ。しかし…まぁ、あそこにいるのが仮に幻覚だとしても…。
“チョッパー”は寝袋の隙間から手を出すと――騎士に中指を立て
「今回は俺の勝ちだぜ…ラーズグリーズ」
と呟いた。
「何か言ったか?」
横で点滴バッグを持っていた隊員が“チョッパー”の行為を計りかねて尋ねてきた。
「いや、何でもない…何でもないんだ」

 病院へ搬送後、適切な治療を受けた“チョッパー”は凍傷を負っていたものの、手足を失うことなく職務へ復帰する。そして訓練中の事故から1年後の2010年8月、彼は第108戦術戦闘飛行隊(通称:サンド島分遣隊)への配属が改めて実行された。そしてサンド島への配属から数ヵ月後……彼はオーシア南海岸ノヴェンバー上空で再びラーズグリーズの姿を見ることとなる。
13 アフロ庚 2006/01/15 Sun 01:09:55
…あとがき…
 いきなり脱字をやってしまいました(汗。頭の「紙や乾いた布は水を」の後に
「吸い取る」とあるんですが…次作をやる際はもっと注意します。
 っで、この話を書いたキッカケですが、AC5のゲーム中で主人公サイドの唯一
の殉職パイロットとなった“チョッパー”ことダヴェンポート大尉になぜ撃墜された
かを色々と考えており、某RPGゲームにあった“死の宣告”のようなことがあった
ではと思い、創作に至りました(ゲーム初登場の時に戦場にお調子者という組み
合わせで死亡フラグが半分立ってるな〜とは思ってましたがw)。
 短い内容ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
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